15.天上の僕
そろそろリハビリ期間も終わり、仕事を再開しなければならなくなった頃。ヒューバート王子がやってきた。
彼は六翼を全員呼び出すと、大事な話があると言った。
「今日集まってもらったのは、邪教団体に関する話をするためだ。この間アーリンが最大級の実験施設を葬送してくれた事で中を調査できるようになってね、色々なことがわかった」
みんな気を引き締めて聞いている。あれほどの亡者を作り出した団体だ許せるわけが無い。
「まず彼らは『天上のしもべ』と自称している団体だ。彼らは亡者の力を利用して自らを天上の神として転生させ、永遠の命を得る研究をしているらしい」
なんだか壮大な話になった。そんな事が可能なのだろうか。
「可能か不可能かは分からないが、実際にそんな研究をしているもの達がいて被害も出ている。これは捨て置けない問題だ」
王子は憂いを帯びた顔をしていたが、不意に真剣な顔でこちらを見る。
「彼らの残した記録には、葬送師を手に入れなければなどと書かれたものがあった。国は全葬送師の警備を強化することに決めた。アーリンも十分気をつけてくれ」
あんな奴らに狙われているのか、正直鳥肌が立った。捕まったら絶対にろくな目にあわないだろう。
「それともう一つ、奴らは人工的に葬送師を生み出す研究をしているようだ。」
人工的に葬送師を生み出す?つまりそれは……
「葬送師は天上と繋がりがあるもの、つまりは一度死にかけたものか魂の浄化が不十分だった者しかなれない。彼らは実験体を死なないギリギリのラインで痛めつける事で葬送師を誕生させようとしているんだ」
最悪な連中である。人の命をなんだと思っているのか。
「幸運なのは彼らは同じ拠点で実験を続けることが出来ないという点だ。実験しているうちに亡者の数が増えれば、彼らだってそこにはずっと居られない。だからすぐに拠点を変える必要がある」
拠点変えるのも大変だろう。生贄を集めるのだってそう簡単なことでは無いはずだ。もしかしてスポンサーがいるのだろうか。
私が言うと王子が頷いた。
「恐らく彼らに協力している権力者が居るだろう。僕はそちらの方から調べてみるつもりだ」
「それとクレイグ、お前は孤児院を持っていたな。彼らは力の弱い子供を狙って誘拐して実験材料にしている。十分注意するように」
クレイグさんが顔を歪めた。警備を増やさなければなりませんねと言っている。子供を狙うなんて卑怯な連中だ。
「という訳でアーリン。君に仕事をしてもらうよ。天上のしもベの実験施設だった場所を片っ端から葬送してほしい。今回は前回ほどの施設ではないから大丈夫だろう」
わかりましたと返事をして王子を見る。王子はホッとした様子だった。
「次に葬送するのはライナスの故郷のすぐ近くだ。こちらの準備が整い次第すぐに出発して欲しい」
その言葉にライナスさんが反応した。彼は穢れのせいで故郷に住めなくなったと言っていた。天上のしもべの仕業だったのか。
王子はライナスさんを憐れむように見て、去っていった。
「アーリン、俺からも頼む。俺の故郷を救ってくれ」
ライナスさんがいつになく真剣な顔で言う。
「あいつら、村の女子供を攫いながら、村のすぐそばに地下室を作って実験していたんだ。気づくのが遅くて多くの犠牲者が出た」
ライナスさんは苦しげにだった。知り合いも亡くしたのかもしれない。
「今はその地下は結界で覆っているが、穢れのそばに居続けると危険だ。俺たちは村を捨てるしか無かったんだ」
私たちはみんな頷いた。彼の故郷を救ってあげよう。
葬送したとしても、穢れた土地を浄化し元に戻すには時間がかかるが、きっといつか元通りになった故郷に帰してあげたい。
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