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今日から君と待ち合わせ  作者: 彩ぺん


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惚れた病に薬なし


 小笠原に喧嘩をふっかけて、互いに自宅謹慎になる。

 そう思っていたのに、殴られたので(こと)が大きくなった。

 考えてみれば、謹慎処分を受けて家に連れていかれたら、天宮さんと一緒に帰って嫌われる作戦も出来なくなる。

 父親と木村先生に叱責されたり、尋問されながら、「小学校の時も作戦失敗ばっかりだったな」と心の中で自嘲した。


 野球部に迷惑をかけるつもりなんてなかったから、小笠原に殴られてない、転んだと主張している。

 天宮さんのことは、ひたすら「訴えるのはやめた。話せば分かると思う」と言い続けている。


 小笠原に殴られた頬や口の中がずっとズキズキ痛む。

 彼は「田中たちに騙されて」とか「香織ちゃんを傷つけて」と喚いていたから多分、天宮さんに騙されている。

 彼が送信した匿名メールも、彼としては事実を投書したと考えてそう。

 そんな考察をしながら、「父も木村先生も全然引かないな」とぼんやり。

 気にしないから訴えない。親や学校に解決して欲しいことは無い。そう主張しているのに無視されている。


 時計の針が一周すると、父と木村先生は作戦会議をするのか部屋から出て行った。

 用事はないから部屋から出ようとは思わない。スマホがないから誰かと連絡を取ることはできない。

 好きではないどころか、人生初の大嫌いな女子とどう話すかシミュレーションしていたら頭が痛くなってきた。殴られた怪我の痛みが伝染したというように。

 頭痛が辛いので、天宮対策はやめて、数字を数えることにした。1、2、3とひたすら数えていく。

 そうしてボーッとしていたら、父と木村先生が戻ってきた。母まで連れて。

 明らかに怒っている目をした父が、わりと無表情でこう告げた。


「颯、お前が耳を塞ぐから合同会議をすることにした。お願いします」


 衝撃的なことに、高松が彼女の両親と共に入室してきた。予想外の出来事に、椅子から落ちるかと思った。


「なんで……。高松には話さないって決まったのに!」


 父に向かって叫ぶと、首を縦に振られた。


「そうだ。我が家は被害を訴えない。つまり、颯、お前の頼み事も消える。高松さんは娘さんにすぐ話すと決めた」


「してやられた」と心の中で毒づく。正論みたいな屁理屈を口にして言うことを聞かない俺に、嫌がらせめいた正論をぶつけてきた。

 高松が誰に何をどこまで聞いているのか分からないから怖い。

 俺が送ったメールを見てどう感じたのかもまだ知りたくない。いや、ずっと知りたくない。

 なんで——俺は『天宮さんに近づいて嫌われよう』なんて考えたんだろう。高松から離れず守ろうではなくて。

 学校が違い、目が届かないからだ。だから天宮さんを自分の監視下に……。


「藤野君!」


 高松が駆け寄ってきたので少し後退った。


「……うん」


 名前を呼ばれたからって、この状況で返事をしてどうする。なぜか互いの親が部屋から出て行った。木村先生だけは残り、俺たちを静かに眺めている。


「その怪我、痛くない? 大丈夫?」


「……全然平気」


 親がいなくなったとか、木村先生がいるとか、高松はそのことに気づいているのだろうか。猫のような目は、俺だけを真っ直ぐ見つめている。


「野球部員に殴られたって聞いた。いくら友達のためとはいえ、いきなり喧嘩越しで尋問しようとしちゃいけないよ。しかも、掴みかかるなんて」


「……うん」


 小笠原と揉めた件は反省しているって言っているのに、なんで高松にまで叱らせる。


「確認なんだけど、琴ちゃんが『突き落とされた』って言ってるって聞いた?」


「高松は……」


「私のことじゃなくて、藤野君の話をしてるの。答えて」


 かつて高松委員長がそうしたように、キッと睨みつけられた。

 身長は逆転したし、体格だってそうなのに、高松の迫力は昔と同じくすごい。


