クレールの性格と勇者君の迷い
今夜24時にクレールに会えると思うと少し喜んだが、その間は結構暇だ。
昼過ぎにこの国に来て晩飯まで数時間後なのだから遊ぶほどの時間はない。
そうなるとこの部屋にある地図を見ながらどこのレジャー施設に行くかなど、計画を立てるしかない。
「そんじゃ明日っからどこで遊ぶかみんなで決めるぞ。とりあえず遊園地っぽい所は必ず行くとして……」
「あ、あの。その前に良いですか?」
「お。若葉が積極的とは珍しいな。どこ行きたい?」
「そうじゃなくてその……今夜会うクレールさんってどんな方ですか?」
若葉がそんな事を聞いた。
そういや俺達は当然知ってるけど、若葉は知らなくて当然か。
そして他の所からも声が上がる。
「私もクレール様とはどのような方なのか知っておきたいです」
「ライトさんは本当にうちに馴染んでるな。お仕事大丈夫?」
「大丈夫です。先程タイタン様に聞いたところ、明日の10時に視察をした後は自由に行動できますので、できればみな様と一緒に行動出来ればと思いましたので」
「一緒に行動するのは良いけど、護衛の人達とか大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。彼らもほとんど休暇のような物ですから。護衛には護衛なりの楽しみ方がありますし、私と行動を共にしては休む事は出来ないでしょう。そういった事も含めてご同行させていただきたいのです」
「そういう事なら良いよ。ブランも喜ぶ」
今日は珍しく俺の膝の上ではなくライトさんの膝の上に座るブラン。
ライトさんとブランの2人を見ているとまるで親子だ。長年一緒にいたという空気がそう思わせるのだろう。
「……なぁブランってお母さんが欲しいって思った事あるか」
つい俺がそんな事を聞いてしまうと、ブランはう~んと言いながら考える。
「ない……事もないよ。この世界に来てからママが居るのが普通って知ったし、羨ましいと思った事もあるよ。でも……ブランのママになってくれる人っているのかな?」
「それは探してみないと分からないな……」
ライトさんなら喜んでブランのママになってくれそうだが……その場合俺とライトさんが結婚するって事になるのか?
ついライトさんを見ると、何か非常に驚かれた表情をした。
多分だが俺の考えている事が表に出てしまったんだろう。ライトさんはあわあわしながら戸惑う。
とりあえずこの話は打ち切るのがいいだろう。
クレールの話に戻す。
「クレールはSSSランクの中で1番好奇心の強いモンスターだ。見た目は巨大なシャチでだいたい10メートルぐらい。空も泳げる。あれ?そう考えるとこの国の様子も納得か?」
「この国の在り方って事ですか?」
「ああ。クレールは女の子なんだが趣味はロボットアニメ観賞という男の子みたいな趣味してたんだよ。それに関連して車とか機械とかの資料もよく読んでたし、この科学文明も納得かもしれない。知識に関しては十分。でもクレール自身がモノづくりに強いという訳じゃないから、コボルト達が作ってる?でも巨大建築物となるとコボルト達だけじゃ……」
「と、とにかく。クレールさんがこの国を作った可能性は非常に高いという事なんですね」
「恐らく。ノワールはどう考える?」
俺がノワールに聞くと、少し考えた後に可能性の話をする。
「クレールが関与しているとなると、この大陸と言えるだけの土地を用意する事も可能かも知れない」
「用意ってまるでどっかから持ってきたような言い方だな」
「クレールの趣味を知っている父なら分かるだろう。クレールは大の機械好き、そしてアニメなどの影響で秘密基地だなんだと言っていただろう。それらを考えると、この大陸規模の大地も何か手を加えているかもしれない」
それ言われると弱いな……
でも空を泳ぐ事が出来ると言ってもクレールは水属性でシャチ型のモンスター。長時間水場から離れると皮膚が乾いて体調を崩してしまうという弱点がある。
それに見ていたアニメの秘密基地は基本的に人間が使う感じだからそのまんま使う事は出来ないだろうし……
「まぁこの大陸に関しては置いておいて、女の子だけど趣味はロボットアニメという多分珍しい部類だ。多分」
女でもエヴァン〇リオンとか普通に好きな事か居るだろうし、珍しい事もないのか?
