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第六話 対面

 リオの『消臭魔法』騒ぎから程なくして、待ち合わせに指定された場所へ到着した。約束通り二人のエルフが森の入口に立っている。……どうでもいいがエルフの数え方も人でいいのだろうか。一エルフ、二エルフと数えるのも面倒だし気にしない方がいいな。


「お待ちしておりましたぞ。……おや? そちらの女性は……?」


 俺等に気付いた老いた方のエルフ――たしかシェルドさんだったか――は挨拶と同時に、昨日はあの場に居なかったリオの存在に気付いたようだ。不思議そうにこちらへと視線を投げかけている。まあその反応は想定の範囲内だけどな。


「彼女はリオという。シャルウィルはしっかりしているが、見た目通り幼いからな。俺がオーク討伐に行っている間に、何か粗相でもしたら悪いと思って同行を頼んだんだ。お目付け役みたいなもんかな」


「……リオです。どうぞよろしく」


「そうですか。こちらこそ、どうぞよろしくですじゃ」


 後ろからすげー視線を感じるが気にしてはいけない。

 もしリオが新聞記者だなんてバラしてしまえば、隠れ里の事を記事にされると考えられてしまい、あまり良い心象を与えないだろう。

 俺は彼女が実際にそんな事をする人間じゃないと信じているが、エルフ達からすればそんな事はわからないだろうしな。

 だからシャルウィルの監督の立場を演じてもらったわけだが……。リオとシャルウィルの二人から強く反論されなかったあたり、彼女達も記者とバラすのは不味いと考えてくれているのだろう。

 シャルウィルからは汚物を見るような視線を感じるが、この程度は仕方あるまい。甘んじて受けようじゃないか。


「……シャルウィル殿は立派ですなぁ」


「え?」


「いや、その幼さで魔術を魔法へと昇華させようとするその志は、なかなかできるものではないですぞ。里の連中にも見習わせたいくらいですじゃ」


「ど、どうも……」


「なに、魔の道に歳は関係ありませぬ。また、魔を極めんとするに早すぎることもなければ、遅すぎることもありませぬ。大切なものは情熱ですからの。シャルウィル殿からはそれを感じますのじゃ」


「あ、ありがとうございます……」


 シェルドさんにおだてられて、シャルウィルにしては珍しく顔を赤らめている。おかげであの冷たい視線もなくなって、俺としては大変ありがたい。


「そろそろいいだろう? 行くとしよう」


 二人のやり取りを黙って見ていたレオンが声をあげた。どうやらコイツもリオが同行する事に反対はないようだ。誤魔化しは一応の成功で良いだろう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「シャルウィル、通った跡が残るからそこの茂みは踏むな。……リオ! その花は花粉がこびりつくぞ! もっと離れて歩くんだ」


「は、はい……」

「わ、わかったわ……」


 森に入ってからの俺は、自らの痕跡を消そうとしない二人への助言に追われていた。二人も慣れない動き方に苦戦しているが、素直に言う事を聞いてくれるのはありがたい。

 しかし、普段から森に入る事のないであろうリオはともかく、シャルウィルは姫さんと野営をしたこともあるだろうに、全くと言っていい程にスキーニングの歩法が出来ていない。

 いや、案外と姫さんもそういうのには気にしないで進んでいたのかもしれないな。あれだけの『身体強化魔法』が使えるのならば、むしろ敵に発見された方が対処はしやすかった可能性がある。

 そう考えると、シャルウィルの動き方は姫さんにとっては理想的だったのか。まあ『身体強化魔法』の使えない俺には出来ない選択だが。


「ジール殿は森の歩き方に慣れておりますなぁ」


 俺の歩法に感心したように、シェルドさんは髭に手をやりながら話しかけてきた。レオンも興味深そうに俺を見ている。


「俺の生まれもこんな感じの山奥だったからな。……俺もシャルウィルくらいの頃は、森に入れば同じ様によく怒られたから、身体に染み付いてるんだ」


 子供の頃に怒られた記憶なんてあまり話したくはないが、黙っているのもバツが悪いので仕方無しに答える。

 やはりある程度の鞭は必要なんですかなぁ、なんて間延びした声が返ってきたが、その声とは裏腹にシェルドさんの足取りは自らの痕跡一つ残していない。それはレオンもまた然りだ。流石に森の民なんて渾名されるだけあって、見事なスキーニングをしている。どんな歩法なのかよく観察しようとしていると、レオンは不意に立ち止まった。


「……さて、もうすぐ我等の里に着くのだが、どうするのだ?」


 森に入ってまだ数刻だろうが、どうやらもうエルフの里は近いようだ。どうするってのはこの二人の事だろう。魔術が使えるとは言ってもオーク討伐に役立つ魔術なのか、と暗に聞いているのだ。


「二人には里で待っていてもらいたいのだが……。里には入らない方がいいのか?」


「いや、魔術を訓練するのであれば里に入ってもらった方が良いだろう。オーク討伐に連れていくのかを尋ねただけだ」


「御二人は討伐に参加なさらないのであれば、儂が案内するとしますかの。さあ、こちらですじゃ」


 そう言ってシェルドさんは更に森の奥へと進んでいく。シャルウィルはどうしたものかといくらか混乱したようだったが、手で追うように指し示してやると慌ててシェルドさんを追いかけていった。


