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枝話「藤野颯と推し部1」

 高松小百合のアカウント名は『2年部長高松小百合』なので、少し威圧感があり、厳つい印象だ。

 さらに、アカウント写真が『熱演』と書かれた旗の写真であるため、なおさら堅苦しく感じる。

 つい見てしまったアカウントの背景写真は、着物姿の女子たちが舞台前で整列しているものだった。

 この写真をアカウント写真にすれば、もっと柔らかい雰囲気になるのに。


 涼とサトウマユカが一朗たちを含めたグループトークを作ろうとしたが、一朗とコトネ主導でそのうち自然にできるだろうと予想し、今夜のことは隠密行動にしようと話して取りやめた。

 そこで、俺が代わりに今日のメンバーだけのグループトークを作り、今いる全員を招待した。

 サトウマユカの父親が車で迎えに来るということなので、それまで雑談をして解散することになった。

 高松小百合もサトウマユカの父親に送ってもらうことになった。

 もしかしたら地元駅で二人になるかもしれないと考え、いろいろな意味で緊張していたのに。

 こうして、小学校卒業と共に他人になった高松小百合と俺は再び知人となり、彼女は俺の中で『高松』になった。

 

 ★     ☆


 連絡先は手に入れたものの、高松にどう謝ろうかと悶々と考え続け、気がつけば翌日の昼休みが来ていた。

 一朗がうんうんと唸っている。

 明後日の日曜日は、珍しく部活が休みだ。大会の翌日だからだ。

 一朗はそのことをすっかり忘れていたが、涼に指摘されて思い出し、これなら彼女をデートに誘えると考えたらしい。

 どう誘うべきか、どこなら行ってくれるだろうか?  それが一朗の俺たちへの質問だった。

 和哉と政は違うクラスなので、わざわざ呼び出された。


「一朗、俺さ。同じ小学校に聖廉(せいれん)の生徒がいて、最近再会したんだ」と、俺はデートプランに悩んでいる一朗に話しかけた。


「へぇ、その顔、嬉しそうだな。聖廉(せいれん)生にコネができて良かったってことか。それで?」


 俺の顔に『嬉しい』って書いてあるのかよ……と少し照れたが、恥ずかしいので隠す。隠せていると良いのだが。

 一朗はスマホの画面を眺めたままなので、俺の発言にはあまり興味を示していないようだ。


「それで? ってさ、だから箏曲部(そうきょくぶ)の日曜の練習がどうなってるか、確認してもらえるんだよ」


「……神が降臨した!」


 一朗はスマホから目を離し、満面の笑みを浮かべながら俺を見た。

 これで口実ができた、と俺はすぐに高松に【明後日の日曜】【大会翌日で部活が休み】【箏曲部はどう?】【一朗が彼女を誘いたい】というメッセージを送信。

 昨日の昼休み、一朗が彼女とLetl(レテル)でやりとりをしていたので、聖廉(せいれん)生も昼休みにスマホを自由に使えることは知っている。

 高松から返事が来るか不安だったが、意外にもすぐに返信がきて、箏曲部は行事や大会前以外の日曜・祝日は休みで、明後日も休みだと教えてくれた。


「一朗、明後日は休みだってさ」


「本人に聞くつもりだったけど、ありがとうな」


 一朗は明後日、習い事があるけど、参加は昼でも夜でも大丈夫だから夜にして、昼間に彼女と会いたい、会うつもりだと宣言。

 それで話題は『昼間にデートするならどこが良いか』に変わった。

 一朗は「お前らに彼女ができたときに役立つから、真剣に調べろ、悩め」と偉そうに言う。

 提案をすると、あーだこーだと理由をつけて「楽しくなかったらどうする?」と文句を言ってくる。


「文句を言うなら自分で考えろよ」と和哉が一朗の座る椅子を軽く蹴った。


「はいはい、そうするよ」


「そうだそうだ。助けてくれって言っておいて、このやろー。振られろ」


 昨日、「尊い、二人を推す」と言っていた涼が「へっ」と口角を上げた。


「涼、そんなことは言わずに!」


「なんで俺だともう結構ですって空気を出すのに、涼にはすがるんだよ!」


「ご覧下さい。まぁ、なんてことでしょう。ハイセンスそうに見えるからです」


