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7.ご褒美

 初任務の次の日、ヒューバート王子が私の所へやってきた。

「アーリンに初任務成功のご褒美があるんだ」

 そう言ったヒューバート王子は懐からなにかの紙を取り出した。

「君の大好きな劇団『オレンジ』のプレミアム舞台チケットだよ」

 私は喜びのあまり叫びそうになった。私は笑顔でチケットを受け取る。ここに来てから一番の笑顔だったと思う。

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

 実はここに来てから一度、舞台を見に行きたいとお願いしたことがあったのだ。しかし警備の都合で無理だと断られた。その時の私は絶望を体現した顔をしていたと思う。

「今は六翼がいるからね。VIP席なら警備も入れられるし問題は無いよ」

 VIP席!憧れのVIP席で舞台が見られるのだ!なんて素敵なんだろう。葬送師になったことで初めて喜びを感じたかもしれない。

 私は飛び跳ねて喜んだ。人の目なんて気にしない、それくらい嬉しいのだ。レズリーが良かったねと笑ってくれた。一緒に警備していたライナスさんは不思議そうな顔をしている。

「今後は任務以外では好きな時に舞台を見に行っていいからね」

 私の様子を見たヒューバート王子がホッとしたように言う。

 私の表情が暗いのをずっと気にしていたようだ。

 

 

 

 そうと決まれば差し入れとボードの準備をしなければならない。

 私はキッチンに走った。自分で作って食べようと思って材料を仕入れておいて良かった。

 後ろからレズリーとライナスさんが走って付いてくる。途中からちょっとレースのようになった。ライナスさん早すぎる。

 キッチンにたどり着くと早速のど飴を作り始める。

「何作るんだ?」

「のど飴とパウンドケーキです。ケーキはライナスさんたちの分も作るね」

 ライナスさんが目を輝かせている。レズリーは手伝うよと言って袖をまくった。パウンドケーキは全ての材料を同量混ぜるだけなので簡単でいい。大量に焼いても午後の舞台には間に合うだろう。そう言えば、日本のアイドルコンサートなどでは食べ物の差し入れは厳禁だったりするが、ここではそんなルールがない。差し入れを食べるか食べないかは個々の判断に委ねられているようだ。私はいつも特定の役者さんではなく、劇団関係者の皆さんにと言って渡しているのであまり警戒されてはいないようだ。それに菓子屋の娘なので持っていくのはいつもうちの商品だ。綺麗にラッピングされている。

 

 さて、ケーキを焼いている間に次はボードづくりである。今日の舞台は新作のラブコメらしいので可愛くしよう。

 私は『新作初見楽しみ』と各役者名の後に『最高』と書いたボードと『お疲れ様でした』のボードを用意した。今気づいてしまったのだが、劇上のVIP席は上階の個室だ。後ろに人が居ないのである。ボードを思いっきり掲げて振っても誰の邪魔にもならないのである。最高だ。いっそプラカードのように持ち手をつけたい。

 ボードを作る私をライナスさんが不思議そうに見ている。

「観劇って行ったことないんだが、こんなの必要なのか?」

 ライナスさんの中の観劇像が何だかおかしなことになってしまいそうだったので、慌てて応援のためだと説明する。何故か感心されてしまった。

 レズリーは黙々とボード作りを手伝ってくれる。私が作ったのより可愛いかもしれない。

 

 

 

 そして全てが出来上がった頃には出かける時間になっていた。

 護衛をウォーレンさんとジャレット団長に交代して劇場へ向かう。

 楽しみすぎてずっと顔がにやけていたらしく、二人に微笑ましげな笑みを向けられた。

 

 劇場についてVIP席に案内される時、劇場の支配人さんがやって来た。彼は私を見てとても驚いていた。

「新たな葬送師様がいらっしゃると聞いていましたが、アーリン様でしたか。最近いらっしゃらなかったので、劇団員一堂心配しておりました」

 実はボードを掲げ始めた時、支配人さんとは一度話したことがあったのだ。その時は怒られるかと思ったのだが、劇団員の励みになるとお礼を言われた。

 私のことを覚えていてくれたようだ。

「今日も差し入れを持ってきました。皆さんで召し上がってください」

 そう言って差し入れを渡すと、特にのど飴が団員に人気なのだと教えてくれた。やっぱり喉は大切だものね。

 

 席について支配人が去ると、ジャレット団長に、団員に心配されるほど通いつめてたのかと呆れられた。

 そりゃあもうお金の許す限り通ってましたとも。今日は久しぶりなので楽しみだ。

 

 

 

 観劇が終わると私の心は満たされていた。途中興奮しすぎてボードをブンブン振り回してしまったりしたが、ご愛嬌だ。

 そしてなんと、舞台に出演していた役者さんたちが挨拶に来てくれた。さすがVIP席である。ヒーローとヒロインを演じていたシオドリック様とクリスティン様、この劇団には女性がいないので、どちらも男性の役者さんだ。

 クリスティン様の美しさには感動した。本当に男性なのだろうか。まさに女神もかくやという美貌だった。シオドリック様にもクリスティン様にもボードと差し入れのお礼を言われて、全てが報われた気がした。

 もう夢見心地である。

 

 帰りの馬車でもずっとニコニコ笑う私に、ウォーレン様は優しげな目で、そんな顔で笑えるんだなと言った。私は自分で思っていたよりも、暗い顔をしていたのかもしれない。

 ウォーレン様もジャレット団長も安心したように笑っていた。

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