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恐怖耐性ゼロの転生葬送師は美形達に甘やかされる※接待です。  作者: はにか えむ


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37.覚悟

 厳戒態勢から一月もたった頃。私たちはすっかり元の日常を取り戻していた。

 厳戒態勢の間に任務は溜まってしまっていて、葬送師は忙しい日々を過ごしている。

 

 今日も葬送を終えて帰ろうとすると、突然馬車が何者かに襲撃された。騎士たちのおかげで私は何事も無く済んだが、結構な負傷者が出た。

 やはりあの時の視線は気のせいではなかったのだ。

 何故私が襲撃されるのか、訳が分からなかった。

 

 ヒューバート王子は、私が当代最高の葬送師だから狙われたのだろうと言っていた。

 教団の奴らは、追い詰められてターゲットを変えてきたのだろうと推測していた。

 

 

 

 だから私は提案したのだ。私を囮にして組織を一網打尽に出来ないかと。

 このままでは私も子供達も安心して生活できない。だから多少のリスクを背負っても、教団を根絶やしにすべきでは無いかと提案した。

「アーリン、君は本気で言っているのかい?」

 王子が真面目な顔で聞いてくる。

 私は頷いた。もう怯えるのはやめにしたい。

 そして、私を囮にした教団殲滅作戦が開始されたのである。

 

 私は今回のことを、ウォーレンにだけは秘密にしてもらった。止められるとわかっていたからだ。

 王子から何処にいても居場所がわかるという発信機を貰って、迷った末に靴下の中に隠した。これが見つかったらおしまいだ。

 そして神殿内に、葬送師が古代魔法の再現に成功したと噂を流す。

 さらにわざと警備の薄い日を作った。神殿の中に内通者がいると判断して、警備が薄くても仕方の無い日を作ったのだ。

 

 そして作戦は決行された。決行前レズリーには何度も物言いたげな目で見つめられたが、全て無視していた。

 

 

 

 私の乗った馬車を賊が襲う。私は思ったよりも落ち着いて外の音を聞いていた。やがて馬車の扉が開かれ、私はさらわれる。

 目隠しをされ馬車の中に閉じ込められ、私は昔を思い出していた。

 

 あの時前世の私はお祭りの帰りに、お化けの格好をした男の人に追いかけられていた。まだ小学生の時だった。犯人はただの愉快犯で、私をどうこうするつもりは一切なかったらしい。それでも夜に一時間近く追いかけ回された私は、暗闇が恐ろしくなった。そして、得体の知れない幽霊も、苦手になったのだ。

 それは生まれ変わった今も、心に残っている。きっとこの記憶は一生消えないのだろう。

 私は震えながら助けを待った。


 

 

 どこか民家のような場所に到着し、目隠しを取られる。

 私の前には、ひとりの初老の男がいた。男は私に古代魔法を使ってみろと言った。私は、古代魔法の再現には必要なものがあると言って時間を稼ぐ。

 男はよほど不老不死になりたいのか、私の言った事をあっさり信じた。私の体がトラウマのせいで勝手に震えていたのも良かったのだろう。男は私を取るに足らない小娘と判断したようだった。

 今頃、王子がここを包囲してくれているだろう。これで教団の連中を一網打尽にできる。そう信じてじっと耐えた。

 

 数時間後、拠点に大勢の騎士がなだれ込んできた。見知った顔も大勢いる。私は邪魔にならないように小さくなって救出されるのを待った。

 目を閉じてじっとしていたら、ふと誰かに持ち上げられる。びっくりして顔を上げるとそれはウォーレンだった。彼は泣きそうな顔をしていた。きっと怒られる。それは覚悟の上だった。でも助けに来てくれたことがどうしようも無く嬉しくて、ウォーレンに抱きついた。目から涙が溢れて止まらない。彼は何も言わずに、私を外に連れ出した。

 

 

 

 結局この拠点は、教団の最重要施設だったらしい。私の働きのお陰で一網打尽にできたと後から知った。

 

 私はウォーレンに抱かれて神殿行きの馬車に乗っていた。

「どうして俺に何も言わなかった?」

 ウォーレンは悲痛な顔で言う。私は止められると思ったと返した。

「アーリンは頑固だよね。でも俺はそんなアーリンを好きになったんだ」

 ウォーレンが額を私の肩に置く。怒りを堪えているようだった。

 私はただひたすら謝ることしかできなかった。

「実は最初から全部知ってたんだ、レズリーが教えてくれた」

 そう言うと彼は私を見つめる。

「もっと俺を、皆を頼ってよ。どうしてそんなに強情なんだ」

 

 私はみんなの迷惑になりたくなかった。役に立ちたかった。どうしても、皆は仕事で私に良くしてくれているんだって思いが消せなくて。こんな怖がりで臆病な私を消してしまいたかった。だってトラウマのせいで沢山迷惑をかけてしまったから。

 

「アーリン、俺たちはみんなアーリンが好きだよ。前にもそう言っただろう?」

 涙が、頬を伝って流れ落ちた。本当に、信じていいのだろうか。その言葉を、優しさを、迷惑では無いのだろうか。

 私を守ってくれたのは、葬送師だからではなく、接待なんかじゃなく、私自身を思ってくれたからだと。

 こんな欠陥だらけの葬送師を、みんな愛してくれるのだろうか。

 

 ウォーレンの言葉を、今度こそ本当に受け入れられる気がした。

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