ソフトクリームの様な恋?
冬園藍栖は、名前の通りアイスクリームが大好きな女の子だった。
寒い寒い冬でも、コンビニやスーパーでアイスクリームを求める程、アイスクリームが大好物であった。
そんな冬園藍栖、御年20歳。
もう立派な大人だった。
就職も決まり、お給料も貰えたら、彼女の夢はコンビニのアイスクリーム大人買いであった。
そんな冬園藍栖が恋に落ちてしまった。
アイスクリームが溶けそうなほどの恋だ。(自称)
お相手はコンビニのバイト店員の男性だった。
名前を真夏炎也。
自分とは、名前がまさに正反対の様な熱い体育会系に……見えた。
藍栖は誓った。
アイスクリームを大人買いしたその時、告白しようと。
それからは、足繫く真夏炎也がバイトの時を狙って飲み物などを買った。
「いらっしゃいませー」
今日も今日とて、コンビニにシャープペンを買いに来た藍栖。
真夏炎也のやる気のある挨拶と笑顔で既に入り口で蕩けそうになっていた。
そんな自分を叱責し、シャープペンをそそくさとレジに持って行く。
自分は、クールで美人な部類に入ると自負している藍栖。
サッとカウンターに商品を置いて、お釣りが無いようにお金も出した。
相手が年上かもしれないし、年下ならばカッコイイ大人を見せたかったからだ。
「ありがとうございましたー」
ビニールシートとマスク越しでも分かる。
私には分かる!
ああ、きっと真っ白な歯だろうな。
藍栖は妄想を膨らませる。
そんなことはおくびにも出さず、サッとレシートを受け取る。
そして、格好よく長い自慢の髪をなびかせてコンビニを去った。
完璧ね……。
藍栖は、外に出た途端フッと息を吐く。
さあ、今日も告白の為に稼ぐわよ!
藍栖の瞳は燃えていた。
「いらっしゃいませー」
真夏炎也が、今日もバイトをしている。
彼のシフトはもう完璧に頭に入っていた。
ストーカー?
いや、断じて私はそんな低レベルな存在ではないわ!
藍栖はそう息巻いて、ペットボトルのミルクティーをレジに持って行く。
しまった!
と藍栖は顔を微かに顰める。
今日は、お釣りを出してもらわなきゃいけないお札しか手持ちがない。
生憎、ここで手が触れ合うなんてことは期待していない。
だって、今はこんなご時世だもの。
トレーにお釣りを置くんだわ。
だって、そう張り紙してるんだもの……。
藍栖のテンションが下がる中、真夏炎也がお釣りを差し出す。
「え?」
「あ、すいません! 手渡し厳禁でしたね」
惜しいことに、彼のポケで手渡しが可能だったかもしれなかったのに!
藍栖は、
「いえ」
と平静を装ってトレーを示す。
真夏炎也の手前、クールな自分は崩せない。
お釣りを置いてもらい、財布に仕舞うとまたサッと商品を持って、コンビニを去る。
外に出た途端、藍栖は地団太を踏む。
ああ、惜しかった!
彼の手に触れられたかもしれないのに!
まあ、いいわ。
藍栖は微笑む。
もうすぐ、夏の給料日。
コンビニの全種類のアイスクリームを大人買いして、いざ告白よ!
藍栖の瞳は今日も熱い!
「ありがとうございましたー」
真夏炎也はホッと息を吐く。
ここの所、毎日自分がバイトをしている日に必ず来る客が居る。
女性だ。
もしかして、俺のストーカー?
いやいや、真夏炎也は首を振る。
それは俺の妄想からだ。
客にそんなイメージを持つことは止めよう。
今日も働いて、奥さんに早く正規雇用の仕事をゲットするって誓ったからな。
真夏炎也は、仕事中は邪魔で外す結婚指輪をポケットから出して微笑む。
彼は奥さんにべた惚れだった。
ウチの奥さん、アイスクリームじゃなくて、ソフトクリームの方が好きだからな。
今日も今日とて、真夏炎也はコンビニで働いていた。
そして、今日、藍栖が告白の為に念には念を入れて、お洒落をしていたが彼女が真実を知るのは、後一時間後の事だろう……。
読んで、笑ってくれたのなら、嬉しいです。
最初、こんな設定ではありませんでした。
藍栖の暴走から始まる恋? でした(チャンチャン♪)