22.王子との会話
マーニさんが目覚めた翌日。朝も早いうちからヒューバート王子がやって来た。
「お手柄だねアーリン!まさかマーニ・トパーズが目覚めるなんて、国王陛下もお喜びだ」
上機嫌の王子は報酬は何がいいかとはしゃいでいる。
私としては助けられそうだったので助けただけだ。報酬をくれるなど思っていなかった。まあ、貰えるなら貰うつもりでいるが。
「そういえば、ほかの葬送師は治そうとしなかったんですか?」
私が疑問を投げかけると、王子はバツの悪そうな顔をした。
「ほかの葬送師には会わせないようにしていたんだよ。葬送師にいらない恐怖心を与えたくなかった」
要するに、明日は我が身と思わせないために隔離したのだろう。
私が昨日部屋に入ることが出来たのは、警備の騎士たちが深い事情を知らなかったからだ。
「だが、真っ先に葬送師に相談するべきだったね。そうしたら彼女はこんなにも長い間眠らずに済んだのに」
王子はため息を零すと疲れたような顔をした。
「過去目覚めないまま亡くなった葬送師達も、救える可能性があったのだと知ったら。何だかやるせないよ」
王子は一息つくと、マーニさんの今後について話してくれた。
彼女はリハビリが終わり次第葬送師として復帰するらしい。彼女本人の希望だそうだ。
五年間も眠っていたのにすぐにその決断ができるなんて、本当に責任感が強い人なのだろう。
「彼女の場合は責任感と言うよりも、天上のしもべに対する怒りが大きいのだと思うよ。彼女が目を覚まさなくなった原因もそれにあるからね」
また天上のしもべ……そんなに前から活動していたのか。
きっと時間をかけて、神殿にスパイを潜り込ませたのだろうな。
「僕らがその存在を認識したのがちょうど五年前でね。マーニが命懸けで葬送した実験施設が最初だったんだ。それから神殿はずっと彼らを追っている。いつも逃げられてしまうがね」
王子は酷く疲れた様子だった。きっと彼らのせいで色々な苦労があったのだろう。
私は王子に追加でハーブティーを入れてやった。
「後はそうだ、ジャレットのことなんだけどね。彼の希望で君の六翼を続けることになったから」
私は少し驚いた。ジャレット団長は元々マーニさんの六翼だったはずだ。戻りたいと思わないのだろうか。
「本当に本人の希望なんですか?」
「あぁ、君に恩を返すべきと思っているみたいだよ」
そんなの全く気にしなくていいのに、律儀な人だ。
「分かりました。ただ本人が戻りたいと言ったら、戻してあげてくれませんか?」
王子はそれくらいなら構わないと了承してくれた。
「君の騎士団は若い子しかいないからね。正直彼に抜けられると困ると思っていたんだよ」
そもそも何故若い子で固めたんだ。どう考えてもおかしいだろう。
「ベテランも入れたらいいじゃないですか」
「え?だって君若い美形が好きでしょう?」
この時、初めて王子を本気で殴りたいと思った。一体何を誤解したらそうなるのか。
「何を馬鹿なことを言ってるんですか!護衛の容姿なんて気にしませんよ!」
「だって人気の劇団に通っていたからね、そういうのが好きなんだと思って気を使ったんだよ」
私は劇団員を顔だけで推してるわけではない、彼らの芸を、努力を応援しているのだ。顔だけ良くても心惹かれない。
力説すると王子は得心がいったようだ。
「だからあんまり嬉しそうじゃなかったのか。選考頑張ったんだけどな」
私は護衛を顔で選ぶやつがあるかと説教したくなった。リアルとアイドルの違いについて小一時間語ってやりたい。
「最初に会った時も君は僕に無反応だったものね」
遠回しに自分はイケメンだと言っているのに腹が立った。確かに顔がいいから余計に腹立つ。
「やっぱり君は扱いが難しいな」
王子はそう話を締め切った。
絶対王子の思惑通りに転がさせてやらないんだから、覚悟しておけ。
怒る私に王子はずっとニコニコと笑っていた。彼の辞書には反省の文字は無いらしい。
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