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第十九話 確認

 状況をよりわかりやすくするよう、全員を部屋の中へと招いた。推測も入ってくるぞ、と前置きして話を始める。


「まず、死体はライヴィだろう。次期族長候補筆頭を示す装飾品がある以上、断定していいと思う」


 その言葉に、四人のエルフ達は心痛そうに俯く。心の内面はどうあれ、里の仲間が一人欠けたのだ。その悲しみを想像すれば思い余るものがある。

 だが、俺は話を続けなければいけない。調査した者の責務と言ってもいいだろう。この不可解な死を、知ってもらう必要がある。


「次に、死んだ時間だが……。医者でもないからな。正確な時間はわからない。ただ、俺やガウス、それにフィーネの三人が昼間にこの洞窟を調べた時には、絶対にこんな物は無かった」


 その言葉に、ガウスとフィーネは力強く頷いた。いくら何でも、三人が三人とも、これだけ目立つ巨大な杭を見落とすことはない。


「そうなると、俺達が洞窟を去ってから、再びこの洞窟を訪れるまでの間に、ライヴィは死んだ事になる」


「で、ですが……。その、貴方達がこの洞窟を去ってからは……」


 困惑気味にエリノアが口を開く。彼女の思っている事は十分伝わっている。そう言わんばかりに大きく頷いて、俺は更に話を続けた。


「ああ。誰もこの洞窟に入っていない。オウロの使う魔術がそれを確認している」


「そ、そうすると……。ど、どうやってこの状況を作ったの? い、入口から見られないで、この洞窟に入るんて、姿を消す事でもしなきゃ……。あっ!」


 フィーネも思い至ったようだ。

 姿を消す。その言葉は、嫌でも姿無き妖精(レプラコーン)を連想させる。


「それも謎の一つだが……。ひとまず、レプラコーンかどうかは考えずに整理していくぞ。どうやって入ったかは別として、その時間帯にこの洞窟に入る事の出来る――ようはアリバイがない奴に心当たりはあるか?」


 そう尋ねると、困った顔をしてレオンが手を挙げた。


「一つ確認したいのだが、ジールは俺等を疑っているのか? この洞窟にライヴィを殺した魔物がいるという可能性だってあるだろう?」


「そ、そうだよ! こんなに明るくしたら、ボ、ボク達、魔物に見つかっちゃうんじゃ……」


 二人の言葉を遮るように手をかざし、一つの事実を告げる。


「残念だが……。確実にオークのような魔物がライヴィを殺したわけがない証拠があるんだ」


「証拠、ですか?」


「ああ」


 そう言ってちらりとシャルウィルを見ると、人差し指を唇に添えて横に首を振った。まだ『解析魔術』の事は言うな、という事だろう。そうすると、目に見えない魔法の事は言わない方が良さそうだ。


「少し順序立てて話すが……。死体は土の杭で胸を貫かれている。それによる失血死か、あるいは見た通り焼死か。そのどちらかが死因だろう」


 うっ、と何人かが目を背けたのが見えた。あまり見ないようにしていたのだろうが、俺の言葉に釣られて見てしまったようだ。


「……見ての通り、辺りに火を付けた痕跡はない。そうなると、どうやって火を放ったかだが……」


「……痕跡が何も無い以上、魔法や魔術が使われたと見るのが常識だよね。そして、魔法は人に向かっては使えない」


 そう。ガウスが今言った通り、魔法は『身体強化魔法』や『回復魔法』といった幾つかの例外を除いて、人には放てない。魔術を魔法とするためには、人に危害を加えないようにする必要があるためだ。しかし、使われたのが魔術であったとするならば……。


「……俺の『火魔術』なら、火を放つ事ができるな。魔術なら対象に制限がないからな」


「……そうだ」


 俺の肯定に、ガウスとフィーネがレオンから一歩退く。怪しく感じるかもしれないが、そういう反応はやめてやれ。冤罪で犯人扱いされるのは、かなり傷つく。


「そう身構えるな。まだ可能性の話だ。それに俺は死因が焼死じゃないと思っている」


「ご、ごめん」


「……いや、気にするな。それで、ジールは何故焼死ではないと思うのだ?」


「俺の推測が正しいか調べなきゃいけないが……。普通、自分に火が付いたら消そうとして、火を払ったり地面に擦り付けたり……。バタバタと動きそうなもんじゃないか?」


「そ、そうだね。ボクも料理してて火が袖に移ったら、慌てて腕を振った事があったよ」


 そう言って自らの腕を振るフィーネ。多分、その反応が普通の筈なんだ。


「そうすると、この死体の周りにはもっと暴れた跡が残っていると思うんだ。だが死体を磔にした杭にはそんな跡は残っていないし、辺りにもそんな痕跡はない。それは……。胸を貫かれた後に焼かれたって事なんじゃないか」


「成程な。大いにありえそうだ」


「そ、そうすると、土の杭で胸を貫いたのは……」


 フィーネの言葉に全員がガウスを見た。


「い、いやいやいや! 僕じゃないよ!! だいたいこの土の杭、『土魔法』でできてるもん。ほら!」


 そう言ってガウスが杭を軽く叩くと、パキンと音を立てて杭の一部が欠けた。


「『土魔法』で作られた物体は耐久性が低いんだったな。こうやって欠けるのを見ると、確かに『土魔法』で作られた物のようだ」


「……どうやって胸を貫いたのでしょうか。魔法である以上、人に向けては使えない筈ですが」


「……それも謎だな。だが一番は洞窟への侵入方法。それがこの事件の最も不可能な点だ」


 そう。例えばナイフかなんかで胸を貫いて、その後に杭に磔にしたって事は出来る。しかし、それよりも重大な事実が一つある。


「……魔に長けた種族とされるエルフに聞くんだが、この辺りにいる魔物が魔法を使うことは可能なのか?」


「ふ、不可能です。魔術を使う魔物はいるかもしれませんが、この辺りには生息していませんし……。何より魔法は広く世界に存在する精霊に呼びかけて、力を借りて事象を呼び起こす技法。言葉を知らない魔物が、魔法を使えるはずはありません」