あまり女はガン〇ムとかゾ〇ドとか興味ある感じしないけど。
そう説明したが若葉はまだ不安そうに聞く。
「えっと、その、性格とかはどうなんでしょうか?」
「性格は……かなり冷静だな。あとノワールより過激だよな」
「そう言えるな。家族を守るために手段を選ばないのはクレールだろう。家族を傷付ける物なら誰であろうと容赦なく殺す。そんな気迫を何度か感じた」
「あ~あの怒った時のクレールお姉ちゃんね。あれは本当に怖いよね。というか水属性のお姉ちゃんお兄ちゃん達って怖い所ちょいちょい出るし」
ブランの言葉にノワールとヴェルトが頷いた。
確かにこの間のナダレ達もキレるとかなりおっかないし、その点は水属性が多かった気がする。
怒らせたら1番ヤバい奴。クレールはいつの間にかその地位を築いていたらしい。
それを聞いた若葉は小さく震えながらビクビクする。
「……聞かない方が良かったかも……」
「まぁ若葉なら大丈夫だって。ブラン達の事を傷付けた事なんてないだろ」
「それは当然ですよ。ブランちゃん悪い子じゃないし」
「それでいいんだよ。お互い悪い関係じゃないんだから必ず伝わる。クレールは確かにキレると怖いだろうが、キレやすい訳じゃない。冷静に判断するから大丈夫だって」
「そうですよ若葉様。私だって最初ブラン様の御機嫌を損ねないか気にしながら接していましたが、今ではこの通りです」
ブランを膝の上に置くライトさんを見て、若葉は少しだけホッとした様に見える。
そして前向きな表情になり俺に向かって言う。
「すみませんドラクゥルさん。ちょっと怖がり過ぎてたかもしれません」
「別に謝らなくていいよ。自分より強い生き物に会うんだから怖いと思うのは当然だって。それに怖いなら無理して一緒に来る必要はないぞ?」
「いえ、ドラクゥルさんのご家族なんですから挨拶ぐらいはしておかないと」
「そうか。それじゃ今夜一緒に行くか」
「はい!」
「それまでは、明日からどこで遊ぶか決めておかないとな」
――
そして晩飯はレストランに集まり、いわゆるコース料理という奴で食事をする。
あまりこのように食べる事はないが、高級リゾートだからというのもあるんだろう。バイキングは朝のみだそうだ。昼はバイキング形式の店に行けば食えるらしい。
前菜から始まり、ぶっちゃけどれが飾りつけで、どれが食べていいのか分からないぐらい綺麗な料理が並べられる。
それからこちらの意向としてライトさんとヴラド一家と一緒に食べている。
「ふふふ。こうして教皇と共に食事をする日が来るとは、世の中分からない物ですね。ヴラド様」
「そうだなカーミラ。エリザベートはあまり緊張する事はない」
「はいお父様……」
エリザベートはまだライトさんの事が苦手らしい。
まぁついこの間までホワイトフェザーの属国と言える国と戦争していたのだから仕方がないだろう。
だがライトさんは全く気にせず、ブランの事ばかり気にしている。
「ハク様。そちらの野菜は食べられらますよ」
「う~。でもこの野菜苦くて苦手……」
「好き嫌いはよくありませんよ。ドラクゥル様は全てお食べになられているのですから、頑張ってください」
俺の場合は事前にノワールに食べれる物を聞いてるんだけどね。
ぶっちゃけ飾りに使ってる野菜とか食べていいのかよく分からない。ノワールに聞いたところ、全部食べても問題ないという事で残さず食べてる。
正直この世界の食べ物ってろくに食ってないんだよね……家では自家栽培した野菜とか肉とかあるし、グリーンシェルに居たって飯は自分ちで食べてたしな。あんましこの世界の食材食ってないかも。
まぁ若葉は平民が食べる野菜とかは全部不味いとか言ってたし、不味いもん食うよりはいいかも。
そんな感じで食べ終えて帰ろうとする前にちょっと絡まれた。
1人で少しトイレに立った時に例の男の子、勇者君にばったり会ったのである。
「……確か教皇様と一緒に居た人」
「ドラクゥルだ。勇者君」
「僕は正義だ!」
「勇者様は正義の味方ね」
「そうじゃなくて!僕の名前が正義なの!!」
「……マジ?正義とかじゃなくて?」
「お父さんが警察官で正義の味方だからこの名前になったってお母さんが言ってた」
「なるほど。納得」
俺は手を洗って戻ろうとした時、正義君は俺に自信がなさそうな声で聞く。
「ねぇ。僕って間違ってる?」
「どういう意味だ?」
立ち止まって首だけを正義君に向けると正義君はうつむいて言う。
「僕はこの世界に来て魔物って言う普通の人達にはどうしようもない存在に困ってるって王様から聞いた。そして僕には普通じゃない勇者の力があるんだ。だから僕は魔物を倒して世界を救おうと思ってる。この世界の神様が救えって言ったんだ。僕は間違ってないよね?」
意外と最近のざまぁ系みたいに我儘な勇者様じゃないみたいだ。
話は通じる様なので俺なりに正義君に伝わる様に考えて答える。
「確かに悪い魔物を倒すのは良い事だろうな。それは間違いない」
「だ、だよね!僕、悪い事してないよね!!」
「でもな、この世界はゲームじゃない。現実だ。ゲームに出てくる魔王みたいにある相手を倒したからってそれだけで世界を救った事になるのかどうか分からない」
「そう……なの?」
「そりゃそうだ。例えばどこかのいじめっ子を正義君が倒したとしても、そいつらが反省していじめをやめるとは限らない。別な誰かに目を付けて終わりかも知れない。正義君の前でイジメられていないだけで、本当はまだイジメられているかもしれない」
「……」
「そしていじめっ子たちは大抵はこういう。『遊んでただけだ。イジメてない』ってな。本人達がそれが悪い事だと分かってやっている事はまずない。王様と教皇様の口喧嘩もそうだ。王様の言う吸血鬼達の国が人間にとって悪というのは間違っていないが、教皇様はたとえ吸血鬼が造った国であっても世界には必要だと思ったから怒ったんだ。正義君は子供だから大人の判断に任せたいって気持ちも分かるけど、誰の言葉を信じて、誰の言葉を信じないかは自分で決めるしかない」
「……難しいね」
「難しいさ。俺みたいにおっさんになっても誰の言葉を信じればいいのか分からない。ま、今の俺には絶対に信用できる子達が居るからあまり悩まずに居られるけど」
そう言ってから立ち去ろうとすると、正義君はまだ話したりなかったようでまだ聞いてくる。
「おじさんは、どうやったら世界を救えると思う?」
「さぁな。そんな大規模過ぎる望みなんて考えたことがない。自分には出来ないと思ったら、逃げるが勝ちってな」
何の回答にもなってない言葉を聞いた正義君は茫然としていた。
俺は席に戻ってデザートを食べた後、部屋に戻ってクレールに会う準備を始めるのだった。




