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黒の国25-9

 百階層

 大きな洞窟のような場所。アルマちゃんがいた場所と似た空間みたいだ

「ここまで到達する方がいらっしゃるなんて思いもよりませんでした。この塔を黒族の方々が作られて数百年。本来ここは黒族の皆さんが自己を高める場として使用されてきました。その間塔を守るガーディアンは常に変わり、私たちもそんなガーディアンの一人としてスカウトされました。彼らが隠れ住む必要がなくなって数週間、娯楽施設となったこの塔をまもるのが私の仕事となり、与えられた仕事をこなすために自己研鑽を怠りませんでした。私はイア。天使イアです」

 そこにいたのは、真っ白な翼に白い衣、長い白い髪に白い肌、すべてが純白に包まれた彫像のように美しい女性だった

「さぁ、私の初仕事です。ここが正に最後の砦となります」

 なんてことだ。天使!? 上位の神様に仕えるというあの?

 母さんの話だとその実力は上位の神様にも匹敵するらしい

 その力は感じるだけでも今までの人達と比べ物にならない

「リディエラ様、あの方は、上位の神、天の神様であるラシュア様に仕えている方です・・・。シルフェイン様の兄神様がラシュア様なのです」

 テュネも驚いているみたい

 何でも昔ラシュア様が降臨された際に一緒にいたんだとか

 彼女は元々異世界の魔人だったんだけど、その世界で自らを犠牲に世界を救った

 その後に前階層にいた八人の女神様に救われ、さらに別の世界を詩季さん、シェイナさんと共に救ったんだとか

 その時神力を得て魔人の殻を破り、天使へと至ったらしい。今では元の世界でアルマちゃんと共に暮らしながらも、時折ラシュア様に頼まれた仕事をしているらしい

「来ないのですか? なれば・・・。天上蓮華てんじょうれんげ!」

 ふわりと優雅に間合いを詰め、翼による一閃。単純に速すぎて見えない

 感で前に結界を張ると、それをあっさり打ち砕いて翼による打撃を受けた

 全員が吹き飛ばされて壁に打ち付けられ、前にいたテュネとエンシュが赤くなっている

「サークルヒール」

 全員を回復させる。それを待つかのようにイアさんはこちらを見つめていた

「回復、終わりましたか?」

 あ、待っててくれたんですね

白縛はくばく

 え!? 白い衣が、伸びた!? 

 イアさんの衣服が生きているかのように動き、アスラムを縛り上げる

 ちょ、イアさんかなり際どい

 そんなこと考えてる暇もなくアスラムは締め上げられてダメージを受け続けている

 早く助けなきゃ!

「迅雷脚!」

 伸びあがっている白い衣の一部をエンジュが蹴り込む

 前階層で手に入った武器で強化はされている。でもそれだけじゃアスラムの拘束は解けなかった

 追加で蹴り続けるけど白い衣は固すぎてまるで効いていない

「くっ、どうすれば・・・」

「あ、アスラムが!」

 とうとうミョルニルレプカを使う間もなく戦闘不能になってしまった。これはなかなかに厄介だ。もし捕まればほぼ間違いなく抜け出せない

「天塵爪!」

 今度は衣を爪のように尖らせて切り裂く

 初めのうちこそそこそこ避けれていたけど、段々とイアさんは僕らの動きを読んで予測した位置に爪をつきだしたり、切り裂きに来る

 もはや僕らはズタボロだった

「その程度ですか?」

 ぐぬぬ、攻撃さえ当てることができれば僕らだって・・・。でもイアさんはフワフワとこちらの攻撃を躱し、それに合わせてカウンターまでいれてくる始末。攻撃が全く通らないことにイライラだけが募っていった

