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2話 命あっての寿命ー3

「もう一つの方法ですが、ユニさんの腹と子宮をあけて、今すぐ赤ん坊取り出す。そして、赤ちゃんに必要に応じて治療魔法をかける。必ず必要になるのが、肺の治療です。」


 サクラは丁寧に説明する。

 そんなにゆっくり説明して大丈夫なのか、といわんばかりに店主が足をゆすりだしたが、奥方であるユニがその膝を叩く。


「妊娠週数はおそらく30週ーこれは最後の月経からですか?」


「不規則なので、たぶんですが…」


 それだけ月経が止まっていたのなら妊娠に気づいてほしかったところではあるがとサクラは思ったが、今言っても仕方がない。それに低位胎盤も早期破水も早めに妊娠に気づいたからと言ってどうにかなるものでもない。


「それくらいだと、赤ん坊の肺を膨らます物質が出ていないので、そのままだと呼吸がうまくできない。ですので、治療魔法をかけて肺を膨らませて、機能を保てる物質を増やす治療をする必要がある。そしてーこれは、赤ん坊の生命力を使う。ただ、赤ん坊の少ない生命力を使って、足りるかどうかは確実なことは言えない。」


「サクラ先生、俺の生命力を代わりに使うわけにはいかないのか?」


 店主はサクラに治療を任せると決めたらしい。先生と呼称がついていた。


「俺の魔法は、魔力の代わりに患者の生命力を使って治療することはできるが、魔力と違って生命力はその人の体の中に根付いているだ。人から人に生命力は譲渡できない。俺の生命力で、赤ん坊を治療することも同様にできない。」


「先生、今私の体の中にいるなら今私の一部として私の生命力を使って治療できるんじゃないの?」


 ユニも口を出してきた。


「なるほど、赤ちゃんがお腹の中にいる間は同じ命の源からなので、やってみたらできるかもしれないーがーいやー…


 母親ののおなかを切る治療と、切った後胎盤を取った後血を止めるための治療、場合によっては子宮を取って治療が必要になる、そして胎盤が出産よりも先にはがれた場合、体の中の血が止まりにくくなったり固まりにくくなる状態になるので全身の治療も必要になります。

 これらを考えると、母親の生命力を他に回す余裕は全くありません。


 それに、赤ん坊の呼吸ができなくなる症状は、産まれてから出てくるものなので、お腹にいる間に治療魔法をかけても、産まれてから呼吸がうまくできるのを補助はできない可能性もあります。」


 正確には、治療魔法という形ではなく、肺サーファクタントを体内で増やす魔法だけなら、かけられるかもしれない。ただ、選択肢があまりに増やしてそれらすべてに悩んでもらっている暇はないのだ。

 二人は明らかに困惑しているがそこに構う余裕はなく、サクラはそのまま続ける。


「初めて聞いたばかりの話も多いだろうし、判断は難しいと思うが、あまり余裕はなし。同意をもらえた場合にすぐ治療に移れるよう、俺は準備を始めるから、二人で話し合ってくれ。」


 そう言ってサクラは持っていた鞄を開き、見たことのない器具を出し始めた。


「サクラ先生、私、見たことのないものがたくさんあるんですが…」


「こんな診たこともない器具で治療と言われても…」


 メアリともう一人ユニに付き添っていた女性がいぶかしげにその様子を眺める。

 加減を見ながら水に湯を足しているトーヤも目をやるが見たことはない器具ばかりだ。

 治療師の出てくる絵本や話の挿絵で治療師が患者に手をかざしているのを診たことがある程度で治療師の治療が通常どんなものかも数えるほどしか見たことがないので、それがどれだけ変わっているものがあるのかはトーヤにはわからない。


「…この自己紹介をしたからと言って、安全度が上がるわけではないが。」


 サクラは鞄から何か紋章のようなものを出した。




「俺はこの国の皇子の命を受けて旅をしている。これが一応証明書だけど…今は本物であることを証明できる方法も人もいないから、本物かどうかに関しては信じてもらうほかはない。関所で身分証代わりに使っているものだから、魔力を感じ取れる人間がいれば、証明できる。」


 手に持った金属の板には、この国の人間なら子供でも知っている紋章が書かれている。

 王家の紋章だ。すぐ下に何か文字が彫ってある。


 奥方に渡されたそれを、店主とトーヤとメアリがのぞき込む。

 王家の紋章が入った通行手形の本物を見たことはないが、堀の細かさや装飾にあしらわれている細かな宝石と重れる色のついた石は、細工物としては間違いのない高級品だ。


「王家の紋章、王家の紐付きってことか…」


「まあ悪く言えばね。で、こっちの準備は終わったよ。あまりゆっくり話をしていたくないんだけど、どうする?準備したからと言って、納得いってない治療をさせたいわけではないんだ。」


 店主のつぶやきにサクラは苦笑する。

 ずっと鞄から色々なものを出したり、見たこともない針が付いた容器に液体を入れていたのが一体何の準備なのかはわからなかったが、準備は終わったらしい。


 店主とその奥方ユニの2人は顔を見合わせて、少しのまの後頷いた。

 サクラに向き直り、お願いしますと頭を下げる。


「出来る全ての力と方法をもって、治療にあたることを約束します。」


 サクラはさらに深く、頭を下げた。


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