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12 ついにル魔恋のメイン舞台へ!

 

 入学式当日。ルミナリア魔法学園の荘厳な礼拝堂では、純白の制服に身を包んだ新入生たちが緊張した面持ちで整列していた。


 その中で一人、後方の端に座るアネットは、手帳を膝にそっと広げ、ページをめくっていた。




(完璧……!これぞ、理想の三角配置!)




 レイ王子、その隣に桜子、そしてさらにその隣にノクスという席順。

 左右からヒロインに意識を向ける構造、自然な会話導線、緊張と保護のバランス。


 そう、これはアネットが入学前に“学校に提出した席順案”によって、仕込んだ出会いの舞台。


(これで、ヒロインとレイ王子はお互いに心奪われるも、実は隣のノクスもヒロインに心を奪われていて……ってシチュエーションが完成する!)




 そのとき──。




「……アネット」


 背後から低く声が響き、アネットの背筋が凍る。


「っ……レイ王子!?」




 声が裏返った。

 アネットの視線の先には、王子が鋭い目を細めて立っている。

 その後ろには、表情を変えずにこちらを見つめているノクスもいた。




「なぜ、僕とノクスの間に、あの子が座ることになっているんだろうね?」




「えっ、それは……ええと……」


「あれ? もしかしてアネット……“あの子”を知ってるの?」


「し、知りません! 知りませんけど、雰囲気です雰囲気! 未来の気配!」




(まずい! この並び方が不自然って気づかれてる!?)




「それに、校長が“新入生から提案された特別な座席案”って言ってたけど……」




「そ、それも私じゃありません! 誰かが、何かを、勝手に……!」


「……アネット」


「は、はいっ!?」




 王子の目が細くなる。


「変なこと、企んでないよね?」




(やばいやばいやばい……このノートだけは死守しないと……!!)




 焦ったアネットは反射的にノートを閉じ、ぎゅっと胸元に抱きしめた。


「私はただ、平穏な学生生活を送りたいだけです! それ以上でもそれ以下でもありません!」


「へぇ……それとこれ、どういう関係があるんだろうね」




 ノクスは一歩前に出て、アネットのノートをちらりと見下ろす。


「“開幕イベント:偶然隣り合った三人の運命”……?」


「それはあの、えっと……ポエムです! ポエムですのよ!」




(……言い訳が下手すぎる……なんでポエムにしちゃったの!?)


 ノートの中には「恋愛イベント進行表」「出会いの台詞予想」「お似合い度チェックリスト」など、見る者が見れば確実に変人扱いされるメモの嵐が綴られている。



「アネット様、"また"何か企んでるんですか?」


「そそそそそ、そんなことないわよ、ノクス!」


(このノート、見られたら絶対に終わる……!!)


 レイ王子は小さく肩をすくめたが、それ以上は何も言わなかった。


 だがアネットは、レイ王子の目にうっすらと浮かぶ“確信”の色に気づいていた。


 ──これは、完全に疑われている。






 そして──アネットが思い描いた“完璧な配置”の席に、桜子がちょこんと座ったその瞬間。

 彼女はふと振り返り、アネットの方を見て、にこっと微笑んだ。




(だ、大丈夫よ……この配置なら、自然と恋が始まるはず……!)




 その時、式場の壇上に校長が現れた。




「本日は、アネット・フォン・ベルフェリア殿の提案により、特別に“平民貴族関係なく、平等に配慮した座席案”を採用しております。ありがとうございます」




(あばばばば、名前っ、言っちゃってるーーーーーー!?)




 自分でも分かるほど、顔が真っ赤になる。

 ザワザワと騒がしくなる周囲「さすがアネット様……」や「レイ王子の婚約者は慈悲深い方」だとか……聞こえてるんですけど。



 前の列では、桜子が振り返りながら微笑んでいた。


 そして両横には、ジト……とこちらを見つめてくるレイ王子とノクス。


 ──ちなみに、私が一番恐れていたのは、


(……これでレイ王子と桜子の恋が進まなかったら、全部私の責任になるのでは……!?)


 ということだった。




 そして、その懸念は、数分後に現実のものとなる。


 入学式を終えたあと、礼拝堂の外の庭に出たところで、再び桜子と出会った。


 ヒロイン――桜子(ちなみに私の前世の名前)

 長い淡い桃色の髪に、宝石のような紫がかった瞳。どこかホワホワとしていながらも、物腰は柔らかく、周囲の視線を自然と引き寄せる不思議な雰囲気。

 そして、生まれは貧しい平民の花屋……それなのに努力で魔法の才能を伸ばしていた。という頑張り屋な一面も。


(この透明感……さすが、攻略対象たちの心を掴む存在ね……!)




