竜の祠
話は森を発つ少し前に遡る。
倒してしまったレッサー達のカードと、鋼の聖剣のカードを拾っている途中、今いる山道の少し奥、確か真っ黒なドラゴルドがいたあたりに人の手が加わっているであろう石の何かが倒壊していた。
「なんだこれ?」
幸いにもそれぞれのパーツはしっかりと残っていたので頭の中で組み立てる。
…祠か?古いものだけど、元々壊れていたものではない。
ドラゴルドの体が当たったのか
竜を模った小さな像もあり、ドラゴルド達とに似ている気もする。
青いドラゴンのシアンに聞いてみよ。
「シアン、この壊れてるやつって…大事な祠?」
「なんジャン?…大地のホコリがなん…
…祠…?
ぁ…ぁ…ぁ…ぁぁぁぁああああーーーーー!!!」
「なんだ!?」「どった!?」
「なんじゃモン!?」「何事でありまスル!?」「ン…?」
シアンの断末魔に全員が振り向き、駆け寄ってくる。
「ほ…ほこ…祠が…」
「「ギャアぁぁぁぁああああーーーーー!!!」」
「ハァっ!!!?」
やっぱり彼らにとって重要なものなのか。
鑑定スキルで石の塊を解析してみよ。
『祠の欠片
元は祠の形をしていた。』
そんなものもう分かってるんだって!なんの祠かを知りたいの!
ならもう一度、祠型に組み立てたイメージと合わせて鑑定スキルを使えるか?
『祠型アーティファクト
異空間に出入りするための出入り口を形成するためのマジックアイテム。
現在は倒壊状態にあるため全ての機能が使用不可能。』
「それほど重要な物なのですか?」
「この祠がないと里に帰れないんじゃモン」
「里?」
「800年前、ドラゴン族は人間の争いに巻き込まれて人間と共生ができなくなり、生活スペースも足りなくなってしまったのでありまスル。
"大賢者フレア"サマが異空間にドラゴン族の村とコチラに繋がる出入り口を作られたのでありまスル。
この祠は3つあった出入り口のうち、唯一動かせていた出入り口なのでありまスル。」
「つまり…ど〜いうことだぁ〜?」
「この祠が壊れてしまってはもう…我らは里に帰れないんじゃモン。」
「直せないのか」
「不可能ジャモン。
唯一作ることができた大賢者は全てのドラゴン族を敵に回したとて勝ってのける男。かつて、その戦力欲しさに何度も国同士で取り合いが起きたんじゃモン。
それが原因で塞ぎ込むようになり、身寄りも古い記憶のない大賢者は、独り身のまま残りの生涯をドラゴン族の里で過ごしてしまったじゃモン。
今となっては里にはその技術も知識も"ほとんど"残っていないんじゃモン。」
「確か…古い書物に弟子のドラゴンがいたと記載されていたような…。
いらっしゃらないのですか?」
「確かにいるんじゃモン。ライドラゴとレフドラゴ。
我がまだ幼い頃じゃモン、大賢者が卵から孵し、大賢者の弟のように育った者達じゃモン」
「ならその方達に聞けば!」
「…それも無理じゃモン。
大賢者の死後、ヤツらは意志を継ぐと言うて里を出て行ってしまったんじゃモン…
故に、手の打ちようが無いんじゃもん。」
「そんな…」
何か引っかかる。
このアーティファクト、"本当に"直らないのか?
大賢者も人間、若い時に作って普通に老衰なら平均寿命から考えても造ってから50から60年くらいとして、そこから700年以上経っているとなると経年劣化や外的要因のどちらかで必ず壊れる。
当然いつかは死ぬことは分かっているだろうから、後世を任せられる弟子がいるならその直し方を伝え遺してはいるはず。
その弟子が出ていった理由が喧嘩別れではないとなればなんらかのヒントは残してあると思う。
となると…
「ドラゴルド、大賢者とは話したことは?」
「大賢者とじゃモンか?
…2度か3度あるかないかじゃモンが、幼き我では何を言っておるかさっぱり分からんかったじゃモン。」
「弟子のドラゴンとは?」
「アヤツらとは毎日のように話しておったじゃモン。大賢者の文句とかよう聞かされたものじゃモン」
「文句?どんなことを言ってた?」
「確か…
丁寧に教えてくれるが、例え話やらことわざの意味がさ〜っぱり分からんから、それのせいで難しいモンが余計に難しいとかよう言うておったじゃもん。
『満開みたいな展開』『網目みたいに毎回うまくはいかない』『ドーガーテービーでしか見たことない』とか言うとったじゃモンな。」
「????????」
満開?網目?ドーガーテービー?
そんな多用するフレーズじゃないのに、大賢者は何をどう考えて教えてたんだ?
っていうかドーガーテービーって何!?
