予想外の出会い
私が通っている高校は中高一貫の女子校で、世間一般的にはお嬢様高と呼ばれるような学校だ。
と言っても、社長令嬢などの本物のお嬢様が通う高校ではなく、近隣だとちょっと見栄えが良いくらいの学校。
それでも、日が暮れた後に若くて目立つ制服の女子だけを歩かせることは大いに問題ありとなるくらいの学校だ。
そういう訳で学校から最寄り駅までは徒歩15分だけど、部活後の時間帯はスクールバスが運行している。
常に徒歩や自転車通学者は事前に申請しないとならないし、スクールバスの利用者も、きちんと利用したかどうかデジタル管理されている。
スクールバスに乗らないと親に報告が行ってしまうし、乗車時刻が記録されるので、帰宅時間と乖離があると何かあった時にバレて咎められる。
家族に事前に連絡を入れてあれば何かあっても保護者の責任になるから、絶対にスクールバスに乗らないといけない訳ではない。
私と友人達が部活後にどこかへ行くとしても駅前のお店くらいなので、19時前に部室を出て、いつも通りスクールバスに乗った。
今夜は美由と麗華の三人で駅前のお店に入り、進級祝いの打ち合わせ。
無事に高校二年生になれたお祝いを夢の国でする予定。
それも親を説得して、三人だけのお出掛けだ。
おそらく普通の女子達よりも箱入りの私達にとっては一大イベントなのでとても楽しみ。
選んだお店は家族ではまず行かない、憧れのファーストフード店。
私たちの親たちだと、栄養が足りない、育ち盛りの体には良くないみたいに言って、子供から遠ざけるお店。
久しぶりなのでスマホで事前にメニューを確認したので問題無く注文出来た。
商品の乗ったトレイを持って二階へあがり、三人で座れる場所を確保。
ここは広いし三階建てなので、大丈夫だろうと席取りはしなかった。
あのCMのあの期間限定バーガーに魅惑のポテトに炭酸飲料水——太りたくないのでカロリーゼロという魅惑セットのことで三人ではしゃいでいたら、男子高校生達にヒソヒソされた。
あの制服はお隣の男子校のもの。
丸坊主で背が高そうな集団なので……とチラッと確認したら、床に直置きのバックはお揃いで、側面にKaimeI Volleyballという文字。
対抗する訳ではないけど、こちらもヒソヒソすることに。
我が校には二年生になると、隣の高校生達と交流するという伝統がある。
私立聖廉中学校・高等学校の前身は明治時代に創立された女学校。
隣の海鳴中学校・高等学校の前身が先にあり、お嫁に迎えてくれる者達の隣で学びなさいということで創られた。
今では庶民寄りのお嬢様高校になった我が校と、そこそこ進学校でありながら部活も盛んで品格が保たれている海鳴高等学校は、現代になっても学校ぐるみの交流がある。
変な異性とお付き合いするなら、隣の高校に通うようなきちんとした者を選びなさいという感じで、合同行事などが存在し続けている。
そういう訳で私たちのヒソヒソ話は、彼らは校章の色的に二年生なので、今年の合同行事で一緒になることはあるか。
この中では積極的な麗華が、誰が好みという話題を振ったせいで、恥ずかしくて彼らを見られなくなった。
あの中には好みの人はいないけど、好きな人はいると心の中で呟いたせいで余計に。
赤面症なところがあるので、二人にからかわれてしまい余計に照れる。
琴ばっかりだった私の生活に、美由が少女漫画を与えたり、麗華が面白い恋愛ドラマを提供したので、私は昨年から恋に憧れている。
憧れていたというのが正しい。
憧れの劇的な初恋に落ちる場面は訪れなかったが、気がついたら好きな人がいるという状態だから。
「その、あの中にはいないのですが、実は年末から気になる人がいまして……」
今日こそ勇気を出して二人に伝えると思っていたので、えいっと口にした。
「そうなんですか?」
「相談がありますって部活のことかと思っていたらそうでしたの」
わりと近くにいる海鳴高校のバレーボール部員達から、聖廉のお嬢様達はやっぱ言葉遣いが違うと聞こえてきた。
自分達でも古臭い喋り方だと思うけど、入学してから教師や親に強制されてきたし、家族親戚の女性もこういう感じなので仕方がない。
そしてオバさん、おばあさんみたいだと笑われようとも、私としては制服に似合っていて好きだ。
誰ですかと二人に迫られたので、緊張しながら、声や手を震わせながらゆっくりと語った。
他の同級生達のように、私が気になった人も海鳴高校の生徒。
海鳴生とは二年生になると交流することになっているし、学校ぐるみで親しくなると良いと提示されているから元々の印象が良い。
それまでは誰を見ても格好良いかもしれないとか、弟と異なり大きくて怖いとか、彼らを個人ではなく群として眺めていた。
けれども、その中から印象的な人が登場。
「それで、それで?」
麗華に促されたので昨年の秋の話。
大会が終わり、来年の二年副部長は私と決まり、同じく二年部長と決まった小百合が今後のことを熱弁。
私は縁の下の力持ちになれる自信があるので、彼女の高い目標とそれを達成する計画を楽しく聞き——……。
麗華に話しを遮られた。
「高松さんのあれが楽しいんですね」
「楽しいですよ。麗華さんも私達大会組になりませんか?」
「無理無理無理! 私は今の演奏会組が良いです」
「美由さんは……」
彼女にも無理だと拒否された。
猛練習も楽しいのに。
バレーボール部と吹奏楽部に並び、私達が所属する箏曲部も全国レベルだ。
しかし、全員が大会に熱狂したい訳でもなく、その実力がある訳でもないので、大会メンバーはまず挙手で、そこから更にオーディション制となっている。
麗華や美由みたいに各種演奏会を目標にしてオーディションを受けない部員は半分くらい。
大会に熱狂という単語のように、二人からすると私たち大会組は少々狂って見えるという。
話が逸れたので戻す。
顧問と小百合と盛り上がって帰宅が遅くなったので、駅の交番前で親の迎えを待つことに。
スクールバスはもう終わっている時間で、先生に駅まで車で送ってもらい、話し足りないので小百合と二人で交番前へ。
交番前のベンチに座って二人で喋っていたら、駅の駐輪場から大きな音がした。
帰宅するサラリーマンが自分の自転車を倒して他の自転車がドミノ倒しに。
あれは可哀想だと小百合と共に向かったら、先に海鳴高校の剣道部員が助け始めた。
その時は、海鳴剣道という文字の入ったカバンだなと思っただけで終わり
親の迎えが来て、連絡があったから帰宅。
その二週間後くらいに、麗華と美由と共に帰っていたら似たようなことが起こり、あっ、また剣道部の人達だと気になった。
その日を堺に、私の目や耳は「気になる海鳴剣道部」から「気になる一人」へ向けられるように。
「ついつい見て、聞き耳を立てていた結果、彼は海鳴高校二年二組、剣道部のタナカイチロー君です」
「ん? 俺がなんですか?」
剣道部のタナカイチロー君と口にした時、男子に話しかけられて驚愕。
声がした方向へ顔を向けると、タナカイチロー君がいて、いつものように肩に「海鳴剣道」と書かれたカバンを肩に担ぎ、ハンバーガーセットが乗ったトレイを持っていた。