4.ダイヤモンド
今日は私の叙爵式だ。今まで着たこともないような豪華なドレスを着せられて、メイドさんたちにお化粧されている。
この後王様に謁見するらしい。とても憂鬱である。
化粧が終わり鏡の前に立つが、出てきた感想は七五三みたいだ。違和感しかない。
部屋にヒューバート王子が迎えに来てくれた。花のように美しいと褒められたので曖昧に笑ってお礼を言っておいた。
エスコートされて廊下を進むと王様の待つ謁見室にたどり着く。
緊張で心臓が口から出そうだ。
扉が開いて先に進むと、教わった通りに跪く。
「この度、新しい葬送師が誕生した。この慶事に葬送師アーリンに男爵位とダイアモンドの姓を授ける。」
どうやら私の姓はダイヤモンドになったらしい。平民上がりの葬送師は王によって姓が与えられるが、この王は毎度宝石の名を与えているらしい。過去には犬の犬種縛りだった王も居たようだから、それよりはマシだろう。
アーリン・ダイヤモンド。すごい名前だな。
王への謁見は一言二言言葉を返すだけで恙無く終わった。
この後は神殿に帰って騎士のお披露目らしい。楽しみにしているように王子に言われた。
神殿のホールに入ると、そこには三十人程度の騎士がいた。これが全部私の騎士団らしい。
最前列にいる六人が例の『六翼の聖騎士』だろう。
私はその騎士を見て驚いた。見知った顔がいたからだ。あの子は間違いなくレズリーだ。目が合うとレズリーは満面の笑みを見せてくれた。
彼は私が通っていた教会直属の孤児院の男の子である。私のことをアーリンお姉ちゃんと呼んで懐いてくれていた。まだ十三歳なのに何故騎士服を着てここにいるのか。
「驚いたかい?」
ヒューバート王子がイタズラが成功した子供のように笑った。
「君のことを調べていたら、彼の方から志願してきたんだよ」
私を調べたってどういう事だ。なんでもないことのように言う王子怖いな。いつの間に身辺調査なんてしたんだ。
それに志願してきたからって十三歳の子供を騎士団に入れるなよ。
「君が少しでも楽に働けるように、気を配ったつもりだよ」
どうやら王子のお茶会の時の発言は本気だったらしい。私としては嬉しいが、どう反応したらよいものか……
「それじゃあ、君の六翼を紹介するよ。そこの銀髪の彼がジャレット・ルーズヴェルト。ダイヤモンド騎士団の団長でもある。騎士団の中じゃ最年長だね」
ジャレットと呼ばれた騎士はまだ三十代くらいに見えた。これで最年長とか嘘でしょ。
彼は深く礼をすると挨拶してきた。
「次がウォーレン・ウッド。副団長だよ」
彼はミルクティー色の髪をしていた。美味しそうな色だ。とても整った優しげな顔立ちをしている。
「次がクレイグ・コーネル、そしてライナス、リオ、レズリーだ」
クレイグさんは青い長髪にメガネをかけていた。頭の良さそうなお兄さんといった感じだ。
ライナスさんは赤毛でがっしりとした体型をしている。とても強そうだ。
リオさんは濃茶の髪でかなり背が高い。なんだか田舎の好青年といった雰囲気だ。
レズリーは私には見慣れたピンク髪の美少年である。
「以上が君に仕える六翼だよ。気に入らなかったら変えるから、私に言ってね」
どうやらクビにする権利は私にあるらしい。小市民な私にはそれが恐ろしい。
簡単な紹介だけしてこの場を解散すると、レズリーが真っ先に駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
私に思い切り抱きついたレズリーはニコニコと笑っていた。
「レズリー、どうして騎士に志願なんてしたの?」
私は気になっていたことを聞いた。
「お姉ちゃんが大変な役目を果たすって言うから、力になりたかったんだ。お姉ちゃんに恩返しするならこれしかないと思って!」
レズリーは孤児院で虐められていた。理由は単純でその容姿の異質さである。彼は遠い国の血が流れている。ピンクの髪も異様に白い肌も赤い瞳もこの国には無い色だ。そのうえ人種的な問題で体が小さい。弱そうに見える彼は格好の的だった。
私は彼が可哀そうで見ていられなかったので、いじめっ子を張り倒して説教して彼を守った。それ以来レズリーは私にとても懐いている。ちょっと行き過ぎな程に。
「ありがとう、レズリーがてくれたら心強いよ」
レズリーは嬉しそうに微笑んだ。
「お姉ちゃん、他の人たちともお話ししたいよね!お茶を入れてもらおう」
レズリーがそう提案する。どう切り出したらいいかと困っていたので、その助け舟が嬉しい。レズリーはいい子だ。
そして私たちは場を移すことになった。
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