「他にも『丸の下が力持ち』とかも要いうておったじゃモンし、『50歩と100歩の逃げ』『木の実の背を比べるようなもの』『3人よれば真珠』がどうとか、『急ぎたければむしろ回れ』『砂つぶも積もればやがて山』とかもよう言うておったじゃモンな」
ん?今度はどことなく聞いたことがあるような…どこだったっけなぁ
「…………」
「なにか分かるじゃモン?」
「………」
「オーーイっ」
「………」
「なぁ〜んか分かったんならよ〜、勿体ぶってねえで教えてくれよぉ〜、こ〜のザックおにぃちゃんが力になるぜぇ〜」
「酒臭っ…
そ、そうですね…じゃあ質問してもいいですか?」
「おうっ」
「今ドラゴルドが言っていた例え話かことわざって王国で使われているものですか?」
「カ〜ムロぉ、パ〜スっ!」
「でしょうね…」
「まったく情けない…」
「ヴィクトリア王国にそういったことわざはないですね。あるとしたら大賢者は他の国の出身の可能性が高いですよ」
使い方のおかしなフレーズ、異国のことわざ、近い何かは聞き覚えがある…
異国のことわざ、使い方のおかしなフレーズ、近い何かは聞き覚えがある…
「そういうことか…!」
『丸の下が力持ち』
丸=○、○=円、『円』を『縁』に直せば
『縁の下の力持ち』
この原理を他のにあてはめれば
『50歩と100歩の逃げ』は『五十歩百歩』
『木の実の大きさを比べるようなもの』は『ドングリの背比べ』
『3人よれば真珠…〜』は『3によれば文殊の知恵』
『急ぎたければむしろ回れ』は『急がば回れ』
『砂つぶも積もればやがて山』は『塵も積もれば山となる』
こういうこと。
要するにドラゴルドと弟子達の間で咀嚼の違いが起きていたわけだ。
ということは
『満開みたいな展開』
『網目みたいに毎回うまくはいかない』
『ドーガーテービーでしか見たことない』
も、伝言ゲームが間違えているはずだから…
満開…網目…ドーガーテービー…
まんかい…あみめ…どーがー…てーびー
まんか…あみめ…どーが…てーび…
あっ マンガとアニメと動画とテレビ…!
大賢者さん…日本人ですやん
「ど〜うしたぁ相棒ぉ〜
じゅ〜〜〜大なこと分かったけど言うべきかわっかんねえみてぇ〜な顔してよぉ〜」
うざ〜いっ
酒飲んでるのにちゃんと鋭いのなんかうざ〜い。
ベロベロなのに、会話がギリギリ聞き取れるかどうかなのに、こういう勘が冴えまくっているあたり絶妙にうざ〜いっ
「もうお前も馬車で寝てろ。」
「や〜だ!こっからおもしろ〜くなんのっ
だぁいち、オォレらのだ〜い活躍で生き残ってんのによぉ〜、扱い雑すぎねぇかよ?おぉ?」
「分かった分かった。帰ったら好きなだけ飯奢ってやるから今はあっちでおねんねしてようなー」
「えぇ〜?メシだけかぁ?」
「酒も飲み放題、樽ごとも可だ」
「わぁ〜いっ
はやくかえろ〜ぜ〜」
「まずは馬車に乗ろうなー」
「ウィ〜〜」
助かったぁ
「して戦友、何か分かったじゃモン?」
「まぁ、大賢者は自分と同郷ということだけだ。
祠を直す手がかりとは違うから今はどうでもいいけど。」
「「「「「え!?」」」」」
「おそらくことわざしか手がかりがないとなると…」
縁の下力持ちだから…
「ちょっと待ってください!」
「はい?」
「同郷って…あなたが大賢者フレアと同郷というのですか!?」
「記憶と身寄りがあってないようなものなのは自分も同じようなものですし、この国に浸透していないことわざに馴染みがあります。
とはいっても、国が一緒なだけで自分と大賢者は特に関係はないですけど。」
「関係なくないです!これまで何百人もの学者が大賢者の歴史を辿っても15歳までどこで過ごしたのか判明してこなかったのですから!同郷の人がいるのであればそれはもう歴史的発見です!」
急に何っ!?めっちゃ喋り出したんですけどこの人!?
歴史マニアの方か?この手のタイプは話し出したら長いので…
「それはそうかもしれませんけど…歴史的発見がどうとか学者の人数とかはこの祠直すのに役に立ちますか?」
「それは…今は…役に立たない…かも?」
「話を進めても…いいですか」
「お願いします」
「とりあえず大賢者は自分と同郷かどうかはどうでもいいとして、今必要なのは祠が直るのかどうかです。
ドラゴルドの言っていた例え話とことわざの意味はわかりました。
『丸の下が力持ち』っていうのは『縁の下の力持ち』の間違いで、他人には視えないところですごく役に立っている人とかいう意味です。
縁の下っていうのは床下のようなところで「見えないところ」って意味であって、円形や丸い物を言っているわけではありません。
この祠の設計にことわざをヒントとして組み込むと…この倒れた祠の台座裏の方に。
どっこいッしょ!!」
あった。台座の裏に20×20のマス目、その全てに計400文字全部漢字で埋め尽くされている。
上からドラゴルド、隣に王女様が覗き込んでくる
「これは一体?
