幼少期 第四話
書斎の整理には結局三日かかった。
どれだけ、父がエロ本を貯蔵していたのかが伺える日数だ。
まぁ、そもそも父親が隠しているエロ本を見つけた日の子供の心境なんて計り知れないものがあるし、発見された父親の気持ちも察するにあまりあるのであえてエロ本を隠したどうかなんて確認をするという無粋な事はしない。
読んでみたい気持ちもあるが、そもそもがまだエロ本を隠したと確定したわけじゃないし、本来の目的と違ってしまう。
俺の目的は魔法の発動条件を知る事だ。
書斎の位置は家の中なのですぐにわかる。
「これで…魔法の発動条件がわかるといいんだけど…」
扉の前でボソッと呟く。
もしかしたら自分の世界観に酔ってるのかもしれないななんて自分の独り言を聞きながら思う。
前世の俺だったら無言でムンズリとドアノブを掴み勢いよく開けていた事だろうから。
期待感に胸をドキドキさせながらそーっとドアノブに手をかけ、慎重に慎重にドアを開けていく。
ドアがガチャリと空くとわずかな隙間から町の図書館を思い出させる匂いがする。
悪くない匂いだ。
俺は勉強の為に図書館に籠って、そこで偶然幼馴染に再開してキャッキャッウフフみたいな展開を期待した時代もあったが、そもそもめんどくさすぎて図書館で勉強をした事がない。
そして俺は童貞のまま死んだ。くそが。
俺の中での世界の不条理に悪態をつきつつ、しげしげと書斎に足を踏み入れる。
部屋の広さ的には18畳ほどだろうか。本棚に囲われているので広さが実感しにくい。
本棚には隙間なく本が並んでいる。整理したのは本当に本棚を整理しただけなのだろうか。
もしくは詰み本してあったのかもしれない。
詰みゲーはしていた記憶が最近まである。
仕事がブラック企業故に大変多忙であり、一本のゲームクリアに一年かかる事なんてざらだった。
しかし、気になるゲームはガンガン出てくる。買う、やらない、買う、やらないを繰り返しているうちにゲームの山積みが出来ている。
買わなければいいじゃんという声もあるがだって欲しいんだもん。それぐらいしか物欲がなかったし。
ズラっと綺麗に整頓されている本を眺めていると文字が読めることに気が付く。
過去の自分の記憶を探っても特に文字を勉強した記憶は浮かんでこない。
「これが噂に聞く、ご都合主義ってやつかな」
またもや独り言である。転生してからやたらめったら独り言を言うようになった。
自分が言った言葉を確かめる意味でもいいのかもしれないが傍からみたら暗い奴。
しかも内容が若干格好をつけている。いいじゃない、前世でそんなかっこいいセリフ言うチャンスもなかったんだから。
本棚の背は高く、上の方の本のタイトルを見るには踏み台が必要そうだ。
しかし、この部屋には踏み台になるようなものはない。
誰かに手配してもらうのも面倒だし目線の届く範囲で目を通していく。
その本棚の中に気になるタイトルを見つける。
【魔法導入 ~初心者もこれで安心~】
早速手にとり表紙を見ると
【大魔法使いの道も一歩から!100%これで魔法が発動する!】
よくある問題テキスト系の売り文句にありそうなことが書いてあった。
世界は違えど人間考えることはどこでも大体同じなんだなと若干むなしい気分になった。
羊の革で作られた表紙を開けてみる。
導入編という事は魔法の発動条件もきっと乗っているはず。
そんな期待を込めながら書かれている今は読める知らない文字を読み込んでいく。
▼ ▼ ▼
三時間ほどたっただろうか。
結論を言えば載っていた。魔法の発動条件が。
魔法を発動させる為に必要なものは要約すると
『イマジネーションだよ』
やめろ、裏声でイマジネーションだよって言うのやめろ。
そう、想像力であると。魔力を魔法に変換する為には想像することが最も大事。
発動後、どんな魔法が放たれるのか、どんな機動で、どんな効果があるかを想像する。
そして摂理を理解する必要を無くすために詠唱が存在する。
詠唱とは一種のプログラム言語の様なもので唱えるだけで発動を可能にするというもの。
摂理を詠唱によって代替えしている為、無詠唱にする為には摂理を理解する必要がある。
例えば物が激しく燃える際に必要なものは酸素だ。
酸素が無ければ物は燃えない。密室空間での家事は屋内の酸素が火災によってなくなった場合、火は一旦鎮火する。
ただ、そこになにかしらの外的要因で酸素が流れ込むと爆発的な火災が起こる。バックドラフト現象とか言ったかな。
とにかくその辺の摂理を理解していると無詠唱が可能だそうだ。ちなみに俺は今一理解しきれていない。
物理とか化学とか実験以外は真面目にやった記憶もないし。
そうなると俺はイマジネーション…いや、もう想像力って言った方がいいな。
想像力オンリーで魔法が発動できるという事になる。
「実験の価値…ありだな…」
前に手を突き出し、ありったけの想像を行う。
瞬間的に部屋に移動を出来るトンネルをイメージする。
………発動しない。
あ、肝心な事を忘れていた。最後のきっかけが必要なんだった。
要するにアレである。アニメとかで必殺技で叫ぶ奴。
アニメは正しかったんだ。きっかけが必要なのだと痛感した。
気を取り直し、再度手を前に突き出す。
想像は問題ないだろう。あとは切っ掛けの言葉を言うだけだ。
「ゲート!!!」
ヴィンっという謎の音と共に楕円形の空間の裂け目が部屋の中央に出現した。
喉がゴクリとなる。まずは片手を一本入れてみる。ふむ…無事か…ふむふむ?
なにやら手の平に柔らから肌触り。これは布団か…?握ってみよう。確信犯だけど。
いや、だってさ。生まれて初めての感覚なんだもん。いや、たぶんアレだよ。物心つく前はきっと頻繁に触ってただろうから覚えている限り初めての感覚と言った方が正しいか。
そんなどうでもいい事を考えながらモミモミしようとしたその瞬間、爆裂な力で空間の裂け目に引きずりこまれた。
「……あ、ユーリ。元気?ははは」
ユーリさん、お顔がコワイデス。ナンデカナー…ハハハハ…
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