5.騎士たちとの茶会
日当たりのいい中庭にテーブルセットが用意させる。
準備してくれた、私の世話役の神官のお姉さん達にお礼を言うと、みんな席に腰かけた。
レズリーは私の隣に座って、疲れたでしょうとマカロンを取り分けてくれる。神官のお姉さんたちがわざわざ私の実家から買ってきてくれたのか、並んでいるお菓子はみんな家の物だった。
嬉しくてちょっと泣きそうになってしまった。
「えと、改めてよろしくお願いします。アーリン……ダイヤモンドです」
姓を言うのにちょっと躊躇ってしまった。まだ慣れない。
みな穏やかな表情で挨拶を返してくれた。
「ここにあるお菓子、みんなお姉ちゃんの家のお菓子だね」
話題に困っているとレズリーが話題を振ってくれる。天使かこの子。
「え?これマカロンだよね!あの『カリオン』が実家なの……ですか」
茶髪のリオさんは慌てて敬語に切り替えていた。どうやら敬語は苦手らしい。
「敬語じゃなくて大丈夫だよ。皆さんもそうしてください。これから一緒にいることが多いみたいなので、話しやすいように話しましょう」
リオさんは大陽のように朗らかに笑った。癒されるなこの子。
「ありがとう、田舎から出てきたばっかで敬語苦手なんだ」
「私もつい昨日までは平民だったから分かるよ、疲れるよね。あ、リオくんって呼んでいい?私もアーリンでいいから」
リオくんは了承してくれた。
「カリオンといえば今王都で大人気の菓子屋だよな。実家が菓子屋っていいな」
赤髪のライナスさんが羨ましそうな顔をする。彼は甘いものが好きらしい、皿の上に山盛りにして食べている。
「お前たちちょっと寛ぎすぎだぞ、俺たちは護衛なんだからな」
銀髪のジャレット団長が注意する。
「まあいいではありませんか、アーリンも堅苦しいのは好まないようですし、ここは神殿の中ですしね」
青髪のクレイグさんは眼鏡を押し上げながら丁寧な口調で言った。インテリっぽい。
「そういえば、ダイアモンド騎士団の人達はみんな若いみたいですけど、何でですか?」
団長に気になっていた事を聞いてみる。
「それは王子殿下のご配慮だ。アーリンと歳の近い騎士でまとめたそうだ、選考にとても悩んでいたぞ」
ヒューバート王子は本当に私のことを気にかけてくれているらしい。
「でも経歴の長い人がいないと、纏めるの大変じゃないですか?」
「そうは言ったんだが何が何でも歳の近い男で固めるって聞かなくてな」
「そこまで配慮して下さらなくても逃げたりしないのに……大変でしょうけど、騎士団長、よろしくお願いします」
私が頭を下げると、ジャレット団長はオッサンは俺だけだが任せろといって笑い飛ばした。
快活で好感の持てる人だな。なかなかのイケおじだ。
「アーリンは葬送師の勉強をもう終えたのか?」
ミルクティー色の髪のウォーレンさんが聞いてくる。
彼は髪色の通りミルクティーが好きらしく、紅茶に大量のミルクを入れている。
「はい、それほど学ぶ量は多くなかったので」
「なら近いうちに任務を与えられるだろうな、最初は簡単な任務からになるから大丈夫だと思うが、心構えだけはしておけ」
私は言葉に詰まった。顔に出ていたのだろう、みんな心配そうに私を見ている。
「お姉ちゃんは怖いの苦手だもんね……僕が守るから安心して」
レズリーが決意を固めたようにして言った。
「怖いのが苦手か……亡者は恐ろしいものでは無い。彼らは救いを求める元人間だ。あまり怖がってくれるな」
ウォーレンさんが真剣な顔で言う。彼の緑色の瞳は何処か悲しそうだ。
「彼らを救えるのは葬送師だけだ。俺たちは穢れた土地の浄化はできても、天上に送ることは出来ないのだから」
彼の真剣な言葉に気を引きしめる。そうだ、いくら逃げたくてもやらなくてはならないのだ。
「分かりました、亡者たちを救えるよう頑張ります」
「それでいい、サポートなら惜しまない」
ウォーレンさんがホッとしたように笑う。彼の瞳は暖かい色をたたえていた。
その後はお菓子の話で盛り上がった。私がマカロンの考案者だと言うとみなに驚かれたが、レズリーが私の作るお菓子をベタ褒めするのでちょっと恥ずかしかった。
実は私が孤児院に通っていたのは、新作のお菓子を味見してもらうためだったのだ。
新商品の開発していると、大量の試作のお菓子が出来上がるので、食べ物を無駄にしないためにも子供たちが役に立った。
みんな喜んでくれるしウィンウィンなのである。
ここでも暇な時は作るつもりだと言ったら、ライナスさんにめちゃくちゃ喜ばれた。
孤児院に持っていきたいという話をしたら、クレイグさんが、彼の管理している孤児院にも持って行ってあげて欲しいと言った。
どうやらクレイグさんは子供が好きらしい。こちらとしては大歓迎なので二つ返事で了承した。若いのに孤児院を運営しているなんて立派な人だな。
リオくんも、六人兄弟の長男らしく子供の扱いに慣れているらしい。その時は同行したいと言ってきた。
私の六翼は若いのに立派な人ばかりのようだ。ヒューバート王子の人選は素晴らしいが、私はちょっと不安になる。私は葬送師の力を持っているだけのただの小娘なのだから……彼らに幻滅されはしないだろうか。
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