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第十七話 発見

 結局、あの後はたいして進展もなく、碑文の謎は解けないままレオンの家に戻ってきてしまった。ガウス達が宝珠を探して回ったが、それらしい物は何も無かったってのが進展といえば進展になるのか。


 今はレオンの家で、昨夜の様に三人で集まっている。家主であるレオンはまだ森から戻っていないが、辺りも暗くなってきたので、とりあえず戻ってきたのだ。エリノアが鍵を渡してくれて、勝手に入って大丈夫、と言っていたから、家に居る分には問題ないだろう。


「ねえ、どうするの?」


 暗い面持ちでリオが尋ねてきた。特に目新しい情報もなく、碑文の謎も残ったままなのだから、その表情も当然だ。しかし……。


「どうする、といってもな……。今の現状を伝える程度しか方法はないだろう」


「現状というと、あの石像には何らかの魔術がかけられていて、その魔術を解く鍵が碑文にある、ということですか? その程度は既にわかっていた事にも思えますが……」


「まあ、そうだな……。そういえば、シャルウィルは『解析魔術』で石像を見たんだろ? 何かわかったか?」


 そう尋ねると、シャルウィルは小さく溜息を吐いて頭を横に振る。


「魔術がかけられているのは確かでしたが……。何の魔術かは全くわかりません。しいて言うなら、この里に入る時に見た魔術に似ていたぐらいでしょうか」


 この里の入口には『結界魔術』が張られていると言っていたな。行動を阻害する効果があったし、決められた手順でないと動かないようにする効果なんかも持たせられるのかもしれない。


「それだけじゃダメよねぇ……。やっぱり、ちゃんと答えを出さないと」


 そうは言っても何の閃きも得られていないのが現実だ。里の族長が満足するものではないだろうが、今の結果を伝える他ないだろう。


 気は進まないが仕方ない、と考えたその時、不意に入口の扉をドン、と叩く音が聞こえた。


「何だ?」


 レオンではないだろう。家主なんだから、特にノックなどせずに家に入ってくる筈だ。

 訝しがりながら扉に近付いていくと、ドン、ドン、と更に強い音で扉が叩かれた。力加減はさておき、どうやらこちらを呼んでいるのは間違いあるまい。


「ジ、ジール……」


 不安そうにリオがこちらを見てくる。安心しろ、と手を挙げて更に扉へと近付く。


「誰だっ!」


 扉を開けずにそう叫ぶと、同じく扉を挟んで相手の声が聞こえてきた。


「レオンの使いでやってきたオウロだ。声を張るのも疲れる。扉を開けてくれ」


 オウロといえば『調教魔術』の使い手で、洞窟を見張っていたエルフだったな。とりあえず、知っている名前だし開けても大丈夫か。


 ガチャリ、と扉を開き、目に入ったエルフの第一印象は、エルフにもこんな奴がいるんだな、というものだった。

 首まで伸びた髭は手入れなどされておらず、その伸び放題の髪と同様に四方八方に広がっている。服も所々にほつれているし、正にレオンを超える野性だ。美男美女の多いエルフに似つかわしくない風貌だが、見事に尖った耳が、彼がエルフである事を証明している。


「……何だ。俺の顔に何かついてるか?」


 ジロジロ見てしまったのが不快だったのか、顰め面でそんな事を言われてしまった。素直に謝っておこう。


「い、いや……。すまない、予想外に髭が長かったので面食らってしまった」


「フン。自然を愛すると言うなら、この姿こそが自然だろうに……。妙に小綺麗にしたエルフばかりだからな。まあ、そんなことより……」


 よかった。案外上手く取り繕えたようだ。オウロと名乗ったエルフは特に気にする様子もなく話を続けてくれた。


「……白い鎧を纏った人間の男。ジールで間違いないな? レオンから言伝を預かってきた」


 レオンからの伝言?

 この家に戻れない何か理由があるのだろうか?

 思い当たるフシもなく、ジールは自分だ、と一つ頷いて先を促した。


「……ライヴィが見つからない。森中をオレの魔術を使って探したが、まったく手がかりなしだ」


 オレの魔術、というのは例の『調教魔術』だろう。動物を使って森中を探したようだ。だが、それでも見つからないから、少しでも人手が欲しいということだろうか。


「それで、俺にも森を探せってことか?」


「いや、森の中にはライヴィはいない。あり得るとすれば、何処かの家の中に隠れているか……」


 当然だが、明日には族長になろうって奴が、それも族長になるって息巻いている奴が、何処かに隠れる理由がない。それがわかっているから、オウロも言い淀んだのだろう。


「……何かの事件に巻き込まれたか」


 そう告げると、オウロは深呼吸をして頷いた。


「そうだ。何処かに監禁されている可能性もある。里の中なら全員で家探しでもすれば出てくるだろうが、問題は外の場合だ」


「外って……。野盗なんかは『結界魔術』で入ってこられないんだろう?」


「ああ。だが里の連中が、何処かの洞窟かなにかに監禁することは出来る」


 洞窟。

 その言葉に、背筋に冷たい物が走る感じがした。まさか……。


「昼間からオレが見張っている洞窟。あそこにレオンは向かった。エリノアやガウス、フィーネも洞窟に向かうと言っていた。お前にも来てほしいそうだ」


「見逃しがないか確認するって事か。……わかった、今すぐ向かおう」


「そうしてくれ。連中は入口で待っていると言っていた」


 しかし、あの洞窟は確かに誰もいなかった。その後に入り込んだ可能性があるのか?


