14.リハビリ期間
少しずつ体力の回復してきた私は、今日は神殿内を散歩している。ウォーレンとレズリーが護衛として同行してくれた。
「今日は騎士団の訓練場に行かないか、団員たちも君を心配していたから顔を見せてやってくれ」
ウォーレンの提案に、私は頷いた。そういえば目が覚めてから六翼以外と会っていない。
訓練場に到着すると、ダイヤモンド騎士団のメンバーがわらわらと集まってきた。みんな私の目覚めを喜んでくれた。
一人が私に椅子を持ってきてくれる。そうすると誰かがテーブルを、お茶を持ってきて、寛げる空間が出来上がった。溢れた騎士たちが歌でも歌いましょうかと言ってくる。完全に接待である。
ほかの騎士団の騎士たちが苦笑しながらこちらを見ていた。……やっぱりうちの騎士団、平均年齢が低すぎるんだよなぁ。これも王子の策略なのだろうか。
今まで暇を見つけてはお菓子を作って騎士団に差し入れしていたせいか、騎士団のみんなは私に友好的である。私の居住スペース周りの警備も彼らの仕事なのだが、顔を合わせると笑って挨拶してくれる。たまに雑談もするが、ノリのいい人が多いのか楽しい。
一通り私の無事を喜ぶと、みんな訓練に戻っていった。
訓練を仕切っていた騎士、恐らくは別の騎士団の団長がせっかくだから余興を見せてくれるという。
騎士にライナスさんが呼ばれる。他にも五人ほど騎士が呼ばれ一対五の模擬戦が始まった。
ライナスさんが木刀を構える。五人の騎士たちは一斉にライナスさんに切りかかるも、軽々ライナスさんにさばかれている。一撃一撃が重いのか、体勢を崩してしまう騎士が多い。
程なくライナスさんは圧勝した。思わず拍手してしまう。
「あれは騎士たちが弱いんじゃなくて、ライナスさんが強すぎるんだよ。剣を持たせたら、他の騎士団を含めても一二を争う腕前だから」
レズリーが解説してくれる。そこまで強いとは思っていなかった。私の中のライナスさんは甘いもの好きの快活なお兄さんだ。
「お姉ちゃんの六翼は年齢だけで決められた訳じゃなくて、みんな何かしらに秀でた人が集められてるんだよ」
そうなのか。実はレズリーもこの国ではチート級の魔法使いだ。彼は遠くにある魔法大国と呼ばれる国の血を引いている。本人は特に結界を張るのが得意らしい。そうでなければ騎士団に入れなかっただろう。
「俺とクレイグは浄化が得意だ。リオは治癒だな。ジャレット団長は総合力が高い」
ウォーレンが教えてくれる。そういえばウォーレンはクレイグさんやライナスさんより年下なのに、何故副団長なのだろう。能力の問題だろうか。
聞けば単に家柄の問題らしかった。ウォーレンが苦笑している。ジャレット団長に至っては王家の親戚だと聞いた。そんなに偉い人だとは知らなかった。
「お姉ちゃんも今は貴族だからね」
内心震えていたらレズリーに言われてしまった。私はまだ貴族である自覚が薄い。ついこの前まで平民であったのだから当たり前だ。
六翼でも平民であるレズリーやリオくん、ライナスさんと話が合う。ほかの三人の貴族的な会話には入って行けそうにない。
「貴族は嫌か?」
ウォーレン寂しそうに私の髪を弄りながら言う。
嫌なわけではない、慣れないだけだ。
「貴族だろうが平民だろうが中身はそんなに変わらないと思うな」
レズリーは達観したように言う。
「だって貴族になってもお姉ちゃんはお姉ちゃんで変わりないしね」
なんだか泣きそうになってしまった。レズリーをそばに置いてくれた王子に全力で感謝したい衝動に駆られる。私は自分で思っていたより環境の変化に疲れていたのかもしれない。
そんな私の頭をウォーレンは労わるように撫でてくれた。
「ところでレズリー、俺のこともお兄ちゃんと呼んでくれないか?」
ウォーレンがよくわからないことを言い出した。
レズリーが、出会ったばかりの頃のような無表情でウォーレンを見つめている。
「突然どうしたんです?」
「いや、二人の関係が羨ましくなってしまって……俺の弟はもういないから……」
ウォーレンが寂しそうな表情で笑う。そういえば、ウォーレンさんの弟は、生きていればレズリーぐらいの歳だろう。少しレズリーの方が年上かもしれないが、レスリーは小さいから幼く見える。
私はレズリーを見た。レズリーは何事かを考えているようだった。やがて諦めたようにため息をつくとこう言った。
「じゃあウォーレン兄さんで」
お兄ちゃんは無しらしい。ウォーレンは嬉しそうに笑った。レズリーと接することで彼の傷が少しでも癒えればいいな。
私は知らなかった。後に二人の間でこんな会話がなされていた事を。
「別に釘を刺さなくたってお姉ちゃんと結婚できると思ってないよ、兄さん」
「牽制は大事だろう?弟よ」
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