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恐怖耐性ゼロの転生葬送師は美形達に甘やかされる※接待です。  作者: はにか えむ


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31.劇場の亡霊

「今日は君にぴったりの仕事を持ってきたよ」

 ヒューバート王子が開口一番にこう言った。正直嫌な予感しかしない。

「そう、劇場の幽霊さ」

 響きがなんだか怖そうである。

「今回は初の遠征だよ。ここから馬車で三日くらいかな?火事になった劇場があるんだ。火事になった当時はお客は居なかったのだけど、練習していた役者たちがホールに閉じ込められてね。まとめて亡霊になったてわけさ。生き残ったのはダブルキャストの片割れの役者だけだって」

 それは悲しい話だ。生き残った役者さんはどう思っているんだろう。やり切れないだろうな。

「説得がきかなければ強制葬送。ちょっと数が多いから、君に任せるね。これが今回の任務だよ」

 私は了承すると、劇場まで向かうのだった。

 

 

 

 今回は初の遠征だ。とはいっても、私にすることは何もない。ただ馬車に揺られるだけである。

「楽しみだねお姉ちゃん!僕こんなに遠くに行くの初めてだよ!」

 レズリーがはしゃいでいる。

 確かに私もあまり遠くには行ったことがない。ちょっと楽しみになって来た。

 馬車に私と六翼が乗り、周りを騎士団が固める。先日の一件から警備が強化されているので物々しい。でも今回は教団のことを気にしなくていいので気が楽だ。馬車旅を楽しもう。

 

 そうして三日、馬車に揺られて劇場跡地へとたどり着いた。

 それは小さな劇場だった。劇場に張られた結界の前では一人の男性が祈りをさせていた。

「葬送師の方々ですか?」

 男性がこちらを見て頭を下げた。

「僕はケネスと言います。どうか彼らを救ってやってください」

 生き残ったという一人だろう。彼は悲痛な顔をしていた。

「わかりました。当時何があったのか教えていただけますか」

 私が問うと彼は語り出す。

「あれは日が暮れる少し前のことでした。みんなホールで練習をしていて。主役のダブルキャストだった僕だけ暇でした。だから夕食の支度をしていたんです。僕たちの劇団は人数が少ないので、みんな交代で食事を作ったいたんです」

 彼はここまで話すと目頭を押さえた。

「その時、地震がありました。そこまで大きなものでは無かったので、僕は気にせず料理を作っていました。今思えばその時、みんなの元に駆けつけるべきだったんです。地震でロウソクが倒れて、ひとつしかないスタッフの入場口は炎で塞がれました。そしてホールの入口の扉には鍵が……僕が全てに気づいた時にはもう手遅れでした」

 悲しい話だ。彼はどれだけ悔やんだだろう。

「わかりました。あとは任せてください」

 そう言って中に入ろうとしたところ、彼が言った。

「あの、僕も一緒に行ってはダメでしょうか。邪魔はしません」

 私は周りを見る。ウォーレンが頷いてくれた。

 ジャレット団長が彼に騎士をつける。さすがに一人では入れられない。

 レズリーが彼に結界を張った。これで準備は完了である。

 私たちは劇場の中へ向かった。

 

 私が暗いのが怖いと知ってから、みんな多めに明かりを持ってきてくれるようになった。それでも体が震え出すので、ウォーレンの手を握る。レズリーとリオ君が明るく話しかけてくれる。

 劇場の中に入ると、酷い有様だった。焼けこげたステージの上に亡者が沢山いる。聞こえてくる声は、これは……

「劇のセリフ?」

 亡者たちは芝居をしていた。死してなお、演じていたのだ。

 亡者の中に一人だけ強いものがいるのがわかる。みんな彼女につられているのだ。彼女一人でこの数の亡者を引き止めている。

「彼女はこの劇団の座長です」

 ケネスさんが言った。私は彼女と話をしてみることにした。

「座長さん、あなたの未練はなんですか?」

 分かりきった質問だったかもしれない。でも、問いかけた。

『見て、舞台を……私たちの……』

 私たちは、彼女達の舞台を鑑賞することになった。私以外にはセリフは聞こえなかっただろう。それでも、心に響く舞台だった。ケネスさんは舞台を見ながら泣いていた。それでも決して舞台から目を離さない。目に焼きつけるように彼らの最後の舞台を見ていた。

 舞台が終わると、私たちは拍手で締めくくる。

 そして言った。

「迷える亡者のため、天上の扉を開け」

 瞬間、目の眩むような光が扉から溢れだし、亡者たちを天上へ誘った。

 もうカーテンコールは無い。私はケネスさんに問いかけた。

「これからどうするんですか?」

「わからない……どうしようかな?」

 彼は泣きながら笑っていた。

「もしも、また芝居がしたいなら、王都へ来てください。知り合いの劇団を紹介します」

 そう言うと、今はまだ考えられないと、彼は顔を伏せた。

 

 

 

 数ヶ月後、彼は劇団『オレンジ』に入団した。彼の境遇を支配人さんに話したら是非にと入団させてくれたのだ。

 ほかの劇団を紹介してくれても良かったのにと言うと、人生経験豊富な役者は伸びるのだと言って笑っていた。そうか、役者だもんな。

 今度は彼の舞台を見に来よう。

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