32.襲撃
休日、恒例の舞台鑑賞から戻ると、神殿内が騒がしかった。
何かあったのかと思っていると、リオくんが走ってくる。
「大変だ!シェイリーンが襲撃されたって」
私たちは慌ててシェイリーンの元に向かった。
「お姉ちゃん……」
シェイリーンは泣いていた。
「大丈夫?怪我は?」
「私は大丈夫、でも騎士たちが……」
そう言うとシェイリーンは本格的に泣き出してしまった。
見かねた彼女の六翼が事情を説明してくれる。
「葬送の帰り道で、十名ほどの武装集団に襲撃されました。騎士は七人ほど負傷しましたが、武装集団は確保しました。ただ……彼らは薬物中毒者の疑いがあります」
襲撃してきたのは教団の人間かもしれない。シェイリーンを取り戻そうとして?どうして今更。
「お、ちょうど良かった。アーリンも居るね。事情は聞いたかい?」
ヒューバート王子は部屋に入ると椅子に腰かけた。
私もシェイリーンの隣に座る。
「よしよし怖かっただろう、ごめんねシェイリーン。僕らの見通しが甘かったみたいだ」
王子はシェイリーンの頭を撫でる。
「襲撃者は間違いなく薬物中毒者だ。教団の連中が配ってるのと同じものだね。つまり襲撃は教団絡みである可能性が高い。ここまではいいね」
私たちは頷くと王子を見た。王子の表情はいつになく真剣そうだ。
「教団は葬送師でなくシェイリーンを狙った可能性が高い」
私は息を呑む。どうしてシェイリーンでないといけないのか。
「シェイリーンだけじゃない、恐らくはニールとアダムも狙われている」
「どうしてそんなこと……」
「例の研究施設に残された資料だよ。この子達には特別な処置を施したあと、葬送師にしようとしたらしい。僕にはさっぱり理解できないが、彼らには聖痕というものが刻まれているらしい」
私は教団の身勝手さに怒りが込み上げた。
「教団は未だ聖痕が刻まれた葬送師を生み出せていないらしいね。彼らにはリオのように、高度な治癒魔法を使える人材が居ないようだから、蘇生ができないのだろう。だからシェイリーンたちがどうしても欲しいのさ」
何処までも勝手な奴らだ。私は怒りを抑えることが出来なかった。
「とにかく、三人は暫く神殿から出せない。奴らを捕まえるまではね。仕事はアーリン達にお願いするよ」
「分かりました」
忙しいのだろう、それだけ言って王子は退出した。
「聖痕ってこれのことかな?」
シェイリーンが袖をまくった。すると、二の腕に不思議な文様が刻まれていた。女の子になんてことを……!
「古代魔法みたいだな」
ウォーレンが呟いた。
「古代魔法?」
「俺よりクレイグが詳しいよ」
みんなでクレイグさんを見ると、クレイグさんは文様を凝視していた。
「この文様は時を意味するはずです。それから治癒。後は……よく分かりませんね」
「あの、そもそも古代魔法ってなんですか?」
私の疑問に数名が同意する。
「古代魔法は、滅び、失われた魔法文明時代に使われていたとされる魔法のことです」
「この世界、一回滅びてるんですか!?」
私は驚いてしまった。そんな話聞いたこともない。
「そう言われていますね。魔法文明時代には今より多彩で強い魔法が当たり前のように使われていたそうですよ」
そんな物があるのなら、研究者が研究したがるわけだ。方向性は残忍すぎて許せないが。
「その古代魔法の文様が刻まれてたら何が変わるんでしょうね?」
シェイリーンも、ニールくんもアダムくんも何もおかしなところはないように感じるが、違いはあるのだろうか。
「さあ、何か変わるとも思えませんが……今では気休めのお守り位にしか使われていませんからね」
私たちは頭を悩ませたが、結局答えは出なかった。
その夜はシェイリーンと一緒に寝ることになった。怖くて眠れないらしい。その気持ちは痛いほどわかる。
「ねえ、お姉ちゃん……悪いやつ捕まってくれるかな?」
「きっと捕まるよ、大丈夫。王子様も頑張ってくれてるからね」
シェイリーンはクスクスと笑う。
「そうだよね、きっと王子様が捕まえてくれるよね」
シェイリーンはそう言って眠った。必死で平気なフリをしているのが痛々しくて悲しくなった。
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