表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日から君と待ち合わせ  作者: あやぺん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/79

危険な勉強会1

 今日は俺の祖父の家で勉強会だ。

 最大の懸念、うるさい(らん)が部活で不在だし、やかましい威生(いお)も橋本さんと勉強するからいない。

「家の用事がなくなった」と涼が参加表明をしたので、颯に勉強を教えてもらわなくていいから、彼と高松さんの邪魔をしないで済む。

 最近、颯と高松さんはギクシャクしている。

 颯曰く、デートに誘ったことが原因のようだ。

 あのはっきり言う高松さんが、嫌いな人とデートをするなんておかしいので、彼女は照れているだけな気がする。

 琴音ちゃんにそれとなく探りを入れた結果、その推測は間違ってなさそう。

 今日、どうにかして颯と高松さんが喋らないといけない空気にして、二人を放置したらどうにかなるはず。

 

 昨日は相澤家でもてなされて嬉しかったけど、緊張の連続でそこそこ疲れた。

 駅の改札前でスマホの画面を眺めていたら、グループトークに連絡があり、高松さんが颯の見舞いに行ったと知った。

 高松さんは俺たちに「寝坊したから遅刻します」と謝ったのに、颯のお見舞いへ行ったようだ。

 颯がグループトーク内で「勉強をしたくなくて嘘をついた」と謝り、琴音ちゃんは「そんなこともありますよね」とすぐに許した。

 涼は「りょ」で済ませ、俺も「OK」で終了。

 

 一ノ瀬涼【高松さんと喧嘩したからってすねてサボろうとしやがって】


 空気を読まない涼がぶっ込んだので俺の背筋は冷えた。


 一ノ瀬涼【仲直りバンザイ】


 この涼の空気を読まなさは吉と出るか凶と出るか、固唾を飲んで見守る。

 涼が気遣いでこのように言ったことは明白だけど颯や高松さんにそれが伝わるだろうか。


 琴音ちゃん【さゆちゃん】


 琴音ちゃん【仲直りできて良かったね】


 琴音ちゃん【原因はなんだったの?】


 一ノ瀬涼【帰りにこっそりポッキリを食べたことを怒られたからだろう】


 琴音ちゃん【さゆちゃんは部長ですから】


 颯【そんな】


 高松さん【言い方がキツかったです】


 颯【言い方は全然】


 颯【俺が勝手に自己嫌悪しただけ】


 颯と高松さんのここ最近の変な感じは一件落着のようだと胸を撫で下ろしていたら、琴音ちゃんが到着した。

 白に地小花柄のスカートに白いシャツ、水色のカーディガンという格好で、可愛すぎて眩しい。

 涼は直接お店に来るし、颯と高松さんは遅刻な上に颯が道案内を出来る。そういうわけで、二人で歩き出した。

「勇気を出して可愛いと褒める」と自分に言い聞かせて歩いているけど何も言えず。

 自分が贈ったアクセサリーを使ってくれているのに今日も今日とて、そのことに対して何か言うこともできない。

 また手を繋ぎたいけど、ここは地元だから誰かに目撃されたくないし、そもそも琴音ちゃんはトートバッグを両手で掴んでいるから何もできない。

 俺のいくじなし。


 彼女との話題はずっと友人たちことで、「可愛い」と発言するような話に持っていけない。

「さゆちゃんは原因が分からないって困っていたけど、藤野君と仲直りできて良かった」とか、「美由ちゃんは日野原君が面白いみたいです」という話なので、気になるから話題変更しようという気にもならない。


 祖父のお店に到着すると、予想外のことに威生(いお)と橋本さんがいた。

 威生(いお)が「ここが一朗のじいちゃんの店でーす!」と大きめの声を出したので、二人も今、ここに到着したのだろう。

 どうやら俺たちは違う道を歩いてきたようだ。


「あれっ、美由ちゃん?」


「おはよう、琴ちゃん」


 琴音ちゃんが「どうしてここに」みたいに質問したので、二人は今日、日野原家で勉強会の予定だったと知った。

 昨日、琴音ちゃんから、まだ場所が決まっていないようだと聞いていたけど、威生(いお)は彼女を家に連れ込む気だったとは。

 

