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9.休息

 目が覚めた時、最初に見たのは悲愴な顔をしたレズリーだった。

 何故かとても体が重い。

「お姉ちゃん!目が覚めたんだね!」

 レズリーの叫びにベッドの周りにみんな集まってきた。

「お姉ちゃん、二日も目を覚まさなかったんだよ」

 

 あぁそうだ、天上の扉を開いたら気を失ったんだっけ。

 二日も眠ってたのか、道理で体が重いわけだ。

 クレイグさんが差し出してくれた水を飲む。生き返る心地がした。

「良かった、目覚めて」

 ジャレット団長が泣きそうな顔で言った。またみんなに心配をかけてしまったな。

 

 みんなに介抱されていると、ヒューバート王子がやってきた。

「すまなかったね、アーリン」

 王子は私に頭を下げると落ち込んだような様子で言った。

「これほど君の負担になるとは思っていなかったんだ。僕の過失だよ。もっと慎重にならなければならなかったのに、あの屋敷を何とかしたかったんだ。君を犠牲にするつもりなんてなかった。目が覚めて本当に良かったよ」

 私は何も言えなかった。私自身も強制葬送がこれほど体に負担が掛かるとは思っていなかったのだから。

 

 ジャレット団長が王子を見ながら私に言った。

「俺も、もっと強く止めるべきだった。それが六翼の役割でもあるのに……申し訳なかった。次からは決して無理はさせない」

 彼はかなり落ち込んでいる様子だった。今でも過保護なきらいがあるのに、今後はもっと過保護になりそうだ。

「とにかく、力が回復するまでは休暇にするよ。ゆっくり休んでくれ」

 ヒューバート王子は部屋から去っていった。

 入れ違いでウォーレンさんが食事を持って来てくれた。


「ウォーレンさんありがとうございます。今回も結局助けられてしまって……」

「気にしなくていい、それが六翼の仕事だ……だが、今回は無理をさせてしまった。しばらくゆっくり休んでくれ」

 ウォーレンさんは優しく微笑むと食事を差し出してくれた。

 実はお腹がすいていたので嬉しい。

 

 

 

 さて、突然の休暇になってしまったので何をしようか。

 今日は安静にしているように言われているので退屈だ。

「アーリン、アーリンのお母さんがお見舞いに来てるよ」

 リオくんがお母さんと一緒に部屋に入ってくる。ナイスタイミングである。

「アーリンが目覚めないと聞いて心配していたのよ、でも元気そうね、良かったわ」

 お母さんはベットの横に置いてあった椅子に座ると、ホッとしたように笑った。

「大丈夫、元気だよ!ちょうど退屈してたんだ」

 お母さんはクスクスと笑うと大きな袋を差し出した。

「これ、お見舞いよ」

 中を見るとお菓子や食材が入っていた。私の大好きなモヤシもある。

 

 モヤシが好物と言うと貧乏臭く聞こえるかもしれないが、前世では大変お世話になった食材なのだ。

 何故かと言うと、推し活にはお金がかかるからだ。

 さらに悪いことに、前世で推していたアイドルグループの一人がテレビの企画で大豆を育てていた。だから私も真似して庭で大豆を育てていたのだ。

 

 私が箱推ししていたアイドルグループ『ソニックムーブ』は、メンバー全員に人並み外れた特技があるという変わったグループだった。

 それぞれが『料理と製菓』『農業とDIY』『電車と旅』『演劇と映画』『スポーツとトレーニング』といった特技と趣味があった。

 彼らの冠番組ではそれぞれが特技を活かして色々な挑戦をしていた。彼らが挑戦したことは自分もやってみたくなる。私がお菓子を作れるのだって、製菓好きのレイくんがレシピ本を出版してくれたおかげだ。

 番組では農業が好きなタツミくんが作った大豆で、レイくんが色々な料理を作っていた。これがまたコスパが良いのである。

 そんなこんなで、前世の私の主食はモヤシだった。

 こちらの世界でも、彼らを思い出して元気になれるモヤシは大好物である。

 

 

 

 お母さんがわざわざ作ってくれた自家製モヤシに喜んで、暫く雑談するとお母さんは帰って行った。

 今の時間の護衛のリオくんとクレイグさんの許可をとって調理場に行くと、早速モヤシ炒め作りを開始する。

 

「アーリン、それ大豆の芽だよね。そんなのどうするの?」

「どうって、食べるんだよ」

 そういうと、リオくんが驚いた顔をした。私は気にせずモヤシ炒めを作る。

「リオくん達も食べてみる?」

 二人とも食べると言うので三人前作った。出来上がったモヤシ炒めに二人は興味津々だった。そんなにおかしかっただろうか。

 

「すごい、美味しい!こんな食べ方があったんだ!」

 リオくんは大喜びである。聞けばリオくんは、大豆畑しかない寒村の出身で食事は大豆ばかりだったそうだ。それでも大豆の芽を食べる習慣はなかったらしい。

「これ、村のみんなにも教えてあげていいかな?」

 特に秘密ということもないのでもちろんと了承する。するとクレイグさんが私もいいですかと言ってきた。


「孤児院の職員に教えてあげたいんです。大豆は安価で手に入りますから、色々な食べ方が出来ると嬉しいでしょう」

 そういうことならと、私は覚えている限りの大豆活用法を話した。前世の推し活がまさかこんな所で役に立つとは。後で紙に纏めてあげよう。

 

 私たちの大豆談義は交代の護衛が来るまで続けられるのだった。

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