「……一朗に聞いた。相澤さんが突き落とされたって」


「そうみたいなの。だからね。天宮さんも小笠原さんのことも、相澤家が中心になって私たち同期が学校に言うから、藤野君は何もしなくていいよ」


 口ぶりからして、高松は俺の説得係に任命されたようだ。


「何もするなって……言われなくても小笠原にはもう近寄らない」


「天宮さんは? 話せば分かるって、話さなくていいよ。彼女が怖いって言ってたでしょう?」


 この質問だから、高松は俺から「天宮さんに近寄らない」という言質を取りたいのだろう。俺の父親や木村先生に頼まれたに違いない。


「気味が悪いから怖いって思ったこともあるけど、あんな小柄な女子は怖くない」


「じゃあ好きなの?」


 凛とした瞳が滲んでいく。顔の怪我の痛みを忘れるくらい胸が痛い。


「好きなら付き合えばいいと思う。でもおかしいよ。嫌いなのに『付き合おう』なんて」


 親や先生もだけど、高松一人を言いくるめられなくて、あの天宮さんに嫌われたり拒否されるなんてできない。


「おかしくない。高松はさ、橋本さんにもそう言った?」


「美由ちゃんは『好きではないけど心が温かくなったから』って言ってたよ。藤野君もそうなの? 天宮さんを知りたい、話してみたいっていうのは前向きな気持ち?」


 そうだと答えたら終わりなのに、今にも泣きそうな高松の表情に心が凍ったように冷えている。声を出すどころか唇も動かせない。


「そんな顔をするなら、やっぱり嫌なんだね。私たちのために彼女を見張らなくても大丈夫だよ。もう彼女は敵だって分かったから、近寄らない」


 同級生みんなと仲良くできないなんて今に始まったことではない。

 嫌い同士は離れて関わらないことで穏便に過ごせる。高松はそんな風に続けた。

 

「相手が一方的にこちらに踏み込んできても、私は『やめて』って言えるよ。助けを求めることもできる」


「高松は我慢強いから『助けて』なんて……」


「言えるよ。清田君の時だって藤野君に『助けて』って頼ったでしょう? 私は鈍いから、悪口に気づいてなくて友達が守ってくれてたけど、もう違う」


 天宮香織の件は、自分たち箏曲部二年とその親が引き受ける。藤野颯は巻き込まれた人間として、親と共に補助参加するだけ。

 誹謗中傷メールやストーカーという加害を受けた俺は大人たちに保護されるべき。加害者と接触して神経をすり減らす必要なんてない。

 真っ直ぐな瞳に射抜かれて、彼女の頬に流れる涙に胸が締め付けられた。


「彼女が好き。それか好きになりたいなら天宮さんと付き合っていいよ。そうじゃないならやめて。彼女が好きなの? 彼女に好意的なの?」


 俺はこの、高松が仁王立ちでキッと睨みつけてくることがどうにも苦手だ。


「……違う。雑に扱って嫌われようと思って……」


 堰き止めようとしたのに、つい返事をしていた。


「そんなこと優しい藤野君にはできないよ。守ろうと思ってくれたなら、引き続き一緒に登下校したり、私たちの愚痴を聞いて慰める係にして!」


「……はい」


 またしても思わず小さな声が出た。

 吹き出すような笑い声がしたので視線を向けると、木村先生が俯いて肩を震わせていた。


「田中が藤野は高松さんに弱いって言っていたけどこれか」


「わ、笑わないで下さい! 田中にどんな話をしたんですか!」


「君のことを心配して喚くから『助けて欲しい』って頼んだんだ」


 こうして俺の作戦は動き出す前に終了。

 勝手な行動をした件に対する罰で一週間の部活停止、それからカウンセリングを受けることが決まった。

 俺は被害の訴えを取り下げたことを理由に、問題は高松家と聖廉主導に切り替えられた。

 父は高松家に雇われたから俺のことも乗っけるけど、俺は自業自得で部外者。

 何も知らない人たちの前で天宮さんに『交際宣言』をして、その意志をもう撤回したので、このことは相手側に謝って変な噂にならないようにしないとならない。

 俺は父に叱られながら、木村先生と『その方法』を考えないといけなくなった。


 ☆★


 車の中で母に今の気持ちやこれまでのことを打ち明けたら、車を停められて「琴音、任せなさい」と頭を撫でられた。

 

