3.王子様とお茶会
今私の目の前には王子様が座っている。比喩では無い、ガチなこの国の王子様だ。
「初めましてアーリン、私はヒューバート・モントゴメリー。この国の第三王子で神殿長補佐をしている者だよ。今日から君の担当になったからよろしくね」
目の前の王子様は穏やかに微笑んで言った。王子で次期神殿長様が私の担当ですか、そうですか。ちょっとついていけないです。
「単刀直入に聞くけど、君は前世の記憶を持っているね」
そうなのである。葬送師とは天上の扉を開くことのできる唯一の存在、つまり天上と繋がりのあるものにしか扉を開けないのだ。
本来生者が持たないはずの天上との繋がりを持つものは、一度死にかけた者か、魂の浄化が不十分であった者だけなのである。
私は生死をさ迷ったことなど無い、そうなれば私は後者に該当するのだ。私は本来持たないはずの前世の記憶を持っているために、葬送師となる。
「君はかなり鮮明に前世の記憶を覚えているのではないか?葬送師としての君の能力はずば抜けている。つまりそれ程強い天上との繋がりがあるということだ」
私はなんと返せばいいのか分からなかった。確かに前世の記憶はかなり鮮明だが、そんなことで本当に葬送師の力が決まるのだろうか。
私が困っていると、王子は笑って言った。
「前世については言いたくないならそれでも構わない。大事なのは君が当代最高の葬送師であるという事実だ。現在この国には君を含めて、十四人しか葬送師が存在しない。しかもその中でも力の強いものは少数だ。しかし亡者は日々発生している。これは危機的状況だ」
王子は一旦紅茶を飲むと、私の目を真っ直ぐに見て真剣な顔をした。
「君も知っての通り亡者は葬送しなければ、穢れを撒き散らす。そうなれば草木が枯れ、人の住めない土地になってしまう。現状この国には葬送出来なかった亡者のせいで使えなくなった土地がいくつもある。僕は君ならそれを何とか出来ると思っている。それくらい君の力は規格外だ」
そう言って王子は笑った。
「君はこの国の宝なのだよ」
正直重すぎる。無理だ、私はホラーが大の苦手なのに、葬送なんてできるわけが無い。私に国の命運がかかっているとか重すぎる。逃げ出したい。
俯く私を見て王子は慰めるように言った。
「近々君は叙爵するだろう、葬送師にはもれなく爵位が与えられる。一生生活には困らないよ。それに君のための騎士団が編成される。六翼の聖騎士も今君のために選んでいるよ」
「六翼の聖騎士?」
私が問うと王子はまだ習っていなかったかなと言って説明してくれた。
「六翼の聖騎士とは、神が三対の翼を持っていることにあやかって作られた、葬送師の専属騎士だよ。君の仕事中以外でも、君のそばで常に君を守る六人の守り手だ」
それは自由な時間が無くなるということでは無いのだろうか。嬉しくもなんともない。
私の顔が晴れないのを見た王子は困ったように笑った。
「うーん、葬送師になれた子は待遇に喜ぶ人が多いんだけど、君は違うみたいだね。国としては、大切な葬送師にあまり無理強いしたくないんだけど……できる限り君の希望にそった待遇に出来るように努力するよ。だから力を貸してくれないかな?」
そこに拒否権はあるのだろうか、いや無いだろう。ここで嫌とか言ったらきっと拘束されて無理やり働かせるに決まっている。
「わかりました、努力します」
私は沈んだ顔のまま言った。
王子はそんな私を見てまた困ったように笑っていた。
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