読者への挑戦状
「……以上がエルフの里で起きた殺人事件の概要です。聡明な諸君は既に事件の全容を理解していると思いますが、あたしも諸君を審査せねばなりません。そう、テストです。テストの問題は全三問です。騎士ジールが焦点を当てていた謎の解明を問題としましょう。すなわち、
『ライヴィを殺したのは誰か? 何故そう考えたのか? 二十点』
『犯人が洞窟に侵入した痕跡が無かったのは何故か? 四十点』
『四つの石像に刻まれた碑文の謎の答えは何か? 各十点』
この三点をお考えください。今までの話をよく聞いていれば、解ける謎の筈です。そうですね……。他の多くのテスト同様、六十点を合格点としましょうか。赤点とならないよう、頑張ってください。……ああ、最後に、諸君が混乱を招かないように幾つかのヒントを出しましょう。ジールが使ったシャルウィルのメモと、その他の注意点を配布します。よく読んで、考えてください」
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・死体の様子
土の杭に背後から胸を貫かれ、炭化するまで焼かれていた。遺留品の様子から次期族長候補筆頭であるライヴィであると思われる。
・遺留品
死体の周りには金貨が撒かれていた。次期族長候補筆頭を示すブローチも現場から発見された。
・死因
おそらくは刺殺。その後に焼かれたようだ。凶器は見つかっていない。
火をつけた痕跡が残っていないため、魔法を使ったものと思われる。
・殺害動機
族長の跡目争いが関係している?
族長候補であるレオン、エリノア、ガウス、フィーネ、オウロ、それと現族長の六名が関係がありそうな人物。
族長候補は全員が族長になりたいと思っていたようだ。ガウスとフィーネはどちらでも良いとも言っていたが……。
・族長候補と使う魔術
レオン……里の族長の息子。『火魔術』を使える。生まれがこの里で族長になりたいと強く思っていた。
エリノア……『水魔術』を使うエルフの女性。
ガウス……『土魔術』を使うエルフの男性。
フィーネ……『風魔術』を使うエルフの女性。
オウロ……『調教魔術』を使うエルフの男性。離れた位置にいる動物の視界を共有できる。
ライヴィ……被害者と思われる。里の全員に好ましいとは思われていなかった。戦う力はあまりなく、特殊な訓練を受けていなくても殺すことはできたと思われる。
・死亡推定時刻
詳細は不明。死体を発見した状況から、ジール達が昼間洞窟に足を踏み入れてから、再度洞窟へ突入するまでの間と考えられる。
・死亡推定時刻内に洞窟へ入れた者
レオン、フィーネ、オウロの三名。
・小人族について
里の外れに住んでいる。見た目は姿無き妖精そっくりらしい。エルフ達との交流はあまり無いようだ。
・姿無き妖精について
エルフの碑文に記された妖精。欲望を植え付け欺く?
・エルフの碑文について
三種類の内容が刻まれている。
中央の台座に刻まれた内容。
『豊かな森には大いなる風が吹き、強い焔を生む。灼炎に焼かれた樹木は灰となり大地へ還る。その土の恵みには多くの鉱物が含まれ、やがて鉱物に浄化の水が纏わりつく。浄化の水は再び樹木の栄養となり、我等の繁栄をもたらすだろう。だが、我等は徒に鉱物を取り扱ってはならない。我らが欲深き手に鉱物を取り扱いし時、運命を乱すこととなろう。悲しきことに、鉱物に含まれる金は姿無き妖精を呼び寄せるのである。彼らは我らの手に欲望を植え付け、財宝を求めさせんと欺く。自然の恵みを傷つけぬよう、我等は慎むべきである。森の恵みに感謝し、自然と調和する心を忘れることなかれ。彼の援助なしに、豊かなる未来は訪れまい』
石像の台座にそれぞれ刻まれた内容。
『四匹の獣は、それぞれ使命を果たすべく顕現す。黒き獣は猛る心を持ち、一匹で敵へと立ち向かった。黒き獣の心に打たれ、蒼き獣は友を助ける嘶きを上げ、朱き獣はその嘶きを糧に我等へと癒しの炎を灯す。されども、癒しの炎を受けた白き獣の雄叫びは何にも届かない』
石像にそれぞれ刻まれた内容。
『朱雀』
炎より出でて赤き翅を煌めかす宝鳥
その一振りで何もかもを焼き尽くし
邪なる霊さえも近付く事は叶わぬ
朱雀の炎を愛する者達にとっては
その者達の流るる血や傷の全てを癒し
安らぎと大いなる福音を与えるだろう
助けに応じ灰白より朱雀は蘇らん
『白虎』
白き体毛に覆われた美しき巨虎
卑小な存在を縦横無尽に蹴散らし
不敗人の象徴として守り神とされん
尾の縞が減り玄色へと変わりし時
裂いた魂さえ喰らいつくしまだ足りぬ暁には
血を求め永遠に彷徨う凶獣とならん
黒曜の彼に触れることなかれ
『玄武』
昏き地で妖光携えし青瞳の霊亀
彼の者は常世と現世を司りし獣
その痛切な願いから常世の門を開かん
常世では必ず動さず泰然とすべし
動せば常世での理が汝を蝕むであろう
決して死人を現世に連れ帰らんこと
愛ある二人を死が別つのは現世の理なり
昏天黒地の世界で玄武は汝を待たん
『蒼龍』
赫灼の炎さえも暴風で切り裂く長尺の龍
風より生まれし恵みの雨で大地を潤わさん
風引けた大地には豊穣が約束されよう
天高く駆ける龍の手には光輝く珠あらん
宝玉の名を如意宝珠とされん
悲願たる魔術から魔法への昇華
宝珠用いれば魔の才能なくとも容易とならんが
怠惰者なれば烈火の怒りが降り注ごう
自らを高めし者を蒼龍は助くことを忘れぬなかれ
・死体発見現場について
ジール達が洞窟を散策後、死体が発見されるまでの間に誰も洞窟には入っていなかった。
姿を消した方法は?
・『消臭魔法』について
里で『消臭魔法』を使えないのはオウロだけ。オウロが嘘を言っていなければ、彼は犯人ではなさそう。
以下に推理をする際の前提条件を示します。
・犯人は告発する場に現れている人物です。
・この話において、犯人以外に意図的に嘘をついた人物が一人います。
・この話で使用されている魔法あるいは魔術には、描写や言及のないものは含まれません。
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『読者への挑戦状』です。
活動報告にもコメント出来るようにしておりますので、御質問等御座いましたらこちらの感想欄、あるいは活動報告の方へ。可能な限り御返事させていただきます。