「ベルフェリア様!」


 ぱたぱたと走り寄ってくる桜子の姿に、思わず緊張した。


(これは……! 初期接触イベントその2、『入学式後の偶然の再会』ここで王子の話題を出せば、きっと意識し始めるはず!)




 アネットはすかさず手帳をポケットに隠し、桜子に向き直った。




「桜子! 今日は緊張したわよね。でもお隣のレイ王子とノクスといい雰囲気で──」



「え? わたし、あの方々とは一言も会話をしておりません……」


「えっ……!?」


「どうしてか、ずっと後ろの方ばっかりチラチラ見てた気がします」




(えっ!? なにしてんの二人とも!? せっかくのヒロインとの出会いの場なのに……!)




 そして桜子は、きょとんとしながら私の目をじっと見つめた。


「ベルフェリア様こそ、……わたしの髪の毛が綺麗だって、前にも言ってくれましたよね。すごく嬉しかったんです」


「い、いえ、それはその、うっかり……!」

「では……あの言葉は本心ではなかったのですか……?」


 うるうると涙をうかべ、泣きそうな目でこちらを見つめてくる桜子。


 うっ……あざとい……これを素でやってるのがもう……さすがレイ王子とノクスのハートを射抜くであろうヒロイン……


「ち、違うわよ! ただ、桜子にはもっといい殿方が……私みたいな悪役令嬢に言われるより、その方々に言われた方が嬉しいでしょう?」


「え……わたしは……!」


「そういえば、レイ王子のことどうだった?」


「えっ……? はい、とても……あの、優しそうな方でした……」


「そうでしょう!? レイ王子は、まずあの端正な顔立ちがもう完璧ですし、品格と礼節に溢れた立ち居振る舞い、それから――」



 思わず身を乗り出し、饒舌になった。


「学園の中でも最も魔力制御に優れた存在で、しかも剣技も完璧、騎士道精神も持ち合わせているの! 寡黙に見えて情熱家、困っている者には必ず手を差し伸べ、何より、ほら、あの微笑み……!」


「は、はあ……」


「それからノクスも、レイ王子の従者でありながら独立した実力を持っていて、普段は無口で無愛想に見えるけれど、よく見てるとたまに感情がこぼれる感じがたまらなくて……!」


「ノ、ノクス様とは……?」


「そうでしょう!?そうなんですのよ!!」


 二人の魅力のせいで話についていけていないのか、戸惑う桜子。


(これで完璧! 桜子の心に、二人の素晴らしさがじんわりと染み込んでいくはず……!)




 ところが、桜子は突然、手をぎゅっと握ってきた。


「ベルフェリア様っ!」


「ふぇ?」


「ベルフェリア様がそんなにお二人のことを好きだなんて……私、知りませんでした……」


「え? いえ、違っ……」


 や、やばい……泥棒猫だと勘違いされた? でも違う! 私はヒロインの邪魔なんてしない! それに、二人のことはヒロインの攻略対象としか見てな……


「でも大丈夫です! 私はベルフェリア様の恋を、全力で応援しますから」


「──ち、ちがっ……」


「ベルフェリア様には、両方似合います! そのノクス様という方も、レイ王子も!」


「いや、だからそれは……っ」




(なんでぇぇぇーーーーー!?!?!?)




 絶望したように天を仰ぐ私の目の前で、桜子はにこにこと力強くうなずいている。




(やばい……! ヒロインが妙な方向で燃え始めてしまいってる! しかもめちゃくちゃ勘違いされてる)




 しかも、私が王子とノクスのことを恋愛対象として見てるなんて、あってはならない!


 これはもう、計画の大改訂が必要かもしれない……。


 "私が二人のことを恋愛対象として見てるとヒロインが勘違い"


 ↓


 "ヒロインが「ご令嬢であるベルフェリア様の想い人に手を出すわけには……」と自分の恋心に蓋をする"


 ↓


 "レイ王子とノクスは、私が無理やりヒロインの気持ちを塞ぎ込ませたと勘違いし、アネットを処刑"


(今のままだと絶対これだぁぁぁぁ!!!)



 私はこっそり手帳を開き、「作戦案⑥:恋の三角形作戦」のページをびりっと破り捨てたのだった。


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