「いやぁ、いざ家族に紹介って思ったら緊張して。俺さ、昨日、リビングをめちゃくちゃ掃除したのに必要なくなった。あはは」


 橋本さんが琴音ちゃんに、威生(いお)の家の玄関で家族にご挨拶をしたと語っている。


「姉貴がかなり食いついて、勉強どころじゃなさそうだからここへ避難してきた!」


 姉貴とは、威生(いお)の兄の奥さんで、確かに彼女なら「いっ君の本気の彼女!」みたいに騒ぎそう。

 威生(いお)に「一朗」と声をかけられて、「ここで勉強するなんて聞いてない、誘われてない」と軽く怒られた。

 颯と高松さんがいる場所に、橋本さんを連れてこない方がいい気がするし、そこに威生(いお)がいたらさらにカオスだ。

 それをここで言うわけにはいかないので、「お前はうるさいから」という返事をしておいた。


「私、田中君のおじい様のお店が、封魔(ふうま)ファンのお店だなんて知らなかった」


 橋本さんのこの発言で、琴音ちゃんが「封魔(ふうま)ファンのお店?」と口にしながらお店を見上げた。

 橋本さんが、この外観は「封魔(ふうま)行きつけの甘味処にかなり似てるよ」とにこやかに語る。

 琴音ちゃんを驚かそうと思っていたけど、この感じだと彼女は国民的漫画である「封魔(ふうま)」を知らないか、特に好きではないようだ。

 一方、橋本さんは「わっ、ここに忍蛙(しのびかえる)がいる」と、とても楽しそう。


「田中君、写真撮影をしてもよろしいですか?」


 橋本さんの小首をかしげる仕草、手の動き、それから喋り方はまさにお嬢様。

 琴音ちゃんにも似たようなところがあるけど、橋本さんは「優雅」という言葉がとても似合う女子だ。

 好きな女子ではないのに、ニコニコ笑う橋本さんに少し照れた。


「もちろん、好きなだけどうぞ」


 俺が許可すると橋本さんは琴音ちゃんと楽しそうに写真撮影会を始めた。

 橋本さん——自分の彼女と喋りたいと思われる威生が、彼女に話しかけた。


「美由ちゃんは封魔好きなの?」


「うん、大好きな漫画です」


「うわっ、耳が急に痛くて聞こえなかった。もう一回言って」


「大丈夫ですか? 耳鼻科へ行った方がいいです。かかりつけはありますか?」


「まさか。君の声で『大好き』って聞きたかっただけ。そのうち大好きな威生君って言ってもらおう」


「お前は誰だ、お前はホストか」と心の中で突っ込む。実際のホストなんて見たことはないけど、歯の浮くような台詞を言う職業といえばホストだ。

 橋本さんは困り笑いを浮かべて「とりあえずのお付き合いですみません」と謝った。


「うわっ、そういうつもりじゃ。えっと……撮ろう。沢山撮ろう。あっちも楽しいから見て!」


 店の脇は観光客向けの撮影スポットなので、そこへみんなで移動。

 橋本さんは品良くはしゃぎ、とても嬉しそうにあれこれ撮り、琴音ちゃんと二人での撮影会も開始して、おずおずというように威生も誘い、俺も誘われた。

「はい、撮るよ」という台詞で琴音ちゃんを撮影し放題できると気がついたので、積極的にカメラマンになった。

 怪獣の威生を制御するために役に立ちそうなので、橋本さんの写真や彼女と威生のツーショットも確保。

