紅白雪合戦。終了
純粋に旗を取って勝利を目指す方々に城を任せ、対立するのは今回の元凶、ナダレ達3組の夫婦である。
どちらも城攻めと城を守る役割を持つ人達を城に残し、敵大将を先に倒す作戦に出た。
まぁこれも王様と女王様の作戦だったのだが、お互いに不満を思いっ切りぶつけ合うには丁度いいだろう。ここでなら誰かを巻き込む事はないし、邪魔してくる事もない。
俺はじっと見守ると、ナダレ達が何かを言っているのに気が付いたが、遠くて何と言っているのか分からなかった。
そう思っているといきなり猛吹雪が周囲を襲った。
慌ててブランが結界を張り、一般の方には被害は出なかったが、これではどうなっているのか分からない。
「状況は」
『ルール無視の本気の喧嘩です。ナダレ様達は氷系の魔法で攻撃していますし、その旦那様である冬将軍達も腰にした刀を抜いてつららや氷魔法を切っています』
本来であれば止めに入るはずの天使はそう言った。
やっぱりSランク、雪の上ならSSランクと同等の力を発揮して当然だ。
俺はため息をつきながら言う。
「無理に突入しなくていい。どうせ決着は付けるだろうからその後で3組とも捕まえろ。今はスッキリするまで暴れさせとけ」
『了解』
ブランの結界の中で怒っている本気の夫婦喧嘩。
俺に出来る事は見守る事だけだが、出来れば仲直りして欲しいと思いながら、見守るのだった。
――
どのような喧嘩だったのかは分からないが、とりあえず今大会は引き分けとなった。
城に行った人達はリタイヤし、誰も旗を取る事が出来なかったからだ。
しかし参加した人たちは思いっきり体を動かしたせいか、満足した表情をしている。
その後閉会の言葉を俺が言い、祭りは終わった。
舞台から降りた後、本命であるナダレ達夫婦もすっきりした表情で現れ、どうなったのか聞く前に冬将軍達と一緒に頭を下げた。
「トト様。本日は私達のためにこのような催しを開いていただきありがとうございました。これでお互い通じ合う事が出来たと思います」
「そうか。それでどうする?」
どうするとは当然このままでいるか、別れるかという意味。
それに関しては冬将軍が言う。
「縁を戻させていただく事となりました。お義父様のおかげでございます」
「復縁できたからある意味俺達の勝ちだよな」
「し!今は黙ってるだよ」
右に居る冬将軍が左に居る冬将軍に言われて素直に従った。
そんな右側の冬将軍の妻であるミゾレが冬将軍の頬を引っ張った。痛そうにしているが、笑っている様にも見えるので元々そんなに仲は悪くなかったのではないかと思う。
「して、我々も出来ればあるかでぃあなるお義父様の地で過ごしたいと思っておりますが、よろしいでしょうか」
「構わないよ。ナダレの家族は俺の家族。遠慮する事はない」
「感謝いたします」
こうして一件落着している所に雪ん子達が冬将軍達の周りに集まってくる。
まさかと思うけど、その子達全員作ったの?3つの家族が集まってるとは言え結構大家族じゃない?
冬将軍達も久しぶりに娘と触れ合い、少し遠くで見ていた雪ゴリラ達は嬉しそうに泣いていた。
まさかその雪ゴリラ達もナダレ達が産んだわけじゃないよね?
でも雪ゴリラ達も家族として一緒に居るのだから当然アルカディアに連れていく。アルカディア産じゃない魔物も住めるよな?あの雪山なら。
そして今回の功労者をねぎらわないといけない。
「本日はありがとうございました。家で温まって行きます?」
「ぜ、ぜひ」
「お願いいたしますわ……」
あの吹雪の中に居た王様と女王様が震えながら言った。
どんな喧嘩をしていたのか聞いておいた方がいいし、また夫婦喧嘩をするようであれば場所を用意しないといけないし、それ以前に同じような事が起きないようにしないとダメか。
とりあえず凍える王族をアルカディアに連れて行った。当然レオも居る。
祭りの後片付けは既に行われており、天使達や吸血鬼達、獣人達が自分達がやるというので任せて少し先にアルカディアに帰った。
ナダレ達は生まれ育ったエレベストみたいな所に帰り、俺達はコタツで温まりながら王様の話を伺う。
「それでどんな喧嘩でした?」
「……決して人類が歯向かってはいけない存在であると、再認識した。あれは……文字通り天災だ」
「ですね。彼らの意思で自由に威力を変える吹雪、自然と起こる物ですら我々には非常に厳しい物でした。その中でぶつかる金属音。特殊な形をした剣と槍がぶつかり合い、そのたびに強烈な吹雪が起こって、あ、これ本当に死ぬなって何度も思いました」
その時の恐怖を思い出してか、小さく震える王様達。
うん。うちの子達が本気で喧嘩すればそう思うよね。慣れてる俺の方が普通じゃないんだと思う。
そんな2人に温かいお汁粉を振る舞うのがガブリエル。「大変でしたね」っと労いながら渡した。
「でもまぁとりあえずこれで解決ですね。雪は自然と溶けるでしょうし、氷の城も……溶けるよな?」
「いざとなったら壊す」
「まぁその方針でいいか」
こうして無事にナダレ達の離婚は免れたのである。
――
その後、天使達が録画していたというナダレ達の喧嘩映像を俺は見せてもらった。
その喧嘩風景は……圧巻としか言いようがない。
まずアラレ夫婦の場合は、アラレが超巨大なつららを連続で放って冬将軍を攻撃する。
それに対し冬将軍は腰の刀を抜き、超巨大つららを一刀両断。さらにそのつららの上を走り抜けて何か叫びながら突貫する。
アラレの近接戦闘は氷で出来た槍の様で、冬将軍と戦う時は舞うように戦っているので非常に美しい。
冬将軍との戦いは本気で殺し合っているというよりは剣舞を舞っている感じで、どことなくダンスで求愛する鳥のような印象を受けた。
そして戦いながら動きがぴったりと左右対称になって完全な動きをするようになると喧嘩をやめた。
喧嘩をやめたというよりはお互いの事を再確認したという感じで、最後はおじぎをして静かに終わる。
ミゾレ夫婦の場合はとにかく長距離戦法と言う感じだ。
ミゾレはアラレのように超巨大なつららではなく、つららと言うよりは銃弾を放っている様な感じだった。
そして冬将軍の手にある武器は銃、より正確に言うと火縄銃のような形をしている。
それにより見た目は完全に銃撃戦。撃ち合い、お互いの弾と弾がぶつかり合う展開が長く続いたが、銃弾の威力を高めるためか、銃弾1発ごとに吹雪を纏ったジャイロ回転が綺麗な線を描き続けた。
こちらも終わりは静かで、お互いに手と銃を下ろすだけで終わる。
最後にナダレ夫婦の場合だが……1番激しい。
薙刀と刀がぶつかり合い、離れたらお互いに超巨大つららを放つ。全力で殺し合っているという印象を受ける戦いだ。
さらに言えば2人の感情が高まってか、吹雪の勢いも増していく。
多分王様達はこれに巻き込まれて凍えていたんだろう。むしろ良く生き残ったと言いたいぐらい。
そして最後は疲れ切った様子で雪の上に落ちて、どこか清々しい表情をしながら終わったのである。
王様達が天災と言って怯えていた理由がよく分かる映像だった。
それでも俺は家族として、普通に一緒に生きるつもりである。