「いつもいつも『大丈夫』って辛そうに笑うばっかりだったから嬉しいわ。田中君にお礼をしないとね」


「……うん。きっと心配してくれてるから、病院が終わったらLetl.してもいい?」


「ダメー」


 この流れなら「もちろん」が返事のはずなのに却下された。スマホは返してもらえないようだ。


「なんで?」


 母は私の問いかけを無視してどこかに電話をかけた。受け答えで、真一さんのマネージャーの一人だと分かる。

「至急、弁護士をお願い」だなんて何をするつもりだろう。

 母は続けて、海鳴高校に電話をかけて、娘が海鳴生徒と連れに脅迫されたり階段から突き落とされた、この問題について話したいと告げた。

 相手が誰でどんな話をされたのか分からないけど、母が聖廉と海鳴、両校揃っての面談と頼んだこと、相手がそれを受け入れたことは聞けた。

 私の受診が終わったら海鳴に行くようだ。


「突然の話ですのに、真摯に対応してくださってありがとうございます。もう一つお願いがございまして、娘と交際している生徒さんと連絡を取りたいです」


 母は一朗君の部活と名前を告げ、部活という自己研鑽に励む彼の時間を奪うことについて詫び、それでも『娘の精神安定のため』だと言ってお願いをした。

 階段から落ちた私を助けてくれたのは一朗君だから、きっと心配している、彼も気になっていると言いながら。


 前向きな返事をもらえたようで、母は「折り返し電話があります」と言って私にスマホを返して車を発進させた。


「お母さんに任せるって決めた琴音を信用して、あちこちに勝手な連絡を取ったりしないと判断しました」


「ありがとう……ございます」


 返されたスマホを握りしめる。確かめると、通知がいくつもあった。

 友人たちも一朗君も私の怪我がひどくないことを祈り、心配してくれている。

 

