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第二話 強襲

 妖精族(エルフ)と思わしき男は、握った短剣を逆手に持ち変えると俺へと飛びかかってきた。


「オークの群れを退けたというその実力……。見せてもらおうかっ!」


 そう叫びながら斬りかかってくる剣閃を、身体を半身にして後退する事で躱す。


 しかし、オークだって……?

 それはもう何ヶ月も前の話だと思うが……。エルフがオークの仇討ちなんてするものだろうか。


「どうしたっ!? その腰の剣は飾りではあるまいっ!?」


 尚も仕掛けてくる男の攻撃を、小手を使って急所に当たる事を逸らしながら考え続ける。

 だが、どう考えてもオークとエルフが友好的な関係を築いているという話は信じられなかった。


「貴様……。なぜ抜かんっ!?」


 男の攻撃を十合もいなした頃だろうか。俺が剣を抜かない事に痺れを切らしたのか、男は足を止めて尋ねてきた。

 ようやく、話し合いのフェーズに持っていけるか。


「……アンタが何者で何を理由にこうしているかもわからない。そんな中で俺が剣を抜けば、それはもう殺し合いに発展する可能性がある。俺は殺し屋なんかじゃないからな、誰が好んで人殺しなんてするものかよ」


 男は怪訝そうな顔をしながらも、黙って俺の話を聞いている。どうやら会話をする余地はあるようだ。


「御察しの通り、俺はアレクシア・レイアード辺境伯が誇る騎士団のジールだ。この平和な領地で暴れ回ろうなんて考えなら、騎士らしく暴漢を制圧しなければならないな」


「フン……。ならば速くその剣を抜くがいい」


「だがアンタが本当にこの領地で暴れる気なら、尚更アンタを殺す訳にはいかない。どんな目的で暴れて、仲間はどれだけいるのか……。聞かなきゃいけない事は山程あるからな」


 だから、と言葉を続けて、俺は半身の身体から下げていた腕を構え直す。


「この剣は抜かずにアンタを捕らえる。痛い目を見たくなかったら、素直にその短剣を収めてほしい」


 そう告げると、男は呆気に取られたように目を見開いていたが、それもほんの数秒。すぐに構え直して口許に笑みを浮かべていた。


「どうやら、貴様が剣を抜かないのは私を愚弄しての事ではないらしい。ならばっ! その無手で私をどう捉えるのか見せてみよっ!!」


 俺の制止も効果はなく、再三に渡り男は短剣を逆手に飛びかかってくる。だが、もうその動きは悪手だろう。


 男の身体から淡く光る魔力の輝きは、何時ぞやのクインの時とは違い眩く映っている。それは男の『身体強化魔法』が十分な練度にある事を示していた。

 だが、こっちは姫さんという『身体強化魔法』の達人と何度も手合わせしているのだ。男の剣閃は姫さんのそれとは比べるべくもなく、腕の振りまでしっかりと捉えられる速さだった。


「あ、当たらないっ……!?」


 余裕たっぷりに見えていた男の声色が驚愕に染まっていく。先程までは小手を使ってパリィに徹していたが、動きが見えるのであればスウェーやステップで躱す事も可能だ。


 まして、男の短剣は逆手に握られている。

 逆手持ちは自身に刃が向かないため、自傷のリスクは減るだろう。しかし、その分振り抜ける攻撃方法が限られる。

 つまり、上からの振り下ろし、相手が持つ短剣側から逆方向へ向かう袈裟斬りや切り上げ、あるいは横薙ぎ。あとは正面から体当たりしつつの突きだ。

 男の右手に短剣が逆手に握られている以上、俺はただ自身の左側からの攻撃だけを注意すれば、容易に躱す事が出来た。

 勿論、他にも短剣による攻撃パターンはあるだろうが、逆手持ちを主軸に捉えれば、それ以外の攻撃はかえって速度が落ちる。腕の動きを見れば十分、予測し反応可能だった。


「ば、馬鹿な……」


 男の目が再度大きく開かれる。先程の呆然としたものでなく、今度は明らかに動揺の色を持って。

 相手からすれば、掠りもしないというのは想定もしない出来事だったのだろう。それでも、愚直に手を振り攻撃を続ける姿勢は称賛に値する。だが……。


「……オラッ!!」


 横薙ぎの一撃をダッキングで躱し、そのまま踏み込んで(アバラ)に強烈なのを叩き込んでやった。


 しかし、今度は俺の方が驚かされる番だった。

 本来この金属製の小手で包まれた拳ならば、易々と骨の一本でも砕いていた筈だったが、拳に返ってきた衝撃がそうでないことを予期させる。

 どうにも分厚い金属の扉を叩いたような、そんな手応えのなさに、俺は後ろへと飛び退った。


「……成程、確かに対した戦闘力を持っている」


 そう言う男の表情は、襲ってくる前とほぼ変わらない。むしろ余裕のようなものさえ浮かんでいた。

 俺の一撃で対したダメージを与えられなかった事で、落ち着きを取り戻させてしまったようだ。


「だがまだ終わりではないぞっ!!」


 そう叫ぶと、男は()()にも短剣を握り飛びついてくる。


 二刀。男の余裕の正体はこれかっ……。短剣を逆手に持つ仕草も、元々二刀を扱うのであれば腑に落ちる。二刀を逆手で扱う事で自傷のリスクを避け、一本では攻撃の範囲が狭まるデメリットを消す。つまりこれこそがこの男の本来のスタイル。