「……聞かれるだろうから教えておく。昼間から今、この時間まで、あの洞窟に入った奴はいない。人も、エルフも、オークも、だ」


「……わかった。伝言、感謝する」


 オウロの話が確かなら、絶対にあの洞窟にライヴィはいない。

 だが、この胸騒ぎは何だ?

 何か予想も出来ない事が起こっている。そんな不安感がある。


「……シャルウィル。一応、一緒に来てくれるか?」


「……貴方が言うなら、あたしの力が必要になるかもしれない、と言うことでしょうね。わかりました、一緒に行きましょう」


 念の為、ではあるが……。シャルウィルが居れば、何かしらの痕跡があった時、それを探しやすくなる可能性は高くなる。そんな痕跡は無いに越したことはないがな。


「なら急ぎましょう! ……当然だけど、アタシも行くわよ? こんな所に一人で居られないもの」


 目聡くリオが同行の意を告げた。いなくても困らないが、まあ、一人残していくのもな……。


「オレは自分の家に戻り、『調教魔術』での捜索を続ける。洞窟の方は頼んだ」


 そう言い残して、オウロは自分の家へと戻っていった。俺達も早く洞窟へ向かうとしよう。手早く荷物をまとめ、レオンの家を後にした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……おお、来てくれたか!」


 洞窟に辿り着くと、レオン以外にも既に他の三人が集まっていた。エリノアやフィーネといった女性のエルフでも、森の道中は俺達より速かったようだ。


「僕達の後に誰も洞窟に入ってないって、オウロから聞いた?」


「ああ。俺とガウス、それにフィーネの三人以外はこの洞窟に入っていないようだ。一応、俺達三人が先頭に立って洞窟を進もう。内部はわかっているからな。……その前に、フィーネ。もう一度頼めるか?」


「う、うん。そう言われると思って、『風魔術』で内部は探索してみたよ。……な、何も変わらなかったけど」

「今度は皆に明かりを渡すよ。僕等が探した時よりも抜けがないように。……一応、暗めに抑えておくのは続けるけど」


 フィーネもガウスも察しが良いな。何も言わなくても準備してくれているのは有難い。

 ガウスに『照明変調魔法』をかけてもらい、シャルウィルとリオを俺のすぐ後ろに配置するように隊列を組んで、洞窟へと足を踏み入れていった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 昼間来た通り、洞窟の内部の構造は至って単純だ。

 真っ直ぐ進んでまずは二手に別れる道がある。右に進めば小部屋が一つあった筈だ。


「ここは食糧庫か?」


「そうだろうな。特に変化はなさそうだ」


 お目当ての小部屋に辿り着いた時、残された食料にレオンが驚いて声をあげた。だが、食料に隠れて何かがある事もなく、ただの食糧庫と言う他なかった。

 シャルウィルを見れば、首を縦に振っている。魔術や魔法の要素も残されていないらしい。


「……次は寝床ですか」


 道を戻り、反対側の分岐を真っ直ぐに進む。

 現れたのはオークの寝床であっただろう部屋だ。布団にしていたであろう葉っぱの塊も、昼間来た時と同じ三組が確認できた。


「……ここも昼間と同じだね」


 ガウスに頷いて、シャルウィルの反応を見る。部屋の様子通り、問題はないようだ。最後に残された何も無かった部屋を目指す。

 しかし、どうにも嫌な予感がする。どこかで感じ取った事のあるような、何とも言えないニオイ。不快感の正体が思い出せない事に、若干の苛立ちを覚えながら、最後の部屋へと向かう道を曲がった時だった。


 道の先、最後の部屋から、不快なニオイが濃くなっている気がする。


 この感じを俺は知っている。いや、思い出した。あの、古城の時、廊下を進んだ先の部屋で感じた死臭。あのニオイに酷似している。


「くそっ!!」


「あっ、ジール!?」


 居ても立ってもいられなくなり、思わず駆け出す。後ろから誰かが声をかけてきたが、それが誰かを確認する余裕も無かった。弾かれるように部屋へと飛び込み、あたりを見渡す。


 あの古城のように、部屋に鍵がかかっている訳でもなければ、部屋の中に傷がついている事もなかった。その代わり、俺の目に入ってきたのは、昼間は何も無かった筈の部屋に、突如として現れた巨大な土の杭と、それに貫かれた一体の木乃伊(ミイラ)の姿だった。


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