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アルカディア産野菜の価値

「俺、依頼で金貨もらったの初めてかも」


 アレクさんが俺から受け取った金貨の事を言った。

 護衛の依頼報酬は距離もよるが、大抵は銀貨で支払われる。大抵は隣の町までっと言うのが多いので1人の報酬は銀貨10枚ぐらいだと言う。

 国を跨ぐ時は獣や盗賊、魔物が襲ってくる可能性が高いので距離と言う意味だけではなく危険と言う意味でも1人辺り金貨1枚ぐらいになる事もあるが滅多にない危険だけど十分な報酬を与えられる額だと言う。

 さらに言えばどこかの豪商の大荷物の護衛をする時は複数のパーティーに依頼を出すそうなので金貨1枚の依頼はまずないらしい。


 なので俺が面倒なので4人への報酬として金貨1枚と言うのは破格の報酬だと言う。

 彼らは安全な寝床や食事を提供してもらったのだから1人銀貨5枚でも十分な報酬金額だと言ったが、俺はここまで安全に連れて行ってくれた事だけではなく、この世界の常識などの情報も教えてくれた事への礼、そして最後に俺のスキルに対しての口止め料っと言っておいたら微妙な表情をしながら渋々納得してくれた。

 そしてディースさんが聞いて来る。


「ドラクゥルさんはこれからどうするのですか?」


 そう言われて俺は少し考える。最も無難なのはゲームの力を使って農業をする事だろう。あのファーム内で採れた野菜を売る事で生計を立てる事は出来るはずだ。

 栽培速度や生産量に関してはこれまで通りゲーム基準で行う事が出来るし、1人だからって苦労する事もなさそうだ。

 俺はある程度考えてから言う。


「この町のどこかに家を買って、あとは例の場所で農業をして暮らしたいと思います」

「そうですか。それはきっとドラクゥルさんにとって良い事でしょう」

「ですね。我々の様に危険を犯す必要はないのですし、あの野菜の美味さならきっと高く買ってくれる事でしょう」


 ディースさんの言葉をライナさんが肯定した。

 その言葉に続いてメルトも頷き、アレスは残念そうな声を出す。


「でも今後はドラクゥルさんの美味い飯が食えなくなると思うと、残念だな~」

「遊びに来ればいいじゃないですか。命の恩人なんですから飯ぐらいごちそうしますよ」

「お、本当か!」

「アレス……品がありませんよ」

「ですね。あまりがっついていると嫌われますよ」


 そんな話をして俺達は別れる。

 俺はこの町に残って商人として生きていく。アレクさん達はこれからも冒険者として生きていく。

 俺はみんなと握手をしてからお別れを言う。


「みなさんと出会えなかったら町にたどり着く事すら出来なかったでしょう。本当にありがとうございました」

「おう。どこか遠出する時に護衛が必要って事なら俺達に頼んでくれ。力になる」

「聖龍様のご加護がありますように」

「また必ずどこかで」

「またね」


 こうして俺達は別れた。

 さてと、俺は家探しから始めますか。


 ――


 色々省略し、俺は街はずれの小さな一軒家を買った。

 町から遠いという理由と、単にボロッちいとい理由で投げやりに売り出されている様な家だ。その家は扉を開けるとすぐリビングで、もう1つ寝室があるだけの家だ。しかも長いこと誰も使っていなかったので埃まみれになっている。

 おかげで金貨1枚と言う破格の安さだ。いや、オンボロ具合から察してこれでも高い方かもしれないが。


 だが俺には本当の家であるあっちに住むつもりなのでこれは所詮見せかけの家だ。俺がファームに行く際の隠れ蓑として使うだけ。それに商人になると言ってもやはり拠点ぐらいはあった方がいいだろう。神出鬼没の商人ってカッコいい気がしないでもないが、基盤も出来ていないのに神出鬼没じゃ商売にならない。

 それでもしばらくはギルドに直接売りに行って、顔を広げる事から始めるべきか?よく分かんないからな……商売。ただ運良く売る物があるから商人を選択しただけであり、戦闘能力があればもっと違う道を言ってたかもしれないしな……


