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ウル

 時は遡ること十年前。リディエラが生まれる四年前のことだ

 一つの概念が生まれた

 それは次第に大きく膨らみ、やがて一個体の生命体を生成した

 生命体は自我を持つには不安定で依り代を必要とし、蠢きながら手当たり次第に自分に合う器を探した

 見つけたのは一人の商人だった

 金にがめつい強欲商人で、金のためなら悪事にも手を染める。悪党と呼ぶにふさわしい男

 生命体はその悪心に興味を引かれた

 自我を得るためには強い感情が必要だ

 感情を喰らい自らの糧として成長する

 男の体の中で生命体はその悪心を糧に成長を続けた

 なんて美味しい負の感情なんだろう

 今までたくさんの人間の感情を喰らったが、喜びと悪心はこの生命体にとってはこの上ないごちそうだった

 もし喜びや優しさと言った感情を喰らい続けていたなら未来は変わっていただろう

 しかし生命体は悪心の方がエネルギーが強いことを理解し、積極的に悪心を持った人間に憑くようになった

 そのため心に悪が芽生え、やがてそれが自我となった

 自我が育ち切ると生命体は悪そのものとして動き始めた

「悪を成す。悪こそがこの世の理にして真理」

 その考えを深く胸に刻み付け、生命体は自らをアウル・フェトンと名付けた

 とある世界の言語で悪性の腫瘍という意味だ

 悪性腫瘍のように自らの悪を広げよう。そんな思いがその名前には込められている

 そしてアウルは動き始めた

 今まで吸収した知識でやるべきことは既に見通しが立っている

 まずは自分に賛同する者を集めて力をつける

 目的を果たせる段階までは神々やそれに準ずる者たちに気づかれてはならない

 ひっそりと慎重に、誰にも悟られることなく

 アウルは一人禍々しく笑った

 まずは賛同者を集めるために世界を巡る

 

 様々な世界を巡り、アウルは多くの賛同者、協力者を集めて組織を作った

 それこそがウル

 立ち上げの段階で一度封印されていたイレギュラーに気づかれそうになったが、そこは何とかうまく隠すことができた

 もし気づかれていたなら現在までうまくいくことはなかっただろう

 封印の解かれたイレギュラーによって一瞬でウルは壊滅させられていたに違いない

 だがうまくいった。そのため短い時間でイレギュラーへの対抗策までも見つけ出した

 これでもう怖いものはない

 こうして今より四年前、リディエラが生まれたのと時を同じくしてウルは大きく動き始めた

 様々な世界でたくさんの能力者を攫い、洗脳し、脅迫し、それらを傘下に加えた

 今や幹部軍を含め数億人もの強力な能力者を従わせたアウルは、ウルの総統として自らは手を下さずその目的を果たそうとしていた

 その目的、大いなる悪を執行するためのプロセス

 全ての世界の破壊と神々の抹殺だった

 アウルは強い、でなければここまでの大きな組織になることはなかった

 たった一つ見逃されてしまった悪心をその身に宿した概念生命体

 それは今や取り返しのつかないほどに膨れ上がり、世界の悪性腫瘍として立ちはだかっているのだった

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