23.調査の結果
数日後、神殿の厳戒態勢がやっと落ち着いてきた。その間、私は毎日細々とした葬送を任されていた。力の関係で大きな仕事が多いだけで、小さな仕事が無いわけでは無いのである。天上に上がれなかった亡者は日々発生しているのだから。
ジャレット団長は休憩時間の度にマーニさんに会いに行っていて、毎日彼女の近況を報告してくれる。足の筋肉が衰えて歩けなくなっていたのが少しづつ改善されているようだ。リハビリを頑張っているらしい。
私もマーニさんに会いたいと言ったのだが、伝統的に葬送師同士を合わせてはいけないという決まりがあるらしく、叶わないでいる。
理由は葬送師は力の大きさ次第で待遇格差が大きいから、余計な争いを避けるためらしい。ヒューバート王子が暴露してくれた。
仕事の愚痴が言い合える友達が欲しかったのだが、叶いそうもない。まあ、良くして貰ってるので、愚痴なんてそれほど無いのだが。
ヒューバート王子との舌戦は遊びみたいなものだしね。
「みんな揃ってるかな?お待ちかねの調査報告だよ」
ものすごく疲れた顔をしたヒューバート王子が部屋にやってきた。
とりあえず温かいハーブティーを入れてやる。口をつけた王子はほっとした顔をしていた。
「ここは気を使わなくていいからいいねぇ、僕のオアシスだよ」
勝手に私の部屋をオアシスにすんな。
気を使わなくていいと言っているわりには優雅にお菓子を食べている。育ちの違いだろう。
「さて、どこから話そうか。……まずはマーニを攫おうとした犯人だけど、天上のしもべの教徒だと自白したよ。ただ、麻薬の常習者だったようでね、薬のために教徒になったと言っていた。天上のしもべは違法薬物をばら撒くことで教徒を増やしているらしい」
今度は薬物だ。本当にろくな事をしない宗教だな。
「彼の他に怪しい動きをしたものを数名捕まえたが、全員何らかの薬物中毒者だった。この神殿内にいたのは全員下っ端で、地位の高い人間は居ないようだ。彼らは薬と引き換えに神殿内の情報を漏らしていたんだ」
「ほかの神殿は調べたのですか?」
ジャレット団長が王子に問う。
「それに関しては今調査中だ。取り急ぎ中央神殿内だけ調査した。近々全ての神殿で大規模な薬物調査が行われるから、その時は協力してくれ」
王子はまた疲れた顔でお茶を飲むと、今回の犯人について話し出した。
「実は誘拐犯は教団からの命令で動いたわけではないらしい。教団が葬送師を欲しがっていると知った犯人が報酬欲しさに誘拐を企てたそうだ。眠っている女性一人なら簡単にさらえると思ったと供述している。彼の行いでむしろ教団は損害を負ったのだから、いい気味だね」
楽しそうに王子が言う。教団に損害を与えられたことが嬉しいようだ。ざまあみろとでも言いたげだ。
「とにかく麻薬のルートを追えば教団にたどり着く可能性が出てきたんだ。こんな嬉しいことはない。君たちも怪しい人物がいたら教えてくれ」
そう言うと、王子は部屋から去っていった。
私はその後仕事に向かった。今日は病死したお爺さんの葬送依頼だ。
いつも通りジャレット団長の後ろに隠れながら、亡者に近づく。体の震えが治まらないので、ウォーレンに手を握ってもらった。甘えすぎて嫌われないことを祈りたい。
私は亡者にそっと声をかける。
「お爺さん、どうして成仏できなかったの?」
亡者は泣いているようだった。
『マゴを……ソニアを……』
亡霊はひたすら孫とソニアという言葉を繰り返した。
「この方のお孫さんは二年前に行方不明になっているそうです」
資料を読んだクレイグさんが教えてくれた。
また教団の仕業だろうか。ここは前に葬送した実験施設の近くだ。
「ソニアちゃんなら扉の向こうにいると思うよ。私が連れて行ってあげる」
私は大きく息を吸って聖句を唱えた。
「迷える亡者のため、天上の扉を開け」
すると輝く扉が出現し、亡者がゆっくり扉をくぐってゆく。
亡者はずっと孫の名前を呼んでいた。
私はなんだか悲しくなって、繋いだままのウォーレンの手を強く掴んだ。それに気づくとウォーレンは、もう片方の手で頭を撫でてくれた。
亡者の未練を無くしてあげることが葬送師の仕事の一つではあるが、こういうのは悲しくてやりきれない。
最近は亡者への恐怖心も薄れてきた。まだ少し呼吸が苦しくなるが、克服できると信じたい。
「やっぱりソニアちゃんを攫ったのは教団なのかな?」
私が呟くと、レズリーが機嫌悪そうに言った。
「そうに決まってるよ。子供を攫うなんて許せない」
「ここは元の実験施設の近くですからね。おそらくは……」
クレイグさんもかなり怒っているようだ。
「早く教団が捕まればいいんだけど」
私たちにできるのは葬送と浄化だけだ。教団探しは国の騎士たちの仕事である。早く掴まってほしいと、祈ることしか出来ないのがもどかしかった。
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