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今日から君と待ち合わせ  作者: あやぺん


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デート相談



 お互い帰宅して大丈夫になってから通話を開始。

 一朗君と早く喋りたくて、髪の毛を乾かずにタオルを巻いている。

 私の部屋は和室で、出入り口が(ふすま)なので鍵が無いけど、誰も部屋へ来ない予定なので、スピーカー機能をONにして、ハンズフリーで通話することに。

 こうしておけば、喋りながらあれこれ検索できる。


「自転車に乗りながら、色々なお店があって話題も作れそうなスカイタワーはどうかなって。どうですか? 嫌ですか?」


「……行きたいです! 行きます。行きましょう。決まりです」


 私はララモが良いと思ったけど、スカイタワーは思いついていなかった。

 似たような場所だし、一朗君と水族館に行ける可能性があるスカイタワーの方が良い。

 一朗君は生き物が好きかな。

 水族館はいかにもデートスポットらしい場所だから、一朗君が口にした『そういうところ』に該当すると思うけど、どうだろう。


「誘っておいてあれですが、帰り道に言ったように習い事のために5時には家に着きたくて。だから解散は余裕を持って4時。相澤さんも遅くならなくて、家族が安心します」


「ありがとうございます」


「相澤さんって、水族館は好きですか?」


 誘う前に誘われた! 奇跡!

 注意深く言葉を選ばなければと思案した結果、年間パスポートを待っているくらい好きですはやめて、


「好きです」


 こちらの台詞にした。

 私は年間パスポートを持っているけど、向こうは違う。

 

「……すみません。隣の部屋の妹がうるさくて聞き取れなくて。水族館は好きですか?」


「好きです」


「……」


 この流れは水族館に誘われると思ったのに続きがない。

 なんで無言になるの?

 「嫌いです」が正解だったの?

 水族館は好きですか? という問いかけはお誘いだと思ったけど、私が「嫌いです」と言うと想定していたのだろうか。

 いや、それはなんだかおかしい気がする。


「……。あの、妹がいるって話しをしましたよね?」


「はい」


「小学生の二人が水族館人間で、やたら連れて行けって、ペンギンだってうるさいから、家族全員、スカイタワー水族館の年パスを持っています」


 なので、日曜は良かったら水族館へ行かないかと誘われた。

 先程の無言は、予想通り好きですという返事だったから誘えるぞ、でも緊張するということだったようだ。

 妹たちのおかげでたまたま自分のチケット代が分が浮くから、私のチケット代を二人で半分にするのはどうかと提案をされたので、私もここ二年間は年パス持ちだと伝えた。


「おお。それなら日曜は水族館で。いや、もう満喫し終わって飽きていますか?」


「飽きてないので、ぜひ行きたいです」


 初恋の人と無事に付き合えて、最初のデートがちょっとランチではなく、スカイタワーで水族館デートだなんて素敵。

 一朗君は夕方、習い事があるから遠出は嫌かもしれないと悩んだ分、湯水のように嬉しさが溢れてくる。


「あっ、ランさんは、田中君のお姉さんですか? 妹さんですか? 二人いる小学生の妹さんの一人ですか?」


 一緒に下校中に聞いた名前が気になっていた。


「ランは妹その一です。その二がリンで、琴を好きになった妹です」


 私は琴音だから、『琴を好き』が、『琴音が好き』みたいに聞こえて胸がぎゅっと締めつけられた。

 いつか、本当に言われたら、心臓が止まるかもしれない。


「ランとリンの下に小学生の妹が二人いて、末っ子はもうすぐ三才です。両親は男の子がもう一人欲しかったけど、五人も女の子で、さすがに諦めました」


「六人兄妹なんですね。大家族です」


「父親は五人兄弟、母親も四人兄弟だから、それなりに大家族が良かったって。リアルでは、俺以上の兄妹持ちを知りません。テレビとか、SNSでは見かけますけど」


「六人兄妹さんと知り合いになるのは初めてです」


 妹さんたちと似ていますか? と聞いたら、もしかしたら彼も写っている写真を送ってくれるかもしれない。

 しかし、その質問の前に、私に兄弟はいるのかと聞かれた。

 

「私には弟が一人います。海鳴中の二年生です」


「内部進学したら後輩ですけど、今、中二だと、俺たちとすれ違いですね」


「部活が違うから、中高の部活交流で会うこともないですね」


「弟君は、何部なんですか?」


「コンピューター部です」


「コンピューター部? プログラミングの勉強をしたりですか?」


「好きなことをして良いみたいで、弟は動画の編集や電子音楽の作成をしています」


「弟君も音楽好きなんですね」


「私と同じく家族の影響です」


「あっ、満華光(まんげこう)。探して聴いたけど綺麗な曲ですね。あと、作曲者は不明。相澤さんのお父さん、相澤恭二さんが演奏して人気になった曲って説明をネットで見ました」