 一朗はなぜか涼のメガネを奪い、仏像の真似をして悟りを開いたような顔でそう言って、その後に度がキツくて見えない、目がやられたー、目がーと大笑い。


「これと聖廉(せいれん)生って大丈夫か?」


 俺は思わずそう突っ込んだ。


「今日で三日か。三ヶ月後には振られてるかもな。三の倍数は要注意。今日、絶望しろ」


 涼の昨日の言動はどこへやら。

 一朗は、「そんなことは言わずに、涼ちゃん」と言いながら、ニコニコ笑って、涼に完璧なデートプランを考えろと命令した。


「三ヶ月後は夏かぁ。水着デートとか? 集団デートにしてくれ」


 爽やか笑顔の(まさ)が言うとなんか爽やか。俺が言ったらキモそう。


「はぁあああああ! 誰が見せるか! 誰にも見せるか! 海にもプールにも絶対に誘わねぇ!」


「コトネ〜、泳ぐのだぁいすき♡ 一朗君に見せたい水着も、か、ん、ぺ、き♡ 一緒にプールへ行こう?」


 和哉が猫撫で声を出して、そんな姿勢や角度で喋る女子はいないという位置——机に後頭部をくっつけたところから一朗を見上げた。


「うるせぇ、和哉。黙れ」


「彼女にうるせぇなんてひっどぉ〜い。私とプールに行きたいなんて、一朗君のむっつりセクハラ! 堂々と見てよ!」


「だから行くか! ぶっとばすぞ和哉! 俺のコトネちゃんを使って遊ぶな! そんな台詞、彼女は絶対に言わないからな! 聖廉(せいれん)の方角に向かって謝れ! 土下座しろ!」


 悪ノリしない(まさ)がなぜか乗っかって、「コトネの水着を見たくないの?」と口にしたら、一朗はこっちには自分のコトネを感じたのか、「いやぁ」とタジタジに。

 ふと見たら、隣にいる涼がスマホで動画を撮影していた。


「ちょ、お前。涼、それ、どこから撮影しているんだ?」


(はやて)の突っ込みくらいから。昨日、サトウさんが男子の生態を知りたいって言っていたから」


 俺の手の中で、ぶるっとスマホが揺れたので確認したら、昨日できたグループトークに涼が撮影した動画が送られてきた。

『昨日知りたがっていた、男子の生態』という言葉と共に。

 大笑いする一朗に俺が突っ込み……和哉の悪ふざけにブチギレている一朗が映っている。


「おまっ、これを送ったのかよ」


 動画は、一朗が、「そんな台詞、彼女は絶対に言わないからな! 聖廉(せいれん)の方角に向かって謝れ!」と叫んだところで終了。

 一朗と和哉の印象が悪くなりそうだが、送ってしまって、もう既読がついているので仕方がない。

 一朗と和哉はまだこの動画送信の事を知らないし、このグループトークに不参加の一朗に至っては、教えない限り知ることがない。

 涼は「どうせ実際に見られるから同じ」と涼しい顔をしている。

 一朗はまだ和哉に「土下座しろ!」と切れているけど、本気中の本気ではなくふざけ怒りという様子。

「お前に彼女が出来たらジロジロ全身見られていいんだな? 俺が見てやる」と和哉に詰め寄っている。


「一朗君にはコトネがいるのに、他の子を見るなんて浮気者!」


「だから、気持ち悪い声を出すな!」


 和哉はまだ偽コトネ遊びを続けていて、とても楽しそうだ。


 少しして、また手の中でぶるっとスマホが揺れた。しかも何度も。


 2年部長高松小百合【琴ちゃんは日焼けが痛い人だから海もプールもいきません】


 これでコトネは『琴ネ』でそうなると『琴音』だろうという予測がつく。


 さとまゆ【これが男子!】


 さとまゆ【行かないからたなか君安心】


 さとまゆ【たなか君ここにいなかたー】


 さとまゆ【伝よろ】


 よろしくというポップな絵柄のスタンプがきた。

 サトウマユカは、随分とくだけた言葉遣いである。


 一ノ瀬涼【了解】


 和哉【二人は行くの?】


 サトウマユカが気さくだからか、和哉も友人に対するようなトークだ。


 和哉【海とかプール】


 さとまゆ【日焼け嫌い】


 さとまゆ【家族でドライブやBBQは行く】


 2年部長高松小百合【地元の友達に誘われてたまに行きます】


 2年部長高松小百合

 @颯 

 【藤野君。愛ちゃんと紗南ちゃんと鈴ちゃん。覚えてる?】


 なんか、高松にメンションされた……!

