表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/70

第十五話 小人

 エリノア達と別れ、今日泊まったレオンの家の方を目指す。朱雀の石像がある方に真っ直ぐ進むだけだったから、特に苦も無く見覚えのある道へと出られた。レオンの家を越え、なおもしばらく進んで行くと、ぽかりと穴の空いた山肌が見えてきた。どうやら、これがドワーフの住む洞窟のようだ。


「失礼するぞ」


 一応、一声かけて洞窟内に立ち入る。案外と中はこじんまりとしていたようで、すぐにレオンの姿が見えてきた。


「なんじゃい、お前さんは」


 レオンの腰ほどから声が聞こえてくる。

 少し角度を変えて見てみれば、レオンの足からもう一人の姿が見えてきた。

 髭で毛むくじゃらになった顔、筋骨隆々とした二の腕、そして何よりその背の小ささ。間違いなく小人族(ドワーフ)だろう。


「おお、ジールか。ゾーリン、こいつがさっき言っていた客人だ」


 そうレオンが声をかけると、ゾーリンと呼ばれた男はしげしげと俺の姿を見渡し始めた。いや、俺の姿というより、これは鎧を見ているようだ。


「ふん。たしかに良い金属を使っておるわ。この里の連中が使うような代物じゃないわい」


 案の定、だな。鍛冶を生業にするドワーフらしく、気になるのは装備品だったようだ。だが、次の言葉には驚かされた。


「しかし、お前さんの技量じゃ太刀打ちできん相手がおるようじゃのう。せめて盾か、あるいはもう少し良質な金属の鎧があれば……。なんて考えておるじゃろう?」


「わ、わかるのか!?」


 それは姫さんとの模擬戦を経て、俺が思い描いている装備そのものだった。


「わからいでか。その小手の部分はやたらとすり減っておるのに、その割には盾なんて持っとらんし……。大方、盾代わりに小手で攻撃をいなしておったんじゃろう? じゃが、それだけでは防ぎきれず、そうして鎧のあちこちに傷ができておるわ」


 その説明に、俺は感嘆の溜息を漏らす。

 本職の鍛冶職人とは皆こうなのだろうか。いや、ゾーリンと呼ばれたこの男が、鍛冶において卓越した技量を持っている証左なんだろう。今までに鎧のオーダーなんてした事がないが、全員がここまでの観察眼を持っているとは思えない。


「いや、凄いな。仰る通りだ。見ただけでわかるなんて、さぞかし高名な鍛冶職人なんだろう?」


 素直に感想を伝えると、高名と呼ばれた事が嬉しかったのか、ゾーリンはカカッと笑いながら答えた。


「高名なわけなかろう。このエルフの里に隠れ住んどる偏屈ドワーフじゃよ」


「何を言うか。ゾーリンの腕は確かだぞ、ジール。そうだ、お前も盾や鎧を欲しているのなら、作ってもらえばどうだ?」


「カッカッ……。残念じゃが、お前さんの鎧に使われている以上の金属はこの里には無えよ。盾だって、その鎧と同じ金属を使って作ってもらった方が、よっぽど良いわい」


 おお、と沸き立ちそうになったが、すぐさまゾーリンの言葉に意気消沈する。まあ、素材の問題は確かにあるだろうなぁ……。あの古城での事件で世話になった、ハンナ嬢が取り仕切るマクミルトン商会は、騎士団が最も信頼を置いている武芸品店だったからな。この鎧を作るにあたっても、かなり良い素材を取り揃えてくれていたのだろう。


「まあ、同じ金属がありゃ、儂の方が良いもん作れるとは思うがな。レオンの話じゃ、お前さんはもうこの里に入れなくなるかもしれんのじゃろう?」


 おっと。そうだ、鎧談義に華を咲かせている場合じゃない。レオンに心当たりを聞きに来たんだった。


「里にある碑文と石像を見たんだが、何か思いつく事はないか?」


 レオンに向かってそう尋ねる。しばし顎に手を当てて考える素振りをしていたが、すぐに口を開いた。


「おそらくだが、石像に掘られている部分も含めて、暗号になっていると思う。……ライヴィは碑文だけで解けると考えているようだったがな」


 やっぱりか。そうなるとあの石像の事も考えないといけないわけだ。


「ジールは何か思いついたか?」


「そうだな……。多分、石像の台座に彫られた部分は、石像の向きを表していると思うんだ。今は四つとも中央に向かっているが、その向きを変える事が必要なんじゃないか?」


 蒼き獣は朱き獣に嘶く、なんて書いてあったしな。おそらく蒼龍を朱雀の方向に向けるんだろう。


「おお! ジールもそう思うか!!」


 俺も?

 ということは、レオンもその考えには至っていたのか?


「俺もそう思って石像を動かそうとした事があったのだ。だが、びくともしなかった。『身体強化魔法』をかけてみても、どうにもならなかったのだ」


「びくとも?」


「うむ。まるで大地にそびえ立つ巌を押しているかのようだった」


 それは……。おかしいんじゃないか?

 レオンの『身体強化魔法』の練度は中々のものだ。どれだけ重い石像だと言っても、多少なりは動きそうなものだが……。


「とすると、動かし方に法則でもあるんじゃないか?」


「むう。押しても引いても駄目だったが……。体当たりでもすれば良かったか?」


 いや、それは違うんじゃないだろうか……。


「他の碑文にヒントがあるのかもしれないが……。今はまだわからないな。あとは……。レプラコーンについてはどうだ?」


「レプラコーンと言ってもな……。当然、俺は見たこともない。ゾーリンのように髭が多いとは聞いたことがあるが」


「カッカッ。案外、儂等ドワーフを馬鹿にするための碑文じゃったりしてな」


「それなら素直にドワーフは髭もじゃの鍛冶馬鹿と書くだろう」


「カッ。違えねぇ」


 こういう冗談が言える仲なんだろう。どちらも特に憤慨した様子はなく笑いあっている。その仲の良さを少し羨ましくも思いながら、残ったもう一つの質問をしておく。


「そういえば、ライヴィを見たか?」


「いや、見ていないな。ライヴィがどうかしたのか?」


「朝から姿が見えないらしくてな。洞窟に来たかと思ったが、見当たらなかったんだ。レオンと居るかと思ったんだが……」


「ゾーリンに会いに来るのは俺かガウスぐらいなものだ。他のエルフ達は近づこうとしないからな」


「そうじゃな。お前さんらは変わりもんじゃわい」


 ふむ。ならどっかに潜んでいるとしても、こっちの方角には近づいてこないってことか。


「わかった。とりあえず聞きたいことは聞けたし、俺はもう一度碑文の所へ戻ってみるが……。レオンはどうする?」


「おお、なら俺も行くとしよう。石像が動くかもう一度試してみようじゃないか。それに、エリノアの座学を聞かなくても良さそうだ」


 実はコイツもサボりたかっただけじゃないだろうか……。


「まあ人族の小僧も頑張ってみるこったな。上手くいったら、お前さんにも盾の一つぐらい打ってやるよ」


「ああ、よろしく頼む」


 最後のは社交辞令だろうか。それでも、ドワーフに武具を作って貰える機会なんてそうそうあるものでもないし、頑張り次第で現実になるかもしれないと、そう思うと心が弾む。頑張らなければいけない理由がもう一つできた事だし、張り切ってみるとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