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今日から君と待ち合わせ  作者: あやぺん


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19/79

枝話「運命の恋」


 彼の名前は清田敦弘(あつひろ)

 藤野颯と高松小百合の元クラスメートである。


 ✴︎


 二年生でようやくベンチ入りを果たしたのに、足を捻挫してしまうなんて、あまりにも運が悪い。

 俺が飛び出したのも悪かったが、あのバイクが突っ込んできたせいだ。

 おまけに、前から痛む膝について相談したら、そっちの方が重症だった。

 甲子園も狙える高校に入学し、憧れだった野球部に入り、推薦組じゃないのにレギュラーの補欠にまでなれたのに、全てが台無しだ。


 病院の帰り道、どうにも気が塞いでしまい、途中の公園のベンチに腰を下ろしてぼんやりしていた。

 すると、ぽつぽつと雨が降り始め、やがて激しくなり、雷まで鳴り出した。

 この足では急いで帰ることもできないし、もう何もかもが面倒くさくなって、そのままベンチに座り続ける。


 不意に、雨がぴたりと止んだ。

 顔を上げると、見たこともない制服を着た女子が目の前に立っていた。


「折りたたみ傘がありますので、どうぞ」


 彼女は一切笑わず、涼やかな目元が印象的な美少女だった。

 芸能人のような華やかさはなく、長い髪を低い位置で二つに結び、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 白い丈の短いブレザーに朱色のリボンタイ、腰にベルトがある紺色のスカートの裾には白いラインが入っていて、レトロなデザインのカバンを持っている。

 これは、どこの学校の制服なのだろうか。


「その足ですから、きっと家族が迎えに来るんですよね? 傘は安物ですから、捨ててください」


 彼女はそう告げると、俺に背を向けて歩き出した。

 雨音は激しさを増していくのに、なぜか自分の心臓の鼓動が耳に響く。

 こんなにドキドキするのは、まるで漫画のように、美少女に親切にされたからだろう。


 気持ちが少し前向きになり、足が治る前にも何かできる練習があるはずだと思った。

 朝練に間に合うよう、駅に向かって歩いていると、あの女子がまた現れた。

 この間とは違い、明るい太陽の下、彼女はまぶしく輝いていた。思わず目を細めてしまうほどに。


「この間は、ありがとうございました」


 そう声をかけたかったが、松葉杖を使っている俺の歩みは遅く、彼女はすっと背筋を伸ばして歩き、遠ざかっていく。

「待ってくれ!」と伸ばした俺の手は、虚しく空を切った。

 

 それから一ヶ月ほど、俺は似たことを繰り返し、ついに行動を起こすことに。

 いつもよりも早く家を出て、彼女が駅に到着する頃を見計らって改札近くに立った。

 貸してもらった折りたたみ傘と、駅前にあるケーキ屋で買った小さな菓子の入った袋を手にして。

 彼女が姿を見せたときに、ありったけの勇気を出して「あの」と声をかけた。

 彼女は眉をひそめ、俺を上から下まで眺め、松葉杖を見て、少し表情を和らげた。

 知らない人間ではなく、前に傘を貸した男子だと気がついたというように。


「お礼を言いたくて……傘を返そうと」


「……。お礼なんていりません。傘は買い替え予定だったので、捨ててください」


 そう言うと、彼女はそっけなく改札へ向かおうとした。

 「待って」と、思わず手を伸ばし、彼女のブレザーに指先が触れた瞬間、彼女が振り返った。

 それで、厳しい表情で俺を睨みつけた。


「いや、その……ただお礼を……あれ?」


 なぜだろう。どこかで見たことがある。

 どうしてだ? と考えた瞬間、記憶の中で何かがはじけた。


「早百合……?」


 彼女は同じ小学校だった高松早百合にそっくりだった。


「今、気がついたけど清田君だよね? 同じ小学校だった」


「……やっぱり早百合なのか! 確か私立中に行って……」


 元々、綺麗な顔をした女子だったけど、ますますそうなっている。

 可愛らしいデザインの制服姿だから余計に。

 あの頃は俺よりも背が高かったのに、今は頭一つ分は低い。


「清田君なら、ますますお礼はいらない。それじゃあ、さようなら」


 そう言って、早百合は俺に背を向けて、颯爽と改札を抜けていった。

 初恋の女の子が、あんなにも綺麗に成長していて、しかも優しさを変わらず持っている。

 この再会は、絶対に運命だ。

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