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ショートショート置き場

クリスマス

作者: 嘉多野光

 十二月の中頃になった頃、学校では毎日のように熱い議論が行われていた。議題は、サンタさんが実在するか否か、プレゼントには何を頼むかということである。

 私は、二年生とき、サンタさんからの返事だという手紙が百円ショップのインクジェットのはがきだったのに気付いてから、完全にサンタさんのことを信じなくなってしまった。しかし、小学校の高学年になってもサンタさんは存在すると信じている人は意外と少なくなかった。

 プレゼントについては、どのプレゼントを頼むのかについて話しているというより、正確にはどの流行りのゲームソフトをもらうかを話しているという具合だった。男子は格闘系やRPG、女子はハ●太郎が多かった。

 クリスマスから間を開けずにやってくるお年玉でもらえる想定金額や、いつ頃お年玉を入手できるのか、もしかしたらおばあちゃんに買ってもらえるかもしれないといった先々のことを見越した上で、お年玉では手を出せない高額なものや限定品といった貴重なものをサンタさんに頼むのだ。裕福な家はハードをもらえるが、私の家はそこまで裕福ではなかった。

 少し離れた場所で、みんなの議論をくだらないなあと思いつつ聞き流しながら、同じく議論に参加していない恵麻に話を振った。

「恵麻はサンタさんに何頼むの?」

「ああ」恵麻は私の方を向いた後、苦笑いをした。「私のところ、サンタさん来ないんだ。クリスマスは祝わないから」

「え? あ、ああ……」

 あまり聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれないと思った。

 私の学校はどこにでもある公立の小学校だが、立地上、外国にルーツを持つ人が少なくない。ほとんどは日本語ネイティブで意思疎通で困ることはないので、相手のルーツを気にすることはない。特に外国にルーツがあるからといっていじめが起きているわけでもない。

 しかし、たまに文化の違いを感じることはある。例えば家を訪問したときに見る家具や食料品。そして、親の宗教によってクリスマスを祝わない家庭もある。その一人が恵麻だったということだ。

 恵麻は、名前こそ漢字だが、見た目は肌が周りよりも黒くて掘りも深い。お母さんがフィリピン人だからだ。

 恵麻は元々明るい子だから、普段ならああいった話題の中心にいる。それなのにあえてその輪に入らずに静かにしていたということは、それなりの理由があるはずなのだ。なぜ私はそれに気付けなかったのだろう。

「ごめんね、気にしないで」

 私がどう返せば良いのか分からずオロオロしていると、恵麻は私に怒るどころか気を遣ってくれた。恵麻は明るいだけじゃなくて、明るくて優しい子だった。私は何も考えずに軽々しく聞いてしまったことを申し訳なく思った。


 クリスマスの朝、学校ではみんなサンタさんから何をもらったのかという自慢話ばかりしていた。私は子ども向けRPGのゲームソフトを親からもらった。しかし、私の神経は朝からゲームには向いてなかった。ゲームをするのは、任務を遂行して家に無事帰れた後の話だ。

 私は、話に加わらず自席で静かに本を読んでいる恵麻の所に近付いて行って、小さい紙袋を差し出した。

「恵麻、これ、私からのクリスマスプレゼント」

 結局散々悩んだ挙げ句、私は恵麻に文房具を買うことにしたのだ。

 宗教上の理由だから、あまりプレゼントをあげるのは良くないかもしれない。それでも、みんながプレゼントをもらって当たり前という空間に何ももらえない人がいるというのは、何だかいたたまれなかった。とはいえみんながもらっているような高価なものは私には用意できないのだけど。まあ、プレゼントは文房具だから、最悪受け取りを拒否されたら自分で使えば良い。

 恵麻は一瞬驚いた顔をしたが、その後「ありがとう」と笑って受け取ってくれた。どうやら本心から喜んでくれているようだった。これで私は恵麻のサンタさんになれたかもしれないと思うと、こっちまで温かい気分になれた。

 今までで一番気分の良いクリスマスだ。

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