 普段なら「一朗で遊ぶために琴音ちゃんの写真を手に入れよう」と動きそうな威生が、橋本さんに夢中になっている。


 本当、あれは誰だ。


 写真撮影で盛り上がっていたらわりと時間が過ぎていたようで、颯と高松さんが到着した。

 颯はかなりの封魔ファンで、ここへ来るのは初めてではないのに、今日もはしゃぎだした。

 高松さんも封魔ファンのようで、「高松、高松」と颯があれこれ見せて、高松さんも楽しそうに笑っている。

「やめろお前ら」と心の中で呟きながら、橋本さんの様子を確認したら、彼女は二人を見て寂しそうに微笑んでいた。

 鈍感ではない威生なら気がつくかもしれないと、彼の様子を見たら、真面目な顔で腕を組んで三人を見比べていた。


 ……胃が痛い。


 ここへ涼が到着。

 涼は(りん)と見知らぬ女子の間に立っていて、俺と目が合ったのに何も言わず、隣の女子に「ひくらしさんです」と淡々と告げた。

 涼はここへ直接来ると言っていたけど、倫と一緒だとは聞いていないし、他に女子がいるなんてことも。

 あの子は誰で、倫は何をしに来た。十中八九、琴音ちゃんを見に来たのだろうが、余計な……。


「お兄ちゃんの彼女さん! 琴音先輩! おはようございます」


 倫は人見知りなのに、声もいつも小さいのに、快活な大きな声を出して走り出した。

 

「田中一朗の妹の倫です。わぁ、本物だ。本当に存在した。お兄ちゃんの妄想や作り話じゃなくて本当にいたんですね」


 失礼なことに倫は琴音ちゃんの前に立つと、周りをぐるっと一周して、上から下まで眺めた。

 初対面の人間にこんなことをされた彼女は戸惑い顔を浮かべている。


「相澤琴音と申します。田中君にお世話になっています」


 琴音ちゃんは、倫が正面に戻ってきて、つま先立ちを繰り返すと、礼儀正しいお辞儀をしてくれた。


「あっ、倫ちゃん! どうしたの? お遣い?」


 威生(いお)が倫に近寄ったので、2人が揃ったら面倒なことに……と慌てたら、涼の隣にいる女子が「わっ、日野原先輩!」と叫んだ。


「ん? 俺? 俺のファン? どうもありがとう!」


「り、り、倫ちゃん! 日野原先輩と知り合いなの⁈」


「いっ君は幼馴染だよ」


 あの子は涼が連れてきたのではなく、倫の友達かと思ったら、今度は「あーっ! 一朗!」と知っている声がした。

 同小、さらに同中だった顔見知りの女子が3人、俺を見つけて駆け寄ってきた。嫌な予感がする。


「みんなで集まろうって言ってるのにさ、既読無視しないでよ!」


 (めぐみ)に怒鳴られたけど知らね。俺は部活と勉強と琴音ちゃんで忙しい。

 散々態度に出しているのに、「脈ありかも」と考えたり、「頑張ろう」と意気込むのはやめて欲しい。

 幼馴染たちのグループトークから抜けるわけにもいかないので困っている。

 

「既読無視なんてしてねぇよ。俺はパスって言った」


「おお、めぐちゃん。残念だけどこいつは売れた。じゃじゃじゃじゃーん! 難攻不落の一朗が自分から頭を下げた琴音ちゃんでーす!」


「威生! 余計なことを言うな!」


「誰⁈」というように琴音ちゃんを睨んだ愛、困ったように俺を見た琴音ちゃん、そして空気を読まないというかわざと空気を読まなかった威生(いお)