「父が、自分の母親の実家にある蔵で見つけました。知人の親戚の蔵で発見っていうことにしたみたいです。身内自慢はなんだか……という、私にはよく分からない理由で」


「身内自慢はあまり、はなんか分かります。そうだった。楽しいから忘れそうになりましたが、待ち合わせは何時だと楽ですか?」


 『楽しいから』は『相澤さんと話すのは楽しいから』という意味だから、とんでもなく嬉しい。

 「楽ですか?」とは優しい。

 一方、私は「田中君の地元にしましょう」と言った口で「地元は飽きた」である。

 私も優しい気遣い人間になりたいので、都度、一生懸命考えるしかない。


「お稽古があるので、朝、早いと疲れますよね?」


「いや全然。落ち着かなくて早起きして、さっさと現地にいる気がします。誘ったのは俺なのに、待たせたら悪いですし」


 一朗君は私のことを好きになり始めているのだろうか。

 そのくらい嬉しい言葉をくれる。

 彼の中で『可愛い聖廉(せいれん)生』という分類の女子と、『人生で初めてのデート』だからだろうけど、つい自惚れてしまいそうになる。


「それなら私も早く行きたいです」


「水族館は9時からですが、さすがに早いですよね?」


「早くないです。五時半には起きる生活をしています」


「俺も五時半には起きています。あー、じゃあ九時で。つまらないとか疲れたって思ったら遠慮なく。我慢しないで言って下さい」


「きっと楽しくてそんな事は言いません。田中君こそ、遠慮なく言って下さい」


「まさか。駅はスカイタワー駅ですか? 押山駅ですか? 俺は押山駅で」


「私は押山駅から行きます。スカイタワー入り口で待ち合わせでどうでしょうか」


「そうしましょう」


 慣れてきて親しくなったら、とりあえず待ち合わせて、気ままにプラプラ歩きながらあれこれ決められそうだけど、今はまだお互いのことが分からない。

 だからランチはどのお店にするか事前に決めたり、混んでいる場合、どのくらい我慢出来るかを、今、教え合うのはどうか。

 そういう提案をされて、そうか、確かに慣れた友人と気楽なお出掛けとは違うので、そうした方が良いと感じたから賛同した。


「あの、見栄を張っても無駄というか、隠してもどうせバレるから先に言っておきますが、俺のお小遣いは月五千円です」


 だから、「相澤さんのチケット代は全部払う」と言わなかったそうだ。

 自分が稼いでいないので、自分が奢るという言葉はそもそも成立しないのもあり。

 部活ばかりで遊ぶ日が少ないので、買い食いばかりに使っていると親に見抜かれている。

 部活の友達と大会後の息抜きにスカイタワーをぷらぷらしてご飯を食べると言ったら、おそらく交通費とお昼代として二千円ほど臨時追加される。

 今月のお小遣いの残りは三千円程度。

 今後は買い食いを極力しないようにするし、四月はもう私と出掛けられる日は無い。

 そういう訳で、明日の一朗君の予算は、交通費を除外しておおよそ四千円。

 その半分もあれば、昼食と休憩カフェもいけると考えていると言われた。


「卒業まで全力で部活をするし、怪我で選手が無理になってもマネとして頑張るから、高校の間はバイトをしません」


 お金のことに関しては、背伸びや格好つけは出来ないので、最初に言わないといけないと思ったと告げられた。


「私のお小遣いも月五千円です。同じように私も部活人間なので、明後日は同じような予算です。臨時資金を得られることもありますが、特別な時だけです」


「良かった。そういう意味でも合いそうで」


「私も嬉しいです」


「……」


 私は幸せで胸がいっぱいになったからなんだけど、一郎君が無言になった理由はなんだろう。

 しばらくして、話しかけようとしたら、向こうからまた会話が始まった。

 スカイタワーにあるランチができるお店とメニューを確認して、昼食はフードコートにしようと決めた。

 春のスカイタワーならデッキでのんびりできるので、休憩用の飲み物やおやつを持っていくことも。


「あの、私も初めてなので、その、緊張で変だったら笑ってください。変な子だな、あははって」


「……」


 今の沈黙はなんだろう。

「変な子は好きじゃないから、明後日のデートは嫌」だったらどうしよう。


「あの、その、長くなってしまいました。そろそろ」


「すみません。勉強の邪魔をして」


「えっ? 勉強? 勉強なんてしていませんよ」


「ええ、通話しながらは無理です」


「……相澤さんって、この時間は勉強をしているんですか?」


「勉強しなくても、明日の授業を理解できたり、今日のことを覚えられるんですね。尊敬します」


 一朗君は文武両道人間のようだ。

 優しくて気遣い屋、部活の後に習い事にも行って励んでいる努力家で、頭も良いとはますます格好良い。


「……いや、今ので自分はサボっていると自覚したんで勉強します。今日から予習や復習をして、バカを卒業します」


 私はナチュラルに、この時間は勉強するのが普通ですと言い放ってしまったというか、そう思い込んでいた。

 親しい友人たちもそうだからそうだろうと。

 無自覚に失礼なことを言ってしまったと謝る前に、おやすみなさいと言われたので、こちらもおやすみなさいと返事をして通話終了。

 嫌味な女子と感じずに、私を見習うと言ってくれたので嬉しい。

 一朗君は文武両道ではないようだけど、だから格好悪いとはならず。

 私は彼の部活姿や学業成績を好きになったわけではないので。


 胸がいっぱいで集中できなそうだけど、積み重ねが大切だから今夜もサボらずに予習、復習をする。

 しかし、理性が中々戻らず、明後日になったら一朗君とスカイタワーデートだぁ! とベッドの上をゴロゴロしてしまった。

 服は?

 鞄に服に髪型に靴に……デートとなると全部無い気がする!!!


 会話の流れで『水族館が』がつくと分かるけど、言われたのは「好きです」だけだったので、死ぬかと思ったと、田中一朗はベッドに突っ伏した。

 もう一回聞きたくて、「聞こえなかった」と言ってしまった、二回も好きだと言われたと頭を抱え、髪をぐしゃぐしゃと掻き、そのまま緊張が解けて爆睡した。


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