13.恋人
更新再開です。
次に目が覚めた時、枕元にはウォーレンさんがいた。
「先程はすまない。気持ちが先走りすぎてついプロポーズしてしまった。まだ目が覚めたばかりなのに驚かせてしまっただろう?」
どうやらさっきの事は夢ではなかったようだ。
ウォーレンさんは私の手を取って指先に口付ける。寝起きから刺激が強すぎるってば。
「どうか俺の思いを受け取って欲しい」
ウォーレンさんは目を潤ませて哀願してくる。私はまだ事態についていけていない。
「いや、あの……ウォーレンさん」
「ウォーレン。敬称なんかいらない」
この状況を私はどうしたらいいのだろうか。正直困惑するどころの話では無い。
「ではウォーレン、いったいどうして急にそんなこと……」
彼は私を見つめながら、息を吐いた。
「アーリンが眠っている間、ずっと気が気ではなかった。いつ目が覚めるかわからなくて、恐ろしかったんだ。それで自分の思いに気がづいた。俺は君が好きなんだと」
ストレートな告白に目眩がしそうだ。顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「あの、私は……」
「試しでもかまわない、嫌われないよう努力するから俺の恋人になってくれないか」
彼は掴んだままだった私の手を自分の頬に持っていくと、思い詰めたように哀願した。
「ダメだろうか?」
彼の緑の目は悲しみで満ちていて、断りづらい。だからつい私は言ってしまった。
「いや、ダメでは……無いですけど……」
「本当か!」
さっきの悲哀はどこへ行ったのか、彼が嬉しそうに笑う。
こうして私はウォーレンのお試し恋人ということになってしまったのだった。私は存外押しに弱いのかもしれない。
三ヶ月も眠っていた私は、今はリハビリしつつの絶対安静を命じられていた。六翼が代わる代わるやってきて話し相手になってくれる。
ウォーレンだけは護衛の交代もせずにずっと私のそばに居た。他の六翼は早くもその状況に馴染んだらしく、呆れ顔はしても咎めはしない。
というかそもそも、私が眠っている間ずっとそうしていたらしい。
ベットの横に座って私の手を握っていたそうだ。なんだか恥ずかしい。
私に浄化の魔法をかけてくれていたのもウォーレンなのだそうで、なんだか複雑な気持ちになった。
「アーリン、目が覚めたんだって」
部屋にヒューバート王子がやって来た。王子はホッとした様子で近況を話してくれる。
「君のおかげでこの国最大の問題だった屋敷が浄化されたよ。やっと安心できる。他にも君にしかできない仕事があるから、回復したらよろしく頼むよ」
王子はどうやら取り繕うことをやめたらしい。もう次の仕事の話である。それに反応したのはウォーレンとジャレット団長だ。もっと労れと怒っている。
「ジャレットはともかく、ウォーレンはどうしたんだい?そこまで怒る事じゃないだろうに」
「恋人が酷使されようとしてたら怒るのは当然でしょう」
ウォーレンが機嫌悪そうにしている。
「は?いつの間にそんな関係になったの?駄目だよ、葬送師の結婚は国を通さなきゃ」
「私の身分なら問題ないはずです」
そうだけど、と困った様子の王子が言う。
「うーん、まあいいか。僕がなんとかするよ。だから結婚する時は絶対僕を通してよ」
なんとかするということは、きっと私の結婚相手の候補は決まっていたのだろう。国はなんとしても私を縛り付けておきたいはずだ。
そういう意味ではウォーレンの恋人になって良かったのかもしれない。合わない人と無理やり結婚させられずにすむのだから。
ウォーレンがお試しと言って私の返事を急かしたのも、その辺のことを知っていたからではないだろうか。そんな気がする。
「絶対になんとかしてくださいね。でないと駆け落ちしますよ」
ウォーレンがなんだか物騒なことを言い出した。私の手を取って撫でている。擽ったい。
「全く君たちは僕の苦労も知らないで……はあ、次の会議は大変だな」
知らない間に自分が会議の議題にされてるって怖いな。葬送師を取り込みたい家は多いのだろう。
「一応僕も君の婿の最有力候補だったんだよ」
だろうな、そうだと思ってた。そうじゃなきゃ担当になんてつけないだろう。
「あんまり驚いてないね。やっぱり気づいてたか」
「権力者の考えそうな事くらいわかりますよ」
王子はやっぱり君は扱いが難しいなと笑っていた。この王子と結婚せずにすんで良かったと思う。
「じゃあ、しばらくゆっくり休みなよ」
そう言って王子は退室していった。
「王子と仲がよさそうだな」
隣を見ると不機嫌そうなウォーレンがいた。絶対に仲良くは無い。
不貞腐れたような顔で私の指先をいじる彼に少し笑ってしまった。
「そんなことないですよ」
「本当に?」
「本当です」
確かめるようにじっと私を見つめるウォーレンに少し恥ずかしくなってしまった。
赤くなって目を逸らした私にウォーレンは満足そうに笑った。
「早く君に好きになって貰えるように頑張るよ」
彼はまた私の指先に口付けた。彼はとんだ小悪魔だと思う。
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