雪女たちの主張
雪ん子達と一緒にどこかの夫婦の所に向かっていると、そこ魔は南門から出てしばらく歩いたところに氷の城が出来ていた。
氷の城と聞くと西洋風のシンデレラ城みたいなのを想像するかもしれないが、これ思いっ切り日本の城だよ。何故こんな形になったの?しゃちほこもあるし立派だけど特別大きくもない。
まぁテレビで聞くと城と言うのは堀とか城にたどり着くまでの道も含めているからと聞くし、天守閣のある城だけでは小さいと感じても仕方がないのかも知れない。
複数の雪ん子達に手を引っ張られ、城に向かうがその警部は決して手薄と言う訳でもない。
一体どこから来たのか、水系の陸上モンスターたちが大量に居た。
主に寒い地域に住んでいる狼系モンスターの最上位種、フェンリルまでもがこの場に居た。
フェンリルはスノーウルフと言われる狼系モンスターの最上位種でSSランク。寿命はなく、氷系の魔法だけではなく鋭い爪と牙で相手を一撃で仕留める鋭さが持ち前のモンスター。
他にもマンモスのような姿をしたSSランクモンスター、ベルゲルミル・ウォール。
こいつは攻撃系の魔法は使えないが、その代わり自身の毛皮を鋼鉄よりも硬い状態にし、防御力が非常に高い。
彼らが通る場所は常に吹雪が起こり、居心地の良い空間作りと敵から身を隠す能力を持つ。
強大なウシ型のAランクモンスター、フローズン・バイソン。
彼らは純粋に突進と毛皮と寒さから守るための皮下脂肪が厚い。ベルゲルミル程ではないが高い防御力と突進時、時速50キロを超える足の速さで相手をひき殺す。
そして特に危険だと感じるのはそんな上位種の彼らが全て群れである事。
フェンリルが1番数が少なくて20頭ほど。ベルゲルミルで40頭、バイソンに関しては100を超えている。
もしこの群れを冒険者達が見たら絶望するだろうな。逃げ出すか、命がけで無謀に立ち向かうか、どちらか一方だろう。
他にもペンギン型モンスターのテイコウペンギン。雪ウサギの様なランクの低いモンスター達も群れでこの場に居る。
特に城に近い所に居るフェンリルとベルゲルミルはじっと俺の事を見ていた。
少し気になってじっと見て2頭を眺める。
「どうしたの人間さん?」
「怖くないよ。悪い人間しか殺した事ないよ」
「人間さんは悪い人じゃないから襲わないよ」
「大丈夫、大丈夫」
「いや、そうじゃないんだけどさ。ちょっと確認させてくれ」
そう言ってから俺は持ち歩いているホイッスルを取り出した。
別に何の特徴もないただのホイッスル。アルカディアのアイテムではあるが、特別な力は何もない。
でもこれを吹く事で音に敏感なモンスター達への合図になるから個人的に愛用していただけだ。
口にくわえて短くホイッスルを2回鳴らす。
すると俺の事をじっと見ていたフェンリルとベルゲルミルはゆっくりと膝を折った。フェンリルは完全に伏せ、ベルゲルミルは正座の様な形で座る。
ベルゲルミルは俺に鼻を伸ばし、フェンリルは何か期待するように俺の事を見る。
だから俺は2頭の鼻先を撫でた。
「久しぶりだな。フェル。ミル。元気そうで何よりだ」
2頭とも俺が育てたモンスターだった。
2頭とも鼻先だけとは言え嬉しそうに耳を動かす。
それを見た雪ん子達は驚いていた。
「人間さんすごーい!その子達滅多に撫でられないのに!」
「良いな良いな!人間さんは良いな!」
「私達が触っても嫌がらないけど、喜ばないもん!」
「ズルいなズルいな。人間さんはずるいな!」
さて。オチも見えて来た所だが、それならそれで都合がいい。
俺は2頭に少し待っていて欲しいと言ってから俺は雪ん子達に案内されて城に入る。
城の中は……見た目通り全部氷で出来ていた。
畳の様になっている所も、靴を脱いで入れておく下駄箱も全て氷で出来ている。見るからに寒そうな場所に靴を脱ぐ事をためらう。
「靴脱いで来てね」
「土足厳禁!」
「汚くするのダメ!」
「カカ様に怒られる!」
………………郷に入っては郷に従えだ。
俺は冷たくなる足を我慢しながら氷の廊下を靴を脱いで歩く。
中は全て氷で出来ているのに滑る様な事は何故かなかった。
そのまま3階まで上がり、氷で出来ているのに反射で奥が見えないふすまを開けた先には3人の雪女が居た。
夫婦でいると思っていたのに雪女だけで3人居るってどういう事だ?俺はてっきり謎の冬将軍が待ち構えている物だと思っていた。
そして中心に居る髪を上げている雪女は俺の知っている顔だ。
俺から見て左右に居る雪女は右側に居る雪女が右のサイドポニー、左側の雪女が左のサイドポニーをしている。
どちらも見覚えがある。俺が知っている顔とは随分と落ち着いて大人っぽくなったが、面影は残っている。
その3人が同時に正座したまま頭を下げて中心に座る女性が言った。
「お久しぶりですトト様。ナダレ、ミゾレ、アラレ、今日まで生き残りました」
「むしろ迎えに来るが遅くなって悪かった。帰ろう。アルカディアに」
そう言って手を伸ばすが、ナダレ達は覚悟を決めた様な表情をしながら首を横に振った。
「申し訳ありませんが、少々お待ちいただけないでしょうか。けじめをしっかりと付けてからトト様の元に帰りたいと思います」
「けじめ?一体何にけじめをつける気なんだ?」
「夫に対して、けじめをつけてからトト様の元に帰りたいと思っております」
…………話が見えない。
よく分からない事はちゃんと聞く。
「えっと……けじめってどんな内容なんだ?別にお前達の旦那と一緒にアルカディアに帰って来ても――」
「それに関してはご安心ください。私達は夫と離縁し、トト様の元に帰るつもりだったのです」
「え。え!?」
離縁ってつまり離婚したの!!