 その証拠に、先程までの攻防とは打って変わり、男の剣閃を完全に避けきる事は難しくなった。左右両側からの攻撃に対処しなければならなくなったことで、小手を使ってパリィする事が増えてきている。


「どうした!? ここまでかっ!?」


「……アンタがな」


 煽ってくる男の切り上げの攻撃を躱しながら、腕の振りに合わせてやった。前にカール副班長にやった技だ。

 あの時は蹴りだったが、たとえ相手が武器を持っていようと『三式観闘術』は使用できる。


「なっ……!?」


 俺に加速された勢いそのままに、男の身体はくるりと反転していく。当然そんなチャンスを放っておく理由もなく、男に足払いをかけてすっ転ばせた。


「ぬ、なっ……!?」


 何が何だかわからないであろう内に、男の手を蹴り上げて短剣を飛ばしておく。……二つもあると面倒だな。


「アンタの武器は無効化したぞ。あとは捕縛だが……。こいつで縛っとくか」


 腰に準備していた割としっかりした紐縄で、相手を後ろ手に縛り付ける。警らも兼ねて散歩していて良かった。またベルトじゃ格好つかないもんな。


 不思議なのは捕まったときの男の態度だ。

 妙に大人しいというか、抵抗が一切なかった。あれだけ暴れ回っていたのだから、縛られる時も抵抗されると思ったんだが……。


「腑に落ちないといった顔をしているな」


「ほっとけ」


 俺の表情を読んだらしく、男は静かに言った。それには直接答えず、短く吐き捨てる。


 しかしどうにもやりにくい。

 もっとこう、反抗的な感じなんじゃないのか?

 まあ、いい。この後調べればわかってくるだろう。


「……ひとまずアレクシア様の所へ来てもらおうか。仲間の有無や目的、色々と聞かせてもらおう」


「残念だが、貴様と一緒に行く訳にはいかないな」


「何……?」


 おとなしかった男がそう呟くと、しっかりと縛っていた筈の紐縄が燃え始めた。


 燃える……?

 魔法は人に向けては使えない。勿論、発火を促す道具なんか持っていないのも確認した。

 なのに何故……?


「ぬぅぅん!!」


 突然の発火に唖然にとられていると、男は燃えて緩んだ紐縄を強引に引き千切り、登場した時と同じ様に獣のようなしなやかさで俺から距離をとっていく。


「……魔術かっ!!」


「その通りだっ!! だが貴様の実力は認めよう! 再び相見える時まで、その短剣は預けておくぞっ!!」


 そう言い切った時には、男の姿はすっかり消え失せていた。

 あとに残ったのは男の言葉通り、両手で振るわれていた二本の短剣だ。


 悔しいが、もう追いつけそうにもない。ここは引き下がるしかないだろう。不審者が出た事も早く姫さんに伝えなきゃならないしな。


 俺はしっかり捕縛出来なかった事を心残りに思いながらも、男の残した短剣を拾い姫さんの住む館へと戻る事にした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 男の残した短剣を手に、その正体と目的を考えながら館までの行路を急ぐ。


 あの男の風体は噂に聞くエルフそのものだった。


 長い耳に魔術の行使。違うところと言えば、この残された短剣を用いていた事ぐらいか。


 エルフは妖精の名を冠する通り、魔法に長けた一族とされている。その分、近距離からの攻撃を不得手としていると聞いたが、あの『身体強化魔法』の練度をみるとそれも眉唾ものだな。あのぐらい動けるのであれば、何を扱っても不得手というレベルではないだろう。


 不可解なのは、奴はどうも俺を狙っていたようだと言う事だ。わざわざ俺を確認してから襲ってきたあたり、間違いないと思う。


 しかし、俺にエルフの知り合いなんぞいないし……。

 どういう事なのかさっぱりわからん。


「……殿……。ジール殿!」


 呼びかけられていたことに気付き、慌てて顔をあげるとそこには見知った初老の男性が立っていた。


 姫さんの有能執事であるモリーさんである。


 細身の身体でテキパキと仕事をする人間は、ややもすると冷たい印象を受ける事が多い。モリーさんも細身ではあるが、それに反していつも穏やかな人だった。だと言うのに、普段見ない表情で彼は俺を呼びかけてきた。


「何処に行っておられたのか……! 本当に捜しましたぞっ!?」


「す、すまない」


 俺が館に居ないのは普段通りなのだが、モリーさんの鬼気迫る表情に思わず謝ってしまう。そして警らの最中に不審者を見つけ、寸でのところで逃げられてしまった事を伝えようとして、ふと気付く。


「俺を、捜していた……?」


「そうですぞっ!! アレクシア様に急な来客がありましてな。どうもジール殿も聞いておいた方がよい話だという事で、アレクシア様から呼んでくるように仰せつかっておったのです!!」


 ふとした心の声は漏れてしまっていたらしい。だがモリーさんの返答で状況はわかった。俺を必要とする案件、つまりは何らかの事件が出てきたって事のようだ。

 こっちも姫さんに報告しなきゃならない事があるってのに、普段は何も無いくせしてどうしてこう立て続けに事件が起こるのか。


「ぼやぼやしていないで早く館にお戻りを!」


「お、おう!」


「アレクシア様は応接間でお待ちです! お急ぎくだされっ!!」

読者への挑戦状まで、基本的に毎日投稿致します。

プロローグ、エピローグを含めて全三十二話の予定です。

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