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緑の神

 ヴェルトの妊娠が判明した事により事態は急速に進んでいく。

 まずはグリーンシェルにヨハネとヴァルゴが言って世界樹の異常の理由を報告し、無理矢理にでも納得させる。その上でダンジョンを一時封鎖、ヴェルトの上に居ると何かしらの危険が出てしまうかも知れないのでどうしてもこれは行っておきたい。

 しかし、ある意味予想通りと言うか何と言うか。世界樹と呼んでいた存在が実は超巨大な魔物であり、今度産卵するから人を入れないで欲しいと言うのは信じられないと言われたそうだ。

 でも信仰の対象として見てきた世界樹の異変をそのままにする訳にもいかず、理由は適当に作り上げて国民や冒険者達に伝える事を約束してくれた。


 そしてブランの計算によると産卵は遅くても1週間後とかなり早い。その理由は俺が来て栄養剤をぶち込んでエネルギーを送り続けてきたからだ。もしこれがなければ夏頃だったのではないだろうかとブランは言う。

 普通に考えると亀が産卵するのって夏のイメージ強いよね。俺だってそういうイメージだったもん。

 でもまさか1人で子供作ってたとはな……ブラドとカーミラ、ヨハネとヴァルゴみたいに子供達同士で子供を残しているパターンはあったけど……まさか単為生殖とはね……


 なんて考えながら背中の木に水をあげる。アルカディアで使っている水の方が栄養の吸収率が良くなるので使っていた。

 と言っても木があまりにもデカいので消防のホースみたいにどデカいのだが。

 そんな派手な水やりをしているとブランがむすっとした表情で俺の水やりを見ていた。


「パパ~。そんな風に水やりしてたら計算狂っちゃうよ。絶対一週間待たない気だよね」

「そりゃできるだけ早く生まれて欲しいって思いはあるからな。それとブランもそのうち単為生殖するのか?」

「パパのエッチ」


 顔をプイッと背けながら言うのでセクハラだったかもしれない。

 でもそう考えると他のSSSランクの子供達に関しても単為生殖してる可能性があると見た方がいいのかな。……他の子達も卵生なのか?

 とりあえず雄であるノワール達は別として……うちの子達単為生殖みんなできるのか?


「ノワールお兄ちゃん。パパがどうでもいい事で悩んでる」

「父さんはたまにああいう所あるから、放っておけばいい」


 それに無精卵だろうと有精卵だろうと一定周期で産むんじゃないのか?ゲームだと産卵とか出産とかなかったから分かんねぇんだよな……

 この辺りは実際に産んだ娘達に相談するしかないか。人型は多分無理だけど。


 ――


 そう思って3日後、グリーンシェルはまだ騒がしい。ダンジョンの一時封鎖に反対の声が集まっているとの事だ。しかも森の外に居る魔物達は普通の冒険者では倒せない物も多く、魔物の強さと冒険者達の強さが釣り合わないそうだ。

 しかも魔物達はヴェルトが出産で弱っている事を何らかの形で察しているのか、チャンスと見て活発に動いているらしい。ヨハネ達獣人組が中心となって強い魔物の討伐を行っているがそれはそれでありがたいが、自分達の弱さを見せつけられている様な気がして複雑な気分になるらしい。


 それからだがここのところ地震が多く起こっている。

 実際には地震ではなくヴェルトが落ち着かずに身をよじっている事で軽く揺れているだけだ。それにより今度は何も知らない爺さん婆さんが俺が世界樹に何かしたから神様の怒りを買ったのではないかと騒ぎ始めたらしい。