 この状況だけでもお腹が痛くなってくるのに、何も察していない倫が「めぐちゃん、お兄ちゃんに可愛いお嬢様彼女ができたんだよ!」と明るい声を出したのでカオス。

 告白してこないというかさせてこなかった愛はこれで諦めるだろう、帰れと思ったのに、彼女は険しい顔で琴音ちゃんに近寄り、腰に手を当てて仁王立ちした。


「倫ちゃん。その琴音ちゃんってこの人のこと?」


「……うん。めぐちゃん、どうしたの? 怖い顔をして」


「初めまして。一朗の幼馴染の中川愛です。真美と玲奈も同じく」


 愛は後ろで手を組み、にこやかな笑顔で自己紹介をした。目が怖ぇよ。


「こんにちは〜」


「みんなでカラオケに行こうってなって、他の幼馴染たちも誘おうかなって歩いていたところなんですよ」


 真美と玲奈も琴音ちゃんに近寄ってきた。あいつらは変な事を言いそうだと、頭も痛くなった。


「おはようございます。相澤琴音と申します。私たちは試験前なので、これから勉強会です。ねっ、一朗君」


「……」


 俺に合わせて「田中君」と言ってくれていたのに急に「一朗君」と呼ばれたからビックリした。

 琴音ちゃんは笑顔だけど怒って見える。ヤキモチなら可愛いすぎる。


「う、うん。そう、俺と彼女と、お互いの友人たちと勉強会。だからカラオケは行かない。(がく)たちは行きそうだな。あいつらによろしく」


「一朗、あとで合流しようぜ。俺、美由ちゃんの歌声を聞きたい」


「お前はこの状況を楽しんでいるだろう!」と心の中で叫びながら、目で「やめろ」と訴えた。


「私も美由ちゃんも海鳴以外の男子と密室へは行きません。いくらグループだとしても。校則というか、ごく普通の危機管理ですので」


「えっ? そうなの? 美由ちゃん」


「ええ、そうです」


「何あれ、感じ悪い」と愛たちがヒソヒソして、倫がおろおろし始め、琴音ちゃんは「一朗君のおじい様にご挨拶がありますので失礼します」と一礼。

 琴音ちゃんは愛たちに背中を向けると、唇を尖らせてどこからどう見ても不機嫌という表情になった。

 

 可愛い。


「感じが悪いと申されましても校則ですので。3対1で、聞こえるように悪口とは、そちらこそ感じが悪いですよ」


 琴音ちゃんのヤキモチ疑惑に意識を持っていかれていたら、高松さんが彼女と愛たちの間に入っていた。

 間に入ったというか、喧嘩を売った。

 腰に手を当てて、迫力のある姿で愛たちを睨みつけている。

 そこへ橋本さんが加わり、「そうです。校則ですから」と小さいけど、はっきりとした声を出した。


「行きましょう、美由ちゃん。学生の本分は勉強ですから、夜までみっちり勉強しましょう」


「そうですね、夜までずーっと勉強しましょう。田中君は赤点を取ったら試合に出られないから、カラオケなんて行く暇はありません」


 橋本さんも意外と勝ち気。琴音ちゃんの隣に友人2人が寄り添い、お店の中へ入ろうとした。


(がく)たちによろしく」


 誰か愛を慰めて惚れられろと願いながら幼馴染たちに軽く手を振り、琴音ちゃんの横まで移動。

 気まずいけど、嫉妬されたなら嬉しいと考えながらみんなを店内へ促して、出迎えてくれた祖父に挨拶をした。

 挨拶や自己紹介を経て居間へ。人数に対して席が足りない。

 

「席が足りないから、一朗と相澤さんは二階で勉強したらどうだ?」


 涼が気を遣ってくれたけど、それはつまり、彼女と2人きりになるということだ。

 そうしないように友人たちを誘ったので、それはでき……。


「お前のために襖を外してやるよ。抜き打ちで見に行くから悪さしないで勉強しろ」


 俺が断る前に、琴音ちゃんが何か言う前に、威生が彼女に向かって「こっちが二階」と告げて案内を始めた。

 琴音ちゃんは断らず、彼女の友人たちは声を出さないで「頑張れ」と言った。

 こうして俺は、襖を外された二階の和室で琴音ちゃんと2人きり。

 こんなことになるとは、予想していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