古代文字でしょうか?」
「えっ?漢字ですけど
あっ、この文字って王国では…」
「誰ひとりとして使ってないです」
うっそーーん…
日本語対応ないの?…ってことは自分こっちの字読めない可能性出てきたぞ
「ドラゴルド、里でこの文字って」
「んー?おぉ、時々見かけたじゃモン。左下のコレがメシで、その隣はニクという漢字なのは分かるじゃモン。」
「食べるものばっかり…」
「ケーさんはこの文字が全て読めるんですね?」
「全部じゃないですけど、大体は」
「なんと書いてあるんですか?」
「読むって言っても文字がバラバラに置いてあるだけなので文章にはなりません。」
「ではこの文字は何のために…」
『縁の下の力持ち』なら…力…
……あれ?縁と持がない
ということは、力と下の同時押しか?
せーのっ ポチッとな
………
カチャッ
チカラの方がカチャッて言った!?
言ったよね!?
一枚の石でできているはずの台座の側面にまっすぐ分割線が入る。
この台座開けれるの!?
「「開いた」じゃモン…」
スーツケースのように開けたその中には、手のひらより少し大きな懐中時計と、大きめの六角穴用のドライバー、手紙が1枚。
[この手紙が読まれているということは竜の祠に何かが起きたということだろう。
ここに修復に必要なマジックアイテムの部品を残す。ドラゴン達に他に2つある祠の位置を聞き、その中にも入れてある部品と合わせればマジックアイテムは使えるようになる。
次の祠のヒントは仏の顔も3度まで だ
なお、部品は竜の祠を支える重要な部品でもあり、その他の事に使えばこちら側と里側の時空が捻じ曲がり、最悪の場合消滅する恐れがあるため、速やかに元の部品の状態で正しく祠の台座に戻すこと
大賢者 不知火
またの名を如月知也]
「ですって」
「であれば行くじゃモン。」
「お供します。
私達にもできることがあるもしれません」
「いや、王女様がとどまるのはまずいんじゃ…」
「あっ…」
「お主は今、命を狙われておるんじゃモン。
先に帰り着いたお主の部下たちも、お主のお父上も心配しておるじゃモン。
ここは一刻でも早く皆に無事を知らせる方が優先じゃモン。」
シュン…
「そんな…」
「王女様には居るべき場所があり、自分にはない。
王女様には王都でできることがあり、自分にはない。
逆に、自分にはここでできることがあり、王女様にはない。
王都にいる騎士団や周りの人たちは皆さんを信じてくれるでしょうが、その人達は何処の馬の骨とも知れない民間人、いや不審者を信じてくれる訳がないです。
自分は皆さんを信用します。ですが現時点であなた方以外の不特定多数を信用する事は出来ません。
これは事実なので仕方のないことです。
自分はここに残って祠の完全復旧と里の無事を確認するとこまでします。王女様は…分かってますね?」
「王国に無事を伝え、不要な戦を食い止めてみせます。」
「お願いします。
こっちが落ち着いたらカード越しで連絡します。」
「そうだっ!」
突然何かを取り出すべく懐であろうところをガサゴソやっている。
なんか怖いんですけど…
「コレを」
「身分証…ですか?」
身分証をチラッと見せてもらう。
話には出ていたから予想はできたが、本当に日本語で書いていない。なのになぜだか読める。
こっちの文字はカタカナになら置き換えれるみたいだ。
「これは私の落とし物です。必ず届けにきてくださいますね。」
「分かりました。必ず届けます。」
「ご武運を」
飛び立って行く彼女達を遠目に見送るその手には大事な落とし物と4人のカード。
彼らの世界に自分が加わってしまったことに期待より不安の方を大きく感じてしまった。
「本当によかったのじゃモン?
1人では心細いことも多いじゃモンよ」
「大丈夫。話し相手が3人いるし、祠巡りは陽が沈むまでには終わらせる。
今日のところは里に泊めてもらおうと思って。」
「都には向かわないんじゃモン?」
「いずれ向かうけど、明日はやめとく。
人間ってどこの世界でも、問題の後っていろいろごちゃごちゃするんだよ。
とりあえずカード拾って次行こうか」
「『良き事は急げ』じゃモンな!」
「『善は急げ』ね」
想定していたよりマジックアイテムを集めるのは難航し、復旧が終わる頃には祠とその周辺には月明かりが差し込んでいた。