第2話 図書館での偶然の出会い
こんにちは、房吉です!
前回は陽菜ちゃんの「隠れ歴女」としての日常をお届けしました。
今回は陽菜ちゃんにとって運命の出会いが…!?
好きなことを隠してしまう陽菜ちゃんのこれからの展開をお楽しみください♪
「はぁ~、今日もお疲れ様、わたし」
放課後の図書館で、いつもの席に座りながら独り言を呟く。
体育の授業で疲れた身体を椅子に預け、ほっと一息。
今日はちょうど会津藩関係の本が新しく入荷したらしく、書架を眺めながらワクワクが止まらない。
私にとって図書館は、もう一つの教室みたいなものだ。
「よーし、今日は会津藩の藩政改革の本でも読もうかな」
本棚から目当ての本を引き抜き、小さく微笑む。
江戸時代中頃、会津藩は米の不作や大規模な百姓一揆により、多額の借金を抱え、破産寸前の危機に陥っていた。
そんな中、会津藩家老・田中 玄宰の大胆な藩政改革物語は何度読んでも心が躍る。
はじめは、保守的な家老たちの反対でうまくいかないが、会津藩主・松平容頌の強力なリーダーシップも借りながら、今につながる会津漆器・酒造り・会津絵ろうそく等の特産品を奨励したり、教育改革の一環として、会津藩校日新館を設立するなど、革新的な改革を行った。
その結果、借金を返すどころか、会津藩は「雄藩」と呼ばれる全国屈指の力を持つ藩へと成長させたその手腕は、どこの異世界転生主人公ですかといいたくなる活躍ぶりだ。
最も、そのために幕府に頼りにされて、幕末の悲劇を招来することになるのは、なんとも皮肉としかいいようがない。
本を抱えて席に戻ろうとしたその時——。
「あれ? 天音さん?」
聞き覚えのある男性の声に、思わず体がこわばった。ゆっくりと振り向くと、そこには信じられない人物が立っていた。
「し、篠原くん!?」
クラスの人気者で、サッカー部のエースでもある篠原涼介。長身でさわやかな笑顔が特徴の、まさにクラスのプリンスと呼ばれるべき存在だ。なぜ彼がこんな場所に?
「マジでびっくりした! 天音さんが図書館にいるなんて」
彼は驚いた表情で言うと、自然と私の横に立った。身長差があるので見上げる形になる。緊張で心臓がバクバクした。
「あ、あはは…たまたまね。ちょっと調べものがあって…」
慌てて手に持っていた本を背中に隠す。我ながら不自然すぎる行動だ。
「ん? 何読んでるの?」
「え、えっと、これは…」
逃げ場のない状況に追い込まれ、しぶしぶ本を見せる。もう終わった。
クラスの陽気なムードメーカー・天音陽菜が、実は地味な歴史オタクだということがバレてしまう瞬間——。
「『花ならば花咲かん』……おっ、いいじゃん! 俺も田中玄宰好きだよ」
「え?」
予想外の反応に目が点になる。篠原くんが歴史に興味あるなんて、一度も聞いたことがない。
しかも田中 玄宰という名前は、歴史に埋もれて、今や会津人でも知る人ぞ知る存在だ。
「実は俺も……」
彼は周りを見回すと、小声で続けた。
「歴史好きなんだ。でも、なんか言いづらくて言ってなかっただけで」
その言葉を聞いた瞬間、まるで電流が走ったような衝撃が私の全身を貫いた。
同じだ。私と同じなんだ。
「まさか篠原くんが…」
声が震える。嬉しいような、驚きのような、複雑な感情が胸の中でぐるぐる回る。
「天音さんも隠してたの?」
「う、うん…なんか、みんなに変に思われそうで…」
「めっちゃわかる! サッカー部の連中に言ったら絶対からかわれるもん」
彼が苦笑する表情に、思わず吹き出してしまった。
「なんで笑うの?」
「ごめん、ただ…同じ悩みを持ってる人がいるんだって思って…嬉しくて…」
言葉につまりながらも、心からの笑顔がこぼれた。これは演技ではない、本当の私の笑顔だ。
「じゃあさ…」
