21.誘拐未遂事件
本日2回目の投稿です。読み飛ばしの無いようご注意下さい。
朝起きたら神殿が騒がしかった。何事かと寝室から顔を出すと、そこには護衛の騎士がいた。
「何事ですか?」
私が聞くと、彼は少し言い淀んで、やがてこう言った。
「葬送師の誘拐事件が起きたそうです。もうすぐ六翼が来てくれると思うので、安心してください」
お礼を言って寝室に戻ると身支度を整える。すぐにジャレット団長を除いた五人が部屋へとやってきた。
「葬送師の誘拐事件があったと聞きました」
そう言うと、ウォーレンが言いづらそうに返してくれた。
「正しくは誘拐未遂事件だ。犯人は神殿の司祭だった。おそらく天上のしもべと繋がっている」
やっぱり神殿内に紛れ込んでいたのか、ここも安全な場所ではなくなってしまった。
「先日の一件から警備を強化していたのが功を奏した。巡回の騎士が様子のおかしい司祭を見つけて捕まえてくれた」
「被害にあったのは誰なんですか?」
この王都中央神殿には四人の葬送師がいる。残りの十人は別の神殿でそれぞれ働いているのだ。ここにいる葬送師は特に力の強い者ばかりだった。
「被害にあったのはマーニ・トパーズだ」
それは聞いたことない名前だった。この神殿にいる葬送師は全員把握しているはずだけれど。
「それは誰ですか?」
「マーニ・トパーズは五年前強制葬送を行ってから一度も目を覚まさない。だから葬送師の名簿には名前が無いんだ」
その話は以前ジャレット団長から聞いたことがあった。彼女はこの神殿に居たのか。初耳である。
「ジャレット団長は彼女の所ですか?」
そう問うと、クレイグさんが眼鏡をいじりながら困ったように言った。
「ジャレット団長は元々彼女の六翼だったのです。彼女が目を覚まさず二年が経った頃、トパーズ騎士団は解散させられました。でもジャレット団長は今でも定期的に彼女の元へ通っています」
なるほど、団長が過保護なのはマーニさんと私を重ねているからか。
「犯人は眠ったままのマーニさんをなぜ誘拐しようとしたのでしょうか?葬送師でさえあればどんな状態でもかまわないと?」
きっと実験材料にするつもりだったのだろう。ふつふつと怒りが湧いてきた。
「それは犯人に尋問中だ。とにかく暫くはアーリンの警備も増えるから、そのつもりでいてくれ。絶対に一人では出歩かないように」
私は頷くと、キッチンに行きたいと願い出た。
「ジャレット団長、きっと食事を忘れると思うんです。前の時もそうだったから」
みんな覚えがあるらしく、快く護衛を引き受けてくれた。
犯人の尋問と安全確認が終わるまでは、なるべく五人ともついてきてくれるそうだ。
キッチンに到着すると、ジャレット団長のためのサンドイッチを作る。ついでにまだ朝食を食べていないというみんなの分も作った。
私も一緒に朝食をとろう。温かいスープを作るとみんなの分を盛り付ける。
食べながらマーニさんについて聞いてみたのだが、みんな会ったことがないという。唯一五年前から騎士だったクレイグさんも、姿を見た事しかないようだ。まあ、五年前だとみんな十代だから当たり前か。
当時の話では責任感が強く人当たりがよくて、持ち前の明るさで周りに慕われていたそうだ。彼女が葬送師になった理由も、溺れた子供を助けようとして湖に飛び込んだせいらしい。
会って話してみたかったな。
サンドイッチを持ってジャレット団長を探す。騎士に聞いたら、マーニさんの部屋にいるようだ。
マーニさんの部屋の前は厳戒態勢が敷かれていた。
騎士たちに挨拶して事情を説明するとなんとか通してくれた。
部屋に入ると、痩せこけた女性がベッドに眠っていた。その横の椅子にはジャレット団長がいた。
「なんだ?みんな揃ってどうしたんだ?」
「差し入れを持ってきました、どうせ食べてないでしょう?」
図星だったらしい。頬をかいた団長はすんなりサンドイッチを受け取ってくれた。近くにあったテーブルを引き寄せ、その場で食べ始める。
マーニさんをよく見ると、治癒の結界で覆われていた。重病人や怪我人に使う、中の者を癒す結界だ。
見つめていると、私は何だか不思議な感覚をおぼえた。これ、治せるのではないだろうか。
私はマーニさんに近づいて、額に手を当てる。葬送の時に吸い取られる謎の力を、思いっきり注ぎ込んだ。
途端周囲が光り輝き目も開けていられなくなる。暫くしてようやく光が収まると、私の中の力が大きく減っているのがわかった。目眩がする。
私が倒れそうになるとウォーレンが支えてくれる。私の突然の行動に、みんな呆気に取られていた。
「一体何をしたんだ!」
ジャレット団長が叫ぶ。しかし私に返事を返す気力は無い。
その時だった。マーニさんの瞼が微かに動く。
「待って、今動いたよ!」
リオくんが急いでマーニさんに近寄って、全力で治癒の魔法をかける。すると程なくして、マーニさんが目を開けた。
ジャレット団長がマーニさんの手を掴んで呼びかける。すると微かな声で彼の名前を呼んだ。
ジャレット団長は涙を流して喜んでいた。マーニさんはわけが分からないようで不思議そうに彼を見つめていた。
リオくんが医師を呼んでくると走っていった。医師が到着すると、マーニさんを診察する。長い間眠っていたため、かなりのリハビリが必要だが他は問題ないそうだ。目が覚めて良かった。
私たちは一旦ジャレット団長だけを残して部屋に戻ることにした。
私も力を沢山使ったのでベッドで眠りたい。
色々なことは明日考えよう。
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