 博識なエリノアの言葉に感心する。俺は経験で魔物が魔法を使わない事を知っていたが、きちんと理論立てるとそういう事になるようだ。


「となると、この場所で『土魔法』をかけたのは誰だろうな?」


 そう言うと、皆黙って俯いてしまった。確実に、誰かがライヴィを殺したのだ。しかもそれは魔物ではなく今『結界魔術』の中にいる誰か。つまり、里の中に誰かが殺人犯だ、という結論に行き着いたのだろう。


「……そういう訳で、俺は皆のアリバイを確認したい」


 改めてそう言うと、全員が全員を見渡して考えこんでいる。疑心暗鬼になりながらも、今日一日の流れを思い出しているようだ。


「私とシャルウィルは無理だと思います。お互い、里の広場で勉強していましたから」


「そうですね。エリノアさんと別れた後、あたし達はほぼすぐにこの洞窟に向かって来ています。時間に多少の差はあっても、こんな事をする余裕はないでしょう」


 エリノアの言葉をシャルウィルが補う。この二人はほとんど一日一緒に居たから、間違いなさそうだ。


「僕とフィーネは一緒に宝珠を探して回ってたよ! 見つけられなかったけど……」


「ど、洞窟を出てからは、一人で戻ったりしてないよ! ガウスが来るまで、ちゃんと入口にいたの!」


 村に戻ってから、この二人はずっと一緒だった。ただ、ガウスがオウロに見張りを頼みに行っている間、フィーネが洞窟に入る事は可能だ。それがわかっているら、彼女は入口にずっといたと言っているのだろう。証明は出来ないが、嘘を言っているようにも思えない。


「アタシはジールが帰ってからはずっと広場にいたわ。その前は時々里の中を見て回ったりしたけど……。そこの時間はアリバイと関係ないわよね?」


「そうだな。あくまで、洞窟を出てからアリバイのない人間だ」


 そう答えると、リオはホッと息を吐いた。何もしていないのに疑われると言うのは、正直嫌なものだったからな。安堵の息が出てもおかしくない。残るは……。


「俺はジール達が帰るまではゾーリンの所に居た。その後、広場の石像を調べてからはずっと森の中でライヴィを探していた」


「そうすると、洞窟に近付く時間はあった訳だ」


「まあ、な。だが、俺は洞窟に入っていない。それはオウロの魔術が証明している筈だ」


 結局はそこに戻ってくるのか。それこそ『透明化魔法』でも使って、透明人間にでもならなきゃこの洞窟には入る事が出来なかったって事だ。そんな物があるのかさえわからないが。

 そもそも、オウロの魔術が絶対だという確証もないし、少なくとも、この洞窟にはフィーネとレオンの二人が入る事が出来たと思っておこう。


「他のエルフはどうだ? 里から出てきて、この洞窟に入れそうな奴はいるか?」


「……どうだろうな。里の連中に聞くか、あるいはオウロが森中を探っていたから、あいつに聞けばわかるかもしれない」


 ここでもオウロか。

 もしオウロが嘘をついていたら、アリバイの前提も無茶苦茶になるな。一度きちんと話を聞いた方が良さそうだ。


「オウロも里の皆も、ここで話していても正確な事はわからないよ。直接聞いて確かめてみないと」


「それもそうだな」


 ガウスの言う通り、里にいる連中にも直接話を聞くべきだな。里に戻ったら、族長かその補佐を務めていたシェルドさんあたりに聞いてみるとしよう。


「あとは……。そうだな、ライヴィは簡単に殺されるような奴だったのか?」


「どういう意味だ?」


 俺の問いに、レオンは不思議そうな顔を浮かべて聞き返してきた。まあ、その顔はあの古城の事件を知らなければ仕方ないとも思えるか。あの時のように、ライヴィを殺すのに相応の技量が必要なのかを知りたいと思ったのだ。


「……要は誰でも殺せるような奴なのか、特殊な技術がないと返り討ちに遭う強い奴なのかって事なんだが」


「あぁ、そういう事か。それならライヴィは他者を攻撃出来る様な魔術を使えなかったし、身体機能も高くはなかったな」


 そうすると特殊な訓練を受けたことが無くても、殺そうと思えば殺せた、と考えて良さそうだな……。


「今わかるのはこんなところか。……わかったことだけでもまとめると、これは間違いなく魔法を使う人が起こした殺人事件。そして『結界魔術』が張られた結界の内側で事件が起こっている以上、外から野盗なんかが入り込んできた可能性は限りなく低い。……つまり里の中にいる誰かが犯人だって可能性が高い」


「……考えたくはないが筋は通っている」


「……戻りましょう。もっと調べるにしても、一度族長達に報告しないと」


 エリノアの提案に全員で頷く。彼女の言う通り、一度戻って報告すべきだろう。最悪な報告だが、隠せるものではない。それにオウロには直接話を聞かなければ。嘘か真実か断定するのは難しいが、『調教魔術』とやらがどれほど信頼できるのか、確かめさせてもらおう。

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