篠原くんは少し照れた様子で続けた。
「良かったら、一緒に本を見ない? 俺、最近戦国武将のコレクションブック集めてるんだけど」
いつもサッカーボールを蹴る姿しか見たことのなかった彼が、まさか歴史マニアだったなんて。
想像もしていなかった展開に、心の中で小さなお祭りが始まったような感覚だった。
「うん、いいよ!」
初めて誰かと歴史の話ができる。しかも同級生と。しかもクラスの人気者と。
私たちは図書館の一角に並んで座り、お互いの好きな歴史エピソードについて語り始めた。
「俺は蒲生氏郷が好きなんだよね。お城を”鶴ヶ城”って命名したネーミングセンスとか!レオ氏郷っていう二つ名がかっこいいんだよね!」
「私は芦名盛氏! あの時代で側室を持たずに正室の奥さんだけを愛したのって素敵じゃない?」
「えっ、マジで? それはなかなかすごいね!」
会話が途切れることなく続いていく。まるで長年の友人のように話が弾む。
「それにしても意外だったよ。天音さんって、いつもクラスでノリがいいから、歴史なんて好きじゃないと思ってた」
「私も! 篠原くんは運動神経いいし、歴女…じゃなくて歴男だなんて思わなかった!」
二人して笑い合う。初めて心から笑えた気がする。いつも作っていた笑顔じゃなく、自然と湧き上がる笑い声。
「あの…これからも、たまにここで会わない? もちろん無理だったら全然いいんだけど…」
篠原くんの言葉に、心が跳ねるような感覚があった。
「うん、ぜひ! でも…」
一瞬だけ不安がよぎる。
「これって、学校では内緒にする?」
篠原くんは少し考えた後、頷いた。
「そうだね…今は二人だけの秘密にしておこうか。正直、まだみんなに言う勇気はないかな」
「わかる…私もそう思う」
そうして、私たち二人の秘密の歴史研究会が発足した。放課後の図書館が、さらに特別な場所になった瞬間だった。
「あ! そういえば天音さん、和歌とかも好きなの?」
「え? どうして分かったの?」
「前に授業中、机の横に百人一首のメモが落ちてたの拾ったよ。天音さんのだよね? 返そうと思ったけど、タイミングなくて」
顔が熱くなる。そんなものまで見られていたなんて。でも不思議と恥ずかしいという感情よりも、嬉しいという気持ちが勝っていた。
「実はね…」
素直に話してみると、篠原くんも和歌に興味があるらしい。共通点がさらに見つかり、会話は止まらなかった。
帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら考えた。
(今日は人生で一番楽しい放課後だったかも…)
胸に広がる温かな感覚。初めて本当の自分を見せられた喜びと、これからの不安が入り混じる複雑な気持ち。でも確かなのは、何かが変わり始めたということだ。
明日、教室で篠原くんと目が合ったとき、どんな顔をすればいいのか——。
不思議と怖くはなかった。
むしろ、明日が待ち遠しかった。
第2話いかがでしたか?
陽菜ちゃんと篠原くんの出会いシーンを書くのがとても楽しかったです。
会津の歴史というと、だいたい戊辰戦争に目が行きがちですが、それ以外の時代も結構興味深い出来事がいろいろあって、調べてみると楽しいですよ!
「趣味を隠す」という経験は、きっと誰にでもあると思います。
自分の好きなことを素直に言えない気持ち、共感していただけたでしょうか?
私も鉄道好きなこと、根暗なオタク認定されて、嫌われると思って、高校時代は言えなかったなぁ……。
次回は二人の関係がさらに発展していく様子を描いていきます。
陽菜ちゃんはこれからどんな変化を見せるのか、ぜひお楽しみに!
感想や応援、大変励みになります。
これからも陽菜ちゃんと一緒に成長していく物語を紡いでいきたいと思います!




