24.誘拐
任務が終わった午後のことだった。出先で帰り支度をしていると、伝令用の魔法鳥が飛んできた。
鳥はクレイグさんの肩に止まるとぴいぴいと鳴く。クレイグさんが鳥の脚に結んである紙を取って中身を読むと、蒼白になった。
一体何があったのだろう。
「すみません、孤児院でニールが居なくなったと……。先に戻らせてもらいます」
そういうや否や、クレイグさんは行こうとした。それをジャレット団長が止める。
「待て、馬車で孤児院まで送ってやるから落ち着け」
ジャレット団長が確認のためこちらを見た。私はもちろん頷く。というか一緒に行きたい。
ニールくんはクレイグさんが管理する孤児院の子供だ。モヤシをやたらと気に入ってくれていた子である。
馬車を急いで走らせると、孤児院へ向かった。神殿には一方的に連絡している。きっと帰ったら王子に全員怒られる。緊急事態だからわかって欲しい。
孤児院につくと、憔悴した院長先生が出迎えてくれた。
ニールくんがお使いに行ったきり何時間も戻ってこないと、今近くの村の人達が探してくれているのだと教えてくれた。
この近くの村は退役軍人たちが興した新しい村だ。彼らならきちんとした調査を行ってくれているだろう。
私たちは彼らと合流する事にした。
思った通り、彼らは目撃情報や馬車の痕跡から、ニールくんが連れていかれた方角を割り出していた。私は騎士団員達に馬車を追跡して欲しいとお願いした。みんな快く引き受けてくれた。
私は危険だからと追跡には参加させてもらえなかった。馬にもひとりで乗れないのだから仕方ない。
ジャレット団長が騎士団員たちを指揮して救出に向かう。私は他の六翼と共にそれを見送った。
「大丈夫だ、きっと見つかる」
ウォーレンが私の頭を撫でてくれた。不安を抱えたまま孤児院に戻る。子供たちもみんな不安そうにしていた。
何か出来ることはないかと考え、食事を作ることにした。もうすぐ夕飯時だ。私はちょっと豪華な食事を作る。お肉を沢山使って保存が効くようなものを、ニールくんが戻ったらすぐに食べられるように。
子供たちはニールくんを心配しているのだろう、とても静かだった。私はわざと明るく振舞った。年長の子供たちも私の意図を察したのだろう、私に合わせてくれる。少し場の空気が暖かくなった。
夜中になってもニールくんは帰ってこなかった。
私は子供たちを寝かしつけながら帰りを待っている。
神殿から行方不明の子供の捜索を許可すると伝令が来たが、明日見つからなかったら神殿に帰還するようにととも書かれていた。
きっと王子がなんとかしてくれたのだろう。私は明日中にニールくんが見つかってくれることを祈った。
ウォーレンがずっと傍で私の手を握っていてくれるが、私の心は晴れなかった。
事態が動いたのは翌日の午後のことだった。団長達が瀕死の子供たちを四人連れて孤児院に帰ってきたのだ。ニールくんもその中にいた。
彼らはみんな身体中傷だらけだった。魔法で応急処置をされていたが、生きているのが不思議なくらいだ。
リオくんとレズリーが急いで治癒魔法をかける。リオくんは神殿一の治癒魔法の使い手だし、レズリーは神殿一の魔法の天才だ。子供たちはきっと助かる。
私は彼らのそばでずっと祈っていた。
治療の甲斐あって、なんとか三人の命繋ぐことが出来た。
しかし一人は亡くなってしまった。帰りたいと泣く亡霊になった彼女を葬送する。涙が止まらなくなってしまった。
ウォーレンがそっと抱きしめてくれたので、私はその腕の中で泣いた。
ひとしきり泣いて落ち着いたら、私はあることに気がついた。
一命を取り留めた三人、彼らは間違いなく葬送師になっている。
私は教団のことを思い出した。彼らは葬送師を人工的に生み出す実験をしているのだと。
人工的に生み出すとはこういう事だ。死の直前まで痛めつけてから回復させるのだ。
私は怒りを抑えられなかった。
彼らが葬送師となってしまったことを六翼に告げたら、みんな怒りくるっていた。
ジャレット団長いわく、追跡した先には実験施設があった。
しかし中に入ってみると中には死体の山と、かろうじて息のある四人しか居なかったようだ。追跡に気づいて逃げられたのだろう。
今は騎士団が建物を封鎖し、逃げた人を追っているそうだ。
私たちは葬送師となってしまった三人を連れ、神殿に帰還した。
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