 

 颯【下の名前だと分からない】


 颯【高松と仲が良かったあそこらへん? とは思い出せるけど】


 さとまゆ【幼馴染感!】


 さとまゆ【わたしもさゆちゃんと幼馴染だもん】


 別の通知がきたので、『家族の誰かから何かか? 明日のことで先輩からか?』と思ったら、高松から個人的なトークで驚く。


 2年部長高松小百合【だって】


 何が「だって」なんだ?

 グループトークに戻ったら、サトウマユカから、『尊い推しのために、グループ内恋愛を禁ずる』と送られてきていた。

 理由は周りがギクシャクしたら迷惑だから。

 高松から個人的に「箏曲部二年は可愛い子ばかりだけど残念でした」と送られてきた。

 返事をどうするか迷っていたら、グループトークの通知がどんどん増えていって、それどころではない。

 

 さとまゆ【この男子四人とわたしたち】


 さとまゆ【ことちゃんの親友のれいかちゃんとみゆちゃんは禁止】

 

 さとまゆ【OK?】


 全然OKではないです……と心の中で呟いて、俺はやはり高松が好きなのか……と動揺。


——さとまゆがグループ名を変更しました——


 グループ名が『推し部』になった。

 涼がOKというスタンプを送ると、(まさ)もOKというスタンプを送り、和哉は『Can't stop twinkling.』という台詞を言っているアニメキャラのスタンプだ。

 和哉はその後に、本気は仕方ないというか禁止するべではない、本気なら各方面に配慮をするだろうからという、とても真面目な言葉を続けた。

 ふざけているけど根っこは真面目な和哉らしい。

 サトウマユカが拍手のスタンプを送ってきた。


 一ノ瀬涼【部則1:周りに迷惑をかける、軽いノリでの部内恋愛は禁止】


 一ノ瀬涼【補足:特に推し対象の田中一朗とあいざわことねさんに迷惑をかけないこと】


 さとまゆ【相澤琴音】


 これでアイザワが相澤だと分かった。


 一ノ瀬涼【部則2:法律違反、反社会活動を禁ずる】


 一ノ瀬涼【部則3:セクハラ発言は永久追放】


 一ノ瀬涼【部則4:全員、喧嘩をしないように努める】


 一ノ瀬涼【部則5:助け合う】


 一ノ瀬涼

 @和哉

 【部則3はお前だけの部則】


 佐藤政道【お前しかいない】


 それなら俺も、『お前だ』というスタンプを送る。


 和哉【俺を不当に下げるな!】


——さとまゆが麗華を推し部に招待しました——


——さとまゆがはしもとみゆを推し部に招待しました——


 さとまゆ【あずまさんー】


 さとまゆ【はしもとさんー】


 さとまゆ【海鳴剣道部2年(田中君除外)と一緒にことちゃんと田中君を推して守る会が発足しましたー】


 麗華【えっ? なにそれ?】


 招待された『麗華』という女子はすぐに反応。


 さとまゆ【写真】


 写真は部則の投稿と、和哉が『俺を不当に下げるな』というところまでのトーク画面のスクショだ。


 さとまゆ

 @和哉

 【こちらの坂上さんが決めました部長さんです】


 和哉

 @一ノ瀬涼

 【早坂です。部長は涼でこいつです】


 さとまゆ【指がすべりました名前すみません】


 さとまゆ【すみませんというポップな絵柄のスタンプ】


 和哉【颯と高松さんが幼馴染というか同小で】


 和哉【再会して推し部が出来ました】


 2年部長高松小百合【琴ちゃんの彼氏さんの友達が同小の藤野君でした】


 麗華【そうなの?】


 2年部長高松小百合【うん】


 颯【小学校一年から三年まで同じクラスでした】


 颯【昨日再会しました】


 麗華【みなさんはじめまして】


 麗華【東麗華です】


 麗華【よろしくお願いしますという眉毛が濃い猫のスタンプ】


 この変な猫のスタンプはなんだ?