 まぁとにかく俺の家はこのオンボロの家だ。

 そしてそのほとんどをこの家で過ごすのではなく、ファームで過ごすので特に何もないけど。


 っと言う事でいつも通りファームで畑仕事をしてからその食材を持ってギルドに向かう。

 この世界に来て思った事は大型のスーパーの様な物はない事か。一般人と呼べる普通の人達が使うのは商店街と言うか、バザーみたいな露店である事がほとんど。野菜から肉、衣類やちょっとした小道具まで色々と売っている。

 そして武器や貴重な品となると店を構えた店が多くなる。どうやら売る商品によって店だったりバザーだったりとするようだ。今剣を売っているバザーを見付けたが、どれも同じロングソードであり、ロングソードしか売ってなかった。


 そして裕福な家庭っと言うよりは貴族向けの大型商店。百貨店の様な場所は存在した。

 どうやら会員制なのか、予約制なのか分からないが一見さんお断りと言う感じであり、その百貨店のような大きな建物に入っていく人もドレスを着たりタキシードを着た明らかに裕福だと分かる人達ばっかり。なのでそういう人達向けなのだろう。


 俺が分かった範囲ではバザー<店<百貨店の順でグレードアップしていく感じだ。

 はてさて、俺が作った野菜はどのあたりで売れるんだろう?


 そう思いながら俺は商業ギルドに向かい、俺の野菜の価値を知るためにワーカーさんの所に来た。


「いらっしゃいませ、ドラクゥルさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「はい。本日は野菜を見ていただきたくて参りました」

「野菜ですか?」

「家で作っている畑の野菜なんですが、売ろうにも価値が分からないのでどのように売ればいいのかも分からないのでこちらに相談しに来た次第です」

「承知しました。それでは支部長室にお越しください」

「え?野菜を見ていただくだけですよ?それなのにクウォンさんに頼んじゃって大丈夫ですか??」

「大丈夫ですよ。支部長はドラクゥルさんが入れて下さる商品にご興味がおありなので、ドラクゥルさんがいらっしゃったら自分の所に通すように職員に言っているのです」

「そ、そうですか。それではよろしくお願いします」


 向こう側がそう配慮してくれているのであればそれに甘えさせていただこう。

 俺はワーカーさんの案内で支部長室に行く。そこにはニコニコ顔でクウォンさんが待っていた。


「いらっしゃいませ、ドラクゥルさん。本日は野菜を見て欲しいと聞きました」

「はい。こちらがその野菜なのですが……見た事があるのはバザーの野菜と普通の店舗で見た野菜ぐらいですので、自分の野菜はどのような物か確かめていただきたいのです」


 そう言いながらアイテムから収穫した野菜を取り出し、3つの籠をテーブルに置く。

 内容は全て同じ野菜だが、品質が中、高、最高の3つあるからだ。

 これらの野菜は普通に俺達の世界でも食べられていたキュウリとかナスとかトマトとか、そう言った物も生産可能なのでバザーでゲーム内の食材と名前の違いなどを確認したが、品質以外は差はないので十分に売れると思った。

 だが売りに出す際にどのランクの物を売るのがいいのかとなると分からないので、こうして相談しに来たわけである。


「これらは全て同じ野菜ですが、品質が違います。なので実際にお手に取ってご確認していただけないかと思い持ってきました」

「なるほど、品質の違う野菜ですか。それでは少し確認してみましょう。それから彼を呼んで」

「承知しました」


 クウォンさんはワーカーさんに誰かを呼ぶように頼んだ。

 その間にもクウォンさんが例の片眼鏡で品質を確認していく。俺はこの世界での俺の野菜の価値はどんな物なんだろうと少しビビりながら待っていると、クウォンさんは驚いたように言う。


「これらの野菜はどれも素晴らしいですね。この私から見て右端の物がこの中で品質が最も低い物となっておりますが、これなら十分に店で取り扱う事が出来ます。そして真ん中の野菜ですが、これは完全に貴族向けとなります。野菜で最高と出たのはいつぶりでしょう」