「重ねのアニマート!」

 テュネがフーレンの強化をする。前階で手に入れた竪琴のおかげで今までできなかった、一度魔法を唱えれば数回唱えたのと同じ効果になる強化だ

「ハーレメテオ!」

 ただでさえ数の多いメテオ系の魔法。これも杖の性能のおかげで使えるようになった魔法。強化されたことによって無数の星が降り注いだ

「星落としですか」

 イアさんは全く慌てた様子もなく衣をメテオに向け、喰いつくした

「え!?」

 メテオをすべて、衣が・・・。まるでブラックホールのようにすいつくしてしまった

 何が起きたのか分からないけど、イアさんは満足そうな笑みを浮かべている

「なかなか高純度な魔力ですね」

 これはいかんですよ・・・。どうしようもない気がする

氷炎脚ひょうえんきゃく! 土雷脚どらいきゃく!」

 アキレウスレプカによって右足に氷結と火炎、左足に岩土と電雷を纏い、壮絶な蹴りによる猛撃が始まる

 段々とエンシュとイアさんが宙に浮き始めた

 蹴りの威力で空中に浮かんでいるみたいだ。どうなってるのそれ?

 恐らく数千回にも及ぶであろう蹴りによってイアさんの衣にひびが入り始めた

「この衣に、ひびを!?」

 驚いて油断してる

「九尾式神剣術秘奥義、九十九つくも突き!」

 今度はアメノムラクモレプカによる猛攻。油断していたイアさんは衣で受けきれずに少しダメージを受けてしまった

 その際衣の一部が欠けたみたい

白削しらそぎ!」

 高速で回転し始める衣、イアさんはほとんど裸だ

 それがこちらの命ごと削り取るかのように衣で襲い掛かってくる

 クノエちゃんの連突きもその攻撃に対抗できず、まともに受けたクノエちゃんは戦闘不能となった

 でも、最後まで噛みついてくれたおかげで衣がまた欠けた

「フィフスプロ―ジョン!」

 詠唱をしていたフーレンがケーリュケイオンレプカの力で五つのエレメントを備えた爆裂を撃ち込み、衣が大きく欠ける

「私の白衣しらころもが!」

 どうやら今ので衣の機能が停止したようだ

 慌てて溢れ出た胸を隠すイアさん。衣を結びなおすと格闘の構えをとった

「まさかここまでやるとは思いませんでした。ではほんの少しだけ本気を出させていただきます」

 体に魔力、神力、気を巡らせているらしく、周囲が震えている

「神式天格闘術。無卦むけい

 構えから足を地面に踏み込む。 ンとものすごい音がしてテュネが天井へ叩きつけられて戦闘不能となった

 気が付くとテュネのいた場所にいつの間にかイアさんが立っていた

「瞬身神速脚!」

 神速の脚撃だったけど、イアさんのカウンターでエンシュも戦闘不能

 そのすぐ後にフーレンも壁に叩きつけられて戦闘不能となった

「あとはお二人だけですね。アルマほど小さな子に攻撃するのは気が引けますが、これもお仕事なので許してくださいね」

 直後に衝撃。ギリギリ結界を張れたけどクノエちゃんにまともにヒットしてしまい、あえなく戦闘不能。残るは僕一人

「あなただけになりましたよ? ヒーラーであるあなただけでは私には勝てません。できればリタイアしていただきたいのですが・・・」

 僕は首を横に振った。まだ策はあるからね

「そうですか、では」

 アイギスの盾レプカを構えながら僕が取り出したのは詩季さんにもらった銃だ

 今までこの銃の本当の力を引き出せてなかった。それはこの輝きを見ていればわかる

 銃のグリップを変形させ、オーラを刃に変えて構えた

「その銃、詩季ちゃんと同じ!? まさか、貴方もESPを?」

 超能力を完全に使いこなしているわけじゃない。この銃は僕の中にあるその力を引き出してくれるいわばデバイスだ

「オーラブレード、レッド」

 赤いオーラ。超攻撃特化だと本能的に分かる

 イアさんの拳はボロボロになった衣で固められている

「まさかヒーラー自身が戦うとは思いもしませんでしたよ」

 オーラブレードはあれほど固かったイアさんの衣は簡単に削れている

 それに対してイアさんの攻撃はアイギスの盾レプカが自動で防いでくれている

 だんだんとこちらの盾にもひびが入ってきていたけれど、こちらの攻撃がまともにヒットし始め、体力を削っていった

「まずいですね。もう、打てる手がありません・・・。私の負け、ですね」

 戦闘不能になる前にイアさんはギブアップ宣言をした

 それにより、僕らは初の塔走破者となったんだ

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