「わっ!」


 そんなに時間が経っていないのに、一朗君から着信があった。


「あのっ、もしもし」


 部活の邪魔をしてしまった申し訳なさはあるけど、逆の立場なら『迷惑』だなんて思わない。だから「ごめんね」は言わなかった。


「琴音ちゃん大丈夫? どこか痛みが強くなった? お母さんが来てくれて病院に向かってるって聞いたんだけど」


「大丈夫。どこも酷くなってないよ。それにね、お母さんが来てくれて心強い」


「琴音ー。スピーカーにしてちょうだい」


「あっ、はい」


 一朗君にお礼を言ってくれるのだろう。彼に伝えて、母と三人で喋る了承を得た。

 二人が挨拶を交わし、母が一朗君に私を助けて先生に託したお礼を告げる。


「いえ、当たり前のことをしただけです」


「そう? それならますます一朗君を気に入っちゃった。また家に遊びに来てね」


「あ、あの。ありがとうございます」


 我が家でもてなされると気疲れするのか、一朗君の感謝の言葉は少し沈んで聞こえた。


「うちの子は好きなんだけど、一朗君って夢の国は好き? 二人の予定が合うなら、チケットを買ってあげる。もちろんお小遣いもつけるわ。大会後かしらね」


「……えっ? いや、あの、そんな大金みたいなものは……」


「あら、私と夫にお礼をさせないつもりなの? 今、気分が滅入っている琴音を元気づけたくないの?」


「そういうつもりはないです!」


 私が一朗君の親とこんなやり取りをしたらお腹がキリキリしそう。


「やめてよお母さん。一朗君を困らせないで!」


「琴音に買うから、一朗君が行かないなら真由香ちゃんや小百合ちゃんと行きなさい」


 海鳴の先生に「娘の精神安定のため」と頼んでわざわざ早急に一朗君と話す内容がこんなこととは思わなかった。


「お母さん! 部活の邪魔をしてまでする話じゃないでしょう? 夜でもいいのに、呼び出すなんて」


「一朗君。今日、剣道部は保護者会だったわよね? 一朗君の親御さんはいらしてる?」


 この発言で、私も電話の向こうの一朗君もピリついた。一気に空気が冷えていく。


「はい。父が来てます。父にどのような用でしょうか?」


「娘が二次被害を防止したいと望んだから、突き落としは真実なのか調べることにしました。一朗君は目撃者ですし、証言者になってくれそうだから協力要請をしたいです」


 これに対する彼の返答は早かった。


「します! めちゃくちゃ協力します! 親父は今ここにいて、この会話も聞いてます!」


 なんでお父様と一緒? と首を傾げたら「盗み聞きしててすみません」と彼の父親の声がした。

 母に対する挨拶と自己紹介の後に、このような台詞が続いた。

 

「実は息子は『彼女が突き落とされたから今すぐどうにかしろ』って騒いで、大人の邪魔をしそうだから自分が見張っていました」


「まぁ、そうでしたの。口振りからしてあまりいい騒ぎ方ではなさそうですけど、娘のためにありがとうございます」


「ほら、謝れ一朗。下手に動いていたら、琴音ちゃんやお母さんの邪魔をするところだったぞ。謝りなさい」


 小さめで、拗ねたような「すみません」という一朗君の声が車内に広がった。


「息子さんは何をしようとしたんですか?」


「自分が今すぐ解決するって、犯人疑いの生徒のところに行こうとしたのでこうして監禁していました」


 一朗君は監禁されていたらしい。母がクスリと笑った。


「あらあら、勇ましいこと。その心意気は嬉しいです」


「捕まえられなかったら、聖廉の先生にも詰め寄っていたでしょう。今日が保護者会の日で良かったです」


「印象通り、息子さんはやんちゃなんですね」


「……そうなんですか⁈ 俺はやんちゃに見えるんですか⁈」


 母は一朗君の叫ぶような問いかけを無視した。


「お父様、息子さんと共にご協力していただけるなら、まずこちらからお願いしたいです」


 それは——藤野君の親と接触すること。保護者会に来ているか、来て帰ったはずの父親か母親、もしくはその両方と話をしたい。

 私と天宮さんの軋轢(あつれき)は藤野君だ。小百合もだけど、私は親友を深く巻き込むと気に病むというのが母の判断。


「藤野颯君も娘の友人ですから心苦しいですけれど、彼には頼もしい息子さんがついています。藤野さん側がどう判断するかは分かりませんが、こちらとしてはそう考えました」


「そうですか。息子と話していたんですが、藤野さんを頼ろうって言っていたんです」


 藤野君の父親が弁護士だとは知らなかった。専門は分からないらしいけど、藤野君がチラッと語ったことのある父親の仕事内容は事件系。

 藤野家には被害者や家族からお礼の手紙や品物が届くことがあり、一朗君たち同期はその御礼の品のお裾分けをもらったことがあるそうだ。


「そうですの。弁護士を用意したんですけど、さらに法的なことに詳しい味方ができるなんて心強いです」


「弁護士を用意した? えっ? もうですか?」


 一朗君の父親が驚きの声を出す。母がたまに家で見せる仕事モードの顔で、ニヤッと不敵に笑った。

 私は滅多に見ることのない母の姿に、自然と喉が鳴る。


「私の可愛くて優しい娘を悲しませて怒らせたんですもの。娘は争いが苦手ですから、親として代わりに叩き潰します。学校が敵になるなら学校ごと」


 私が被害を訴えなくなった理由の一つは、母のこういうところだ。目が据わってて怖い。この後、なるべく早く父に連絡を取ろう。


「琴音、一朗君、正当な喧嘩の方法を学びなさい」


「あの、お母さん。お互いに接触しないと誓い合うでいいからね? 穏便じゃないと、居心地が悪くなって学校に通えなくなるよ」


「着地は穏便だとしても、過程や交渉で舐められたら終わりよ」


 母としてではなく、広告代理店の営業としての表情で笑い、唇を舐めるものだから身震いしてしまった。 自分だけではなく他の人のためにも理不尽にはきちんと抗おうと決めたけど、母から学び過ぎてはいけない気がする。

引っ越しは終わりましたが片付けなどで執筆遅延中です。お待ち下さいm(_ _)m 2025.1.20

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