「ありがとうございます。そんなにいい物なんですか?」

「とてもいい品ですよ。これらが安定して供給できるのであれば非常に大きな価値を得るでしょう。そして最後に左端の物ですが……鑑定できませんでした」


 鑑定できない?どう言う意味だろうと思っているとクウォンさんはどこか諦めた様な表情を作る。


「お聞きしますがこちらの野菜はドラクゥルさんが持ってきた野菜の中で最も品質の高い物なのですよね?」

「はい。こちらにある物が家で作れる最高の物となります」

「そちらを鑑定した時、この鑑定の付与魔法がされた片眼鏡では鑑定できないと表示されました。こんな事は初めてです」

「それって……品質が非常にまずいと言う意味ではなく?」

「そんなはずありません。この片眼鏡はそこら辺に転がっている石ころすら鑑定できる程の優れものですよ、それが鑑定できないとなればそれだけの価値を有していると言う事です」


 熱く語るクウォンさんに俺は押されていた。おっかしいな。これ俺が作った野菜なんだけどな?

 そう思っているとノックが聞こえ、ワーカーさんが誰かを連れて戻ってきた。

 その人は俺を睨む様に見る。俺は頭を下げると彼は俺を品定めする様に見続けた後クウォンさんに視線を向けた。


「支部長、この人ですか。新しい貴族向けの食材を仕入れてきたって人は」

「ああそうだ。ドラクゥルさん、彼は食品管理部の部長、ヴェルク君だ」

「ヴェルクだ。それで支部長、俺に何を食えと」

「ドラクゥルさんが持ってきてくれた野菜だよ。片眼鏡で鑑定はしたが味までは分からない。だから君の舌を借りたいんだ」

「……そう言う事でしたらご協力します。食っていいんだな」

「はい。食べてご確認ください」


 ヴェルクさんはどうも苦手だ。生真面目と言うか、堅物と言うか、気難しい感じがする。

 彼はクウォンさんの隣に座り、手に取ったトマトの形や色を確認した後一口食べる。そして何か確認する様に少し考える様な仕草をした後、次に手を伸ばした。

 中、高、最高の順でトマトを食べていくヴェルクさん。そして最高を食べた時、異変が起こった。

 最高品質のトマトを食べた時、急に眼を見開いてトマトだけではなく他の野菜まで急に食べ始めたのだから当然驚く。それは俺だけではなくクウォンさんもワーカーさんも驚いて見ていた。

 最終的にヴェルクさんは最高品質の野菜だけを全て食べきり、満足そうに腹をさすった後クウォンさんに言った。


「支部長、最高品質の野菜だけは市場に出ちゃダメです。これは……ヤバい」

「な、何かマズイ物で入っていたかね?」

「そうではなく単純に美味過ぎるんですよ。今まで食べてきた食材がまるでしなびれていた物の様に感じます。この最高品質の野菜を食べた後だと、その高品質の野菜すら賞味期限切れの野菜に見える」

「き、君にそこまで言わせるとは凄い品質だね……」


 クウォンさんは引き気味にそう言うと、商人の顔をして俺と話をする。


「それではこの高品質の野菜を買い取らせていただきたのですが、今はどれぐらいありますか」

「そうですね……すぐに売れるのは100個ですね。毎月100個仕入れるとすればいいでしょうか?それから種類はこちらになっております」


 そう言って1つのメモを渡した。それは俺が生産できる野菜の種類であり、どれが欲しいのか聞こうと思ったのだがすぐにヴェルクさんが言う。


「全種類売れるだけ売ってほしい。それぐらいの価値はある」

「わ、分かりました。ではそのように」


 ちょっと何か言いたげな表情をするクウォンさんだがこうして商談は終わったのである。

 とりあえずこの後倉庫に行って全種類の野菜をきっかり100個ずつ出したら金貨じゃ払えきれないっとのことで大金貨という物で支払われた。

 この大金貨は1枚100万円分の金貨だと言う。それを50枚入った袋を渡された。


 ………………これだけで一生遊んで暮らせるんじゃね?

 本気でそう思う俺であった。

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