 麗華

 @颯 さん

 【高松さんにはいつもお世話になっています】


 はしもとみゆ

 【はじめまして。橋本美由です】


 はしもとみゆ【よろしくお願いしますというほんわかした猫のスタンプ】


 佐藤政道【よろしくお願いします】


 さとまゆ【さとうなかーま】


 和哉【佐藤被りなのでまさ君やまー君でどうぞ】


 さとまゆ【それなら男子はさとまゆでどーぞ】


 麗華【濃い眉毛の猫がキュピーンという目をしているスタンプ】


 はしもとみゆ

 @颯 さん

 【同じく高松さんにお世話になっています】


 はしもとみゆ

 @颯 さん

 【海鳴に幼馴染がいたなんて初耳です】


 麗華【隠蔽であるカニ? という変なスタンプ】


 またしても、なんだこのスタンプは。

 海の生物がシュールな表情をしている淡い水彩画。結構好きかも。

 気になって確認したら眉毛が濃い変な猫も、このスタンプも個人制作のものだった。


 はしもとみゆ【琴ちゃんと田中君がきっかけで再会。偶然ってすごいですね】


 麗華【高松さん、あとで直接聞きます】


 麗華【推し部とは何をする部ですか?】


 さとまゆ【ぶちょー】


 さとまゆ【あっ、わたしふくぶちょー】


 一ノ瀬涼【鬼門の3ヶ月を祝う】


 一ノ瀬涼【次は1年】


 さとまゆ【色々応援する!】


 麗華【推しって推し活の!】


 はしもとみゆ【わたしたちは応援団ですね!】


 麗華【賛成です!】


 さとまゆ【私とさゆちゃんだけだと情報不足〜】


 さとまゆ【ポップな絵柄の助けてというスタンプ】


 さとまゆ【明後日初デートかもって】


 さとまゆ【田中君これから誘うらしいから内緒】


 麗華【剣道部も日曜は部活がないんですか?】


 和哉【明後日は大会翌日で】


 麗華【皆さん大会がんばってください!】


 和哉【団体戦だけで先輩だけが出ます】

 

 佐藤政道【俺たちはサポートと見学です】


 一ノ瀬涼【女子の理想の初デート先不明】


 この流れはこうだなと、俺は『help』というスタンプを送信。政も助けてというスタンプを追加。


 さとまゆ

 @麗華

 @はしもとみゆ

 【琴ちゃんのことは2人かなって】


 麗華【琴ちゃんは多分どこでも】


 はしもとみゆ【そうだね】


 麗華【ちらっと未来のこととして聞いたら】


 麗華【映画は喋れないから仲良くなってからだそうです】


 はしもとみゆ【どこでもじゃなかったね】


 麗華【どこでもって言い出しました】


 麗華【全部デートだそうです】


 はしもとみゆ【田中君がいれば全部楽しいそうです】


 一朗がこの言葉を知ったら、どうなるか想像に容易い。ヘラヘラ笑って『可愛くて死ぬ』と言う。

 あっ、チャイムが鳴った。

 トーク画面にチャイムという単語やさようならというスタンプが飛び交う。

 結局、一朗は琴音をどこへ誘えば良いのか聞けていない。

 この後、部活が終わるまでスマホの電源が入ることはなかった。

 部活後、一朗は「直接誘いたい」と言い、彼女に連絡を入れて、返事がないからひとまず聖廉(せいれん)の校門前で待つと去った。

 「お前らは帰れよ」と言い残して。


 推し部のグループトークに、涼が『これから一朗が相澤さんをデートに誘うから邪魔をしないで助けましょう』と投稿。

 推し部の全員が、各々好きなスタンプで、OKや了解と送り合った。

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