36.厳戒態勢解除
それからおよそ一週間後、神殿の厳戒態勢は解除された。
とは言っても、葬送師たちの警護は厳しいままだ。
この二週間でかなりの数の貴族が罰せられたらしく、神殿から姿を消した騎士もいた。神殿の騎士は存外貴族が多いのである。
そして王宮から古代魔法の研究に対する申告義務など、騒動の打開策が発表された。一部の真面目な研究者は可哀想だが、悪用する連中がいるのだから仕方がない。
教団の連中も幹部クラスを捉えることに成功したらしく、続々と情報が集まっているようだ。
一連の騒動は、これで落ち着きを見せた。暫くは警備の強化が続くだろうが、外出が許可されたのは嬉しかった。
今日私は子供たちと観劇に行く約束をしていた。私の好きな劇団を子供たちも見たいと言い出したのだ。ちょうどいい事に今の演目は騎士を題材にしたものだったため、子供たちも退屈することは無いだろう。
今日は子供たちがいるためボードは封印である。みんな久々の外出に大はしゃぎで馬車に乗った。
そういえば、ダイヤモンド騎士団は厳戒態勢中にベテラン騎士に扱かれていたらしく、久しぶりに会ったらなんだか顔つきが違った。この短期間で何があったのか、知るのが怖いような気もする。彼らの鍛錬を申し出てくれたジャックさんに感謝しておこう。
劇団に着くと、支配人が歓迎してくれた。私が紹介したケネスさんがどうしているのか聞くと、今回の舞台に出演するようだった。元々主役を張っていただけあって、即戦力で使える人材だったそうだ。彼が立ち直れたのなら良かった。
VIP席に着くと、子供たちは大興奮だ。高そうなお菓子に飲み物まで付いているのだ。気持ちはとてもよくわかる。ソファがふかふかで飛び跳ねたくなるんだよね。わかる。
劇が始まると、初めて見る舞台にみんな夢中だった。剣で戦うシーンでは子供たちの体がみんな動いていて面白かった。アクションゲームとかやるとそうなるよね。
最後、騎士が姫を逃がすために剣を取るシーンではシェイリーンが号泣していた。私もちょっと泣いてしまいそうだった。男の子たちはあまりこの感動がわからなかったらしい。戦うシーンに夢中だ。
劇が終わると、役者さんが挨拶に来てくれた。子供たちは夢中で感想を話している。連れてきてよかったなと思った。
ケネスさんと役者のクリスティン様にはかなり心配された。神殿の厳戒態勢と貴族の大量処分の噂は平民にも届いていたらしく、みな不安に思っていたようだ。
そんなこと考えもしなかった。一度孤児院にも顔を出した方がいいかもしれない。みんな心配しているだろう。
次の日にはニールくんと孤児院に顔を出した。明日からは休んでいた分の仕事が詰まっているため、長時間滞在はできなかったが、心配していた子達は安心したようだ。
みんなで作った堆肥がいい感じになっていたため、畑に撒いてついでに種も撒いた。きっとよく育つだろう。
ニールくんは下の子の一人を新しいもやし係に任命したらしく、もやし製造の極意を伝授している。先生役がなかなか様になっていて微笑ましい。
帰りの馬車の中、眠ってしまったニールくんを横目に私は言った。
「今日ずっと、遠くから視線を感じませんでしたか?」
馬車内の空気が緊張する。私は人の視線や気配に異様に敏感だ。子供の頃の事件のせいなのだが、今も衰えていない。
「確かに時々見ている者がいたな。町人のようだったし、武装している様子はなかったから捕まえなかったが……」
ジャレット団長は気づいていたらしい。私は不安になっていた。
「教団の残党でしょうか?」
隣に座っているウォーレンに凭れかかって、思案する。
「少し様子を見る必要があるだろうな」
教団の残党だとしたら、狙われてるのはどちらだろう。やはりニールくんだろうか。私達は不安を抱えたまま神殿に戻った。
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