想像で創造する女神11
相手の大群、一体一体が非常に洗練されており、練度が高い
それでもプリシラの機械動物たちも十二分に戦えていた
力は互角と言ってもいいだろう
お互いに強力な指揮官クラスの召喚生物たちもこの戦闘で功績を上げ続けていた
「ウルフェン! 今です!」
「ウォン!」
それはほんの少しの隙だった
マルンが指示を出そうと横を向いた瞬間、ゆっくりと忍び寄っていたウルフェンが彼女の腕を喰いちぎった
「アガァアアアア!! あちきの腕! 美しい腕がぁ!!」
血が噴き出し、地面にボトボトと零れ落ちる
そのとたん魔物の大群は一斉に指揮を失い、なんとマルンに牙をむき始めた
「いや、やめて! 食べないで! あちきまだ死にたくない! あああ! 足がない! うっ、痛い痛い痛い痛い!!」
魔物に群がられてマルンは少しずつ千切られ、喰われていく
どうやら魔力で操っていたのか、そのことに怒った魔物たちは彼女を苦しめて殺すつもりだ
「イグルス、スネール、お願い」
イグルスが上空から群がる魔物を攻撃し、スネールがするりと間を抜けて血まみれのマルンを咥えると助け出した
指揮を失った魔物たちは有象無象となり、プリシラの機械動物たちが蹂躙し始める
内臓も少し喰われたのか、腹が破けて臓腑が出ていた
「ぐふっ、う、テラウム、そこにいたの。アハハ、よかった、また、会えたね、お姉ちゃん、頑張ったけど、ダメ、だった。ごめんね、ダメなお姉ちゃんで、ごめ、ん」
「死なせません」
プリシラは敵であるマルンの体を解析し、足りないものを創造して彼女に組み込んだ
喰われた内臓は別のものを、失った手足に変わってちゃんと自分で動かせる機会義手と義足をつけた
「これでよしです」
「め、女神様、なんでそんなやつ助けるんすか?」
「・・・。この子の目の奥に深い悲しみを感じました。やりたくてやっていたわけではないようなのです」
「そういえば人質を取られたりしてる連中もいるって聞いたっす。この子もそうってことっすかね?」
「それは分かりませんが、目を覚ましたら話を聞いてみましょう」
それから数分でマルンは目を覚ました
「な、なんで助けたのよ? あのまま放っておけばあちきは死んでた。なんで?」
「あなたに悲しみを見ました。無理矢理戦わされているのでしょう?」
「はんっ! 残念、あちきはあちきの意思でウルに入ったの。人質だって取られてないわ」
「こいつ駄目っすよ女神様! ここで殺しておくべきっす!」
「いいえオディルス。それは駄目です」
「・・・。分かったわよ、話すわ」
プリシラに最早敵意はない
そのことに気づいたマルンは話し始めた
「あちき、ここでかつて様々な世界を救った英霊を召喚しようとしてたのよ」
「英霊?」
「そうよ。世界を渡って、旅して、いろんな世界を救った英霊たちはそれこそ様々な世界のどこかに眠ってるの。死んでるって言った方が分かりやすいわね。あちきのこの召喚術式はそんな英霊に肉体を与えて、あちきが使役できるようにするの」
「なぜそのようなことを?」
「ウルに言われたのよ。そうやって英霊たちをウルに引き込むことができたら、あちきの死んだ家族を生き返らせてくれるって」
どうやら彼女は交換条件でウルの大幹部として働いていたようだ
しかし現在死んで肉体から魂の離れてしまったものを甦らせる手段は無い
それこそアウルがその手段を見つけていない限りは
「分かってるわよ。あちきだってあいつらに加担することが悪いことだってことくらい。でも、でももう一度会いたかったのよ! 母様にあってまた子守唄を歌ってほしかった! 父様に頭を撫でて欲しかった! 大好きな、弟を、抱きしめたかった・・・」
ボロボロと涙を流して語るマルン
彼女の家族は彼女がウルに入る数ヵ月前に盗賊たちに襲われて殺された
その際にマルンはこの召喚の力に目覚めたのだが、そこにウルが目をつけたわけだ
「事情は分かりました。しかし完全に死した者は、もう生き返ることはできません。理は変えることはできないのです。それこそ過去を・・・」
そこで一つのことを思い出した
神界でみた奇跡の事象
時を操る少女のことを
「あなた、私達の仲間になりませんか?」
「は? 何言ってんのよ! あちきはあんたたちを殺そうと」
「ええ、ですがあなたは必死だっただけですよね? もう一度家族に会いたい。ただその一心で動いていた。そこに悪意などあろうはずがありません」
「でも、でもあちき」
「死者を甦らせることはできません。しかし、過去を変えれるとしたら?」
「そんなこと、蘇らせるより難しいじゃない!」
「いいえ、実は出来る者を知っています」
「ほんとうに!?」
過去を変える
通常ならばバタフライエフェクトのように重大な事象が変化するかもしれない
しかし彼女の時空連動帯は自分の世界を離れた時点から止まっている
そのため大した変化もなく過去改変ができそうなのだ
「本当にできるなら、できるなら、あちきあんたについて行く」
「交渉成立、ですね」
二人は握手を交わす
大隊群と、それと同等の大群を召喚できる二人が手を組んだ