けじめって離婚届にサインしろとか、慰謝料払えとかそういう話!?
「トト様と一緒に居て気付けなかった私達にも非はありますが、あれは夫としてふさわしくありませんでした」
「お付き合いをしていた時はいい方だと思ったのですが、婚姻を結んでみればかくもだらしない。しかも家事や娘たちの世話は私達にまかせっきり」
「せめて娘達の世話ぐらい手伝ってくればいい物を、あの方々は一切してくれませんでした」
「「ですので離縁すると切り出しました」」
ミゾレとアラレが理由を言い、復縁するつもりはないという事を強く伝えてきた。
えっと……これマジでどう判断すればいいんだ?俺この年で娘の離婚話に付き合わされるってどういう事よ?
そういや今までの夫婦ってアルカディアで育った兄弟の中での結婚が多かったし、この世界の魔物と結婚しているのは初だ。
でもそれがいきなり離婚を決めたって言うのも何とも重い話だ……
『でもお姉ちゃん達は何でグリーンシェルに来たの?離婚して引っ越し先でも探してた?』
「それに関しては先日ヴェルトの気配を感じたからです。いえ、ヴェルトの気配その物は前から感じておりましたが、活動している様子がないので遠くから見守っていたというのが正しいでしょう。ですが先日ヴェルトだけの気配ではなく、ノワール兄様の他にブランの気配も感じたのでもしやと思いこちらに来た次第です。そして娘達にトト様の事を探させていたのです」
つまりこの間の出産騒動で色々気が付いたと。
そんで雪ん子達に俺の事を探させていたと。
「ならせめてさ、この吹雪どうにか出来ない?グリーンシェルの人達が困ってるんだけど」
「それは少々難しいかと。夫達も連合を作り、私達と離縁しないために色々と妨害しているのです」
「妨害ってまさか暴力的な――」
「私達の足に縋りついて『待ってくれ!もっと子供のあやし方上手くなるから!!』とか」
「『服の畳み方もう少しうまくなるよう頑張ってるから、もう少し長い目で見てくれ!!』とか」
「『お前以外に儂と一緒に居てくれるもんなんていないんじゃ!!出て行くなんてやめてくれぇ』っと泣きながら訴えてきたりしています」
思っていたより平和じゃね?
それに子供のあやし方とか服の畳み方とか結構日常的な話だな!
流石に最後のは俺から見ても情けないとは思うけど。
「と言うか、そもそもの原因は何なんだ?改善できないほどDV男とか、飲んだくれのダメ親父みたいなそういう感じではなさそうなんだが」
「……1番の怒りは手伝うと言って下手過ぎて結局邪魔になる事です。努力しているのは認めますが、全く身になる事はなく、イラつくのです」
ナダレ達はそっぽを向きながらそう言った。
これ結構と言うか、かなりしょうもない理由で離婚の危機になってるんじゃない?
まぁそういう小さなことの積み重ねが理由ってのは仕方がないような気がしないでもないけど。
とりあえず俺は悩みながら言う。
「とりあえずもっと詳しい話はアルカディアで話そっか。俺にとってこの城寒いし」
こうしてナダレ達とフェルとミル達を連れてアルカディアに帰るのだった。
より詳しい話を聞くために。
種族 雪女
ランク S
名前 ナダレ、ミゾレ、アラレ
和服を着た見た目は人間と変わらない人型モンスター。
とても華奢だが内包している力はとても強い。そんな力とは裏腹に地域によっては冬の間しか活動できないため儚い印象を受ける。
そんな儚い存在だからか愛や情に深く、依存しやすい。
補足
ナダレは儚い雰囲気を吹き飛ばす力強い雰囲気を纏っている。気が強いため、妹や弟を怒る係をしていた躾担当。
そんなナダレを恐れる兄弟達からのあだ名は『女帝』
俺から見ると極道の女と言う感じ。実際ブチキレると和服の上の部分を脱いで懐刀を取り出す。または氷で作った薙刀を振り回し始める。
ミゾレとアラレに関しては当時雪ん子だったため現在の性格に関してはあまり詳しくない。雪ん子だった頃は姉であるナダレに憧れてよくマネをしていたお姉ちゃんっ子。
ナダレを見て育ったからか厳しい雰囲気を纏っているが、ナダレに比べるとまだ童顔の様に見える。