「こっちは面倒見ておくから、アナタも頑張りなさい」


 別れ際、リオの言葉に無言で頷いてみせると、彼女も何かを察したように頷き返してくれた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 自然を大切にしているエルフが住む森だけあって、この森の木々はその一つ一つが雄大で、まさに深緑を表しているといっていい。だが、それは言い換えれば、すぐに姿が見えなくなる程に成熟した森である、とも言える。現に発ったばかりだというのに、三人の姿はもう見えなくなっていた。


「……あの先にお前達の住む里があるのか?」


「ああ。と言ってもそんなに大勢は住んでいないがな。……では、こちらも仕事を始めるとしよう」


 レオンはそう言うと、昨日返した短剣を両の手に構えた。殺気がこもっていないあたり、いつオークに遭遇しても良いようにしただけのようだ。


「……どうした? 構えないのか?」


 短剣を構えた姿を見てもだらりとしたままの俺を見て、不思議そうに問いかけてくる。

 俺としては今から構えてる方が疲れるだろうし、何より気になる事が二、三ある。そっちの解消の方が先だ。


「仕事の前に確認なんだが、お前()はこれで全員揃ってるのか?」


 わざわざ複数形を強調して問いかけると、レオンだけでなく周りの茂みが不自然に揺れた。それでも出てこないあたりはよっぽど姿を見せたくないのだろうか。


「……驚いたな。何故わかったのだ?」


 レオンの方は隠し通せないと思ったのか早々にネタバラシを求めてきている。その言葉を受けて、茂みから二人のエルフが姿を現した。とりあえず質問に答えておこうか。


「アンタはエルフの里でもそれなりの立場なんだろう? そんな奴がいくらなんでも一人でオーク討伐に出たりはしないだろうさ。それに……」


 そう説明をしながら出てきたエルフの観察をする。

 どうやら二人共女性のようだ。長い耳はエルフの特徴だが、いくらか顔付きがレオンよりも柔らかい。民族衣装なのかレオンやシェルドさんと同じ様な服装をしていて、服装から男女の区別はしにくいが、二人共少し胸に膨らみがあるから女性だろう。あとは声でも聞けばわかるが……。説明を先に済ませるか。


「森に入った時から監視されてるような視線を感じていた。それもオークが獲物を狙うような感じじゃなく、信用できるか値踏みされてるような感じの視線だ。他のエルフが俺を見張ってると考えてもおかしくないだろう? よく見れば不自然に葉が揺れていたりしたし、何人か隠れているのは間違いないな、と思ったんだ」


「凄いですね……。まさか気付かれるとは思いませんでした。レオンが太鼓判を押す訳ですね」


「……あの、ちょっと失礼でしたよね。すみません」


 俺の説明に二人のエルフが口を開いた。どちらもその声色は高く、想像通り女性であったようだ。


「貴方がジールさんですね? 私はエリノアと言います。レオンと同じ里のエルフで、今回オーク討伐に御一緒させていただきます。……ほら、フィーネも!」


「あ、えと、フィーネです。ボクも一緒に行きます。よろしく、です……」


 快活に話しかけてきた方がエリノア、どこか内気そうに見える方がフィーネというらしい。適当に挨拶を返して、レオンに解消されなかった二つ目の疑問をぶつける。


「もう一度聞くが、これで全員か? 後ろの奴は付いて来ないのか?」


 そう尋ねると、フィーネは大きく目を見開いて震え出した。女性にそんな化物を見るような目で見られると傷付くからやめてほしい。


「ど、どうしてわかるんですか? ま、まさか後ろに目が付いて……」


「そんな筈ないだろう」


 後ずさるフィーネにツッコミをいれると、怯えながら彼女の視線は地面へと向かった。これでオーク討伐が行えるのだろうか。一つ溜息を入れて言葉を続ける。


「森に入った時から、付かず離れずやたらと土の匂いがこびりついていた。今は丁度俺の真後ろの辺りから匂いがしているな。だから、もう一人は確実に付いてきているとわかったんだが……」


「いやぁー、凄いな。まさか土の匂いを感じ取られるなんて思わなかったよ。あ、僕はガウス。よろしくね」


 そう告げると、後ろの茂みからガサガサと音を立ててエルフが出てきた。今度は男性のようだ。どことなく軽い印象を受ける。


「……これで全員だ。我等四人がオーク討伐に同行する」


「一応聞くが、隠れていたのは俺を見定めるためであってたのか?」


「言い方は悪いですが、その通りですね。もっとも、あまり意味はありませんでしたけど」


 レオンといい、この三人といい、どうも人を試すのが好きな連中なようだ。まあ今回のは実害がないから、あまり気にもならないが。


「……改めて、ジールだ。試されていた事も特に何とも思っていないからよろしくしてほしい」


 そう伝えると、四人は一様に頷いて返事を返してくれた。そのまま、最後に残った気になる点を伝える事にする。


「それで……。そこにオークの痕跡が残っているのだが、それを追うって事で良いか?」


 そう伝えると、四人はまた驚いて目を見開くのだった。

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