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2話 命あっての寿命

「治療の対価として、寿命が必要になる。」


 青い髪の少年は、淡々と言った。


「…寿命は、どれくらいのだ。」


 店主が問う。当然の疑問だろう。


「さっきも言っただろ。やってみないとわからない。そもそも人によって寿命は違うから、どれくらい減ったのかは確認できない。ただ、おそらく、間違いなく減るというだけだ。」


 淡々と、というよりは少し面倒くささが隠せていない。

 少年は頭の後ろをかきながら答えた。

 おそらく何度もこのやり取りをしたからだろうなとトーヤは思った。

 魔力は髪にたまるというので、魔力を持っている貴族は有事の際の為に髪を伸ばしているのが通常だと聞いていたが、この少年は違うらしい。


「そうだ。それを聞いてさっきは断った。だけど、命あっての寿命なんだ。このままじゃ子供だけじゃなくー妻まで助からないかもしれないんだ。治療院につれてったが、次に来るのは2日後だっていわれたんだ。間に合うかどうかわからない。」


「わかった、行こうか。」


「前に馬車を待たせている。」


「わかった、治療院に人がいないなら、この坊主もつれていっていいか?何かあった時の為に、人の手はあった方がいい。」


「もちろんだ。トーヤ、頼めるか?」


「オレにできることがあるなら手伝います。店にはさきにここの手伝いで帰りが遅れるとすでに言ってありますから大丈夫です。」


 トーヤは答える。状況はよくわからないが、人手があった方がいいというのならついていこう。


「わかった、すまんな。」


 3人は表に止めてあった馬車に乗り込んだ。

 一瞬冷静になったトーヤは戸締りだけはしっかりしてから出た。


 青い髪の少年と店主は今の奥さんの状態について話を始める。

 産気づいたというのは、腹の大きくなった妻が腹の痛みを訴え破水したということらしい。


 出産の十月十日には遠いが、一応妊娠期間は出産可能な時期ではあるということ。

 ただ、本人も店主も少し太ったくらいの認識だったため、妊娠の確認や治療院の受診は一度もしていないということ。



 なるほど。

 おそらく店主は「治療には寿命が必要」という言葉を受けてか、初めて会った少年が信じられないのかどちらかはわからないが、はじめに治療院に治療を受けに行ったらしい。



「ちなみに、俺はできることをできるだけするつもりだけど。奥さんと子供、万一の時はどちらを優先する?」



「…さっき治療院でお互い確認した。妻は子供というが、俺は妻だ。子供も大切だが、妻があっての話だ。今頼んでるのは俺だから…妻優先で頼む。」



 一瞬の逡巡の後、店主が答える。


「わかった。妻優先だな。」


 迷いのない青い髪の少年にトーヤは小声で尋ねる。

 小声と言っても、店主は目の前にいるので聞こえてはいるだろうが。


「奥さんの希望はいいんですか?」


「奥さんが子供の命を優先することを希望したとして、子供だけ助かっても困るのは店主だろう。奥さんが助かった場合、子供のことは店主に説得してもらおう。第一おれは、妊娠していることは伝えたがそもそも中にいる子供が元気な子なのか、生きているのかも見ていない。決して子供を軽んじているわけではないけどな。」


「でも…」


「今俺と話しているのは目の前の店主だ。もめるのは命あって出来ることだ。」


 青い髪の少年は言い切った。


「おそらく、奥さんは産み月より早く子宮ー赤子の入っている部屋のことだが、そこが赤子を出そうとしている状態だ。薬や魔法を使って抑えられるのか一番いいが、破膜されているなら感染症の危険もあるし、赤子は出されやすい。すでに赤子が出され始めている場合は子供に危険性が伴うが、子供を産んでしまわないと母体の方に危険が伴う。場合によっては、子宮もとることになるな。」


「子宮を取る?!」


「そんなの聞いたことないぞ!?」


「俺も実際やったことがあるわけじゃないし、やったことがあるやつはほとんどいないだろう。ただ、子供が腹にいるとき、子宮にはたくさんの血管が走り太くなっている。抑えて止まるものではないし、勢いがつよけでは待っていても出血が増えるだけだ。命を優先するなら、子宮自体を取って出血しないようにするしか、方法がない場合もある。」



 実際やったことがない治療をするなんて、大丈夫なのだろうかー


 ただ、今この地には治療師は他にいないし、何もしなければもっとまずい状態になるということなのだろう。


 返事ができないでいる店主に、青い髪の少年はつづけた。


「可能な限り、何かするときには説明して許可を得ながらすすめるようにする。ただ、これは他の治療師が見ていたとしてもそうだが、治療魔法は万能じゃない。例え寿命を引き換えにしたって、ない足を生やすこともできないし、出過ぎた血を増やすこともできない。


 全力はつくす。でもそれだけだ。」


 先ほどまでの、人懐こそうな少年の顔は見当たらない。

 店主は硬くこぶしを握り締めて下を向いている。


 重苦しい雰囲気になった中、馬車が止まった。


 どうやら治療院についたらしかった。

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