 昔の人原因不明の出来事を神様のせいにするのはよくないと思う。うちの子がもうすぐ子供産むからちょっと身をよじっただけで怒られる筋合いはない。

 それ以上にヴェルト達の世話になってるんだからそれぐらい見逃せや。


「パパ。そろそろだよ」

「分かった。孵卵器はいつでも使用可能だ。他のみんなはどうだ?」

「こちらも準備なし」

「網は既に使用可能です」

「魔物の殲滅は任せな」


 ブランの言葉を聞いて俺は改めてみんなに聞いたが問題ない。

 心強いと思っていると、ここ最近で1番大きな地震が起きた。


「来たぞ。全員準備付け!!」


 ――


「ですから!これは国からの命令でして――」

「なんで国の命令でダンジョンに潜れない様になるんだよ!!森の異常はこの間来た男のせいなんじゃないのか!!」

「このままじゃ食っていけねぇよ!!」

「このままだと薬草の在庫も底をつきそうなんです!せめて採取だけでも出来ませんか!!」


 冒険者ギルドの前でギルドの職員が他の冒険者達を抑えている間に、それは突然起きた。

 鈍く低い音が近くで聞こえた。冒険者達と街の住人達はその異変がどこから来ているのか不安になり、辺りを見渡す。もしかしたら森に入れなかった大型の魔物がこちらに向かってきているのではないかと思ったが、そんな情報も入って来ない。

 しかもその地震の間隔はどんどん短くなっていき、すぐそばで何かが起こっているのは分かるがどうなっているのかさっぱり分からないと言う恐怖が襲う。


 そして一瞬地震が収まったかと思って町の住人達はほっとしたが、次の瞬間今までにない大きな地震が起きた。

 その振動によりギルドの前に集まっていた人達はドミノ倒しになってしまい、しかも地震のせいで立つ事すら難しい状況に陥ってしまった。

 ギリギリギルドの入り口付近にいたギルドマスターは柱にしがみ付き、どうにかこの状況を判断しようとすると、今度は土が落ちてきた。


 みな這いつくばりながら今どんな状況になっているのか確かめようとすると、突然影が出来た。

 太陽が雲で隠れたのだろうかと見上げてみると、そこには巨大な頭があった。だがあまりにも巨大すぎてそれが本当に頭なのかどうか信用できないが、土などに混じって石や岩なども落ちてきた事により、ギルドマスターは慌ててギルドの前に居る冒険者達や町の人達をギルド内に招き入れた。


 ――


「お父様!!あれ、あれ見て!!」

「ああ。見ているよ、レオ」

「あれが……神のお姿……」

「ドラクゥルさんが言ってた事、本当だったんだ……」


 世界樹と呼ばれる木を背負う巨大な存在の1部が、国の中心にある城から見る事が出来た。

 何やら異常な地震を感じて窓や中庭から外の様子をうかがうと、偉大な森が少しずつ上に持ち上がっていく様子を捕らえた。

 少しずつ浮上している様にも見えた大いなる森は途中で浮上をやめ、何か凹んだような、洞窟のような物が見えた。

 様子をうかがっていると、そこからゆっくりとした動きで現れたのは亀の頭。つまりドラクゥルが言っていた世界樹の本体である神の目覚めを目撃した。


 森の民であるゴールドとシルバーから報告を聞き、さらにその長であるヨハネとヴァルゴが直接話に来た時は何事かと国王夫妻は思った。

 その内容は荒唐無稽とも言える内容で、あの森その物が1体の超巨大な魔物であると説明された時は耳を疑う。しかもその魔物が卵を産み落とすのでダンジョンを閉鎖して欲しいと言われればさらにだ。

 森の民の言葉をグリーンシェルの王として無視する事は出来ず、封鎖するよう命令したが……まさか本当に巨大な魔物が現れるとは思わなかった。


「教皇様はこの事を知っておいででしたか?」

「あら、一緒に報告をお聞きしていたと思いますが」

「それでもだ。改めて聞きたい」


 国王は近くで巨大な魔物を見てもあまり驚いていない様子の教皇に向かって聞いた。

 ライトは少し困ったような笑みを浮かべてから言う。


「そうですね。私の場合はドラクゥル様が言うのであれば真実なのだろうな、と言う程度の物です。あの方は色々と規格外ですので」

「うむ。我々を守ってきた神の御尊顔をこのような形で見る事になるとは、思いもしなかった」

「ドラクゥル様は我々の神の父でもあります。きっとこれは真実なのだろうと信じていただけです」

「信じていただけ、か。だが……本当にあの偉大な森その物が神だとは思いもしませんでした」

「ええ。それに関しては同意いたします。ですがこれが現実です」


 そう話し合いながらも緑の神を見守っていると何やら動き出す。どこかに向かったりしているのではなく、ただその場で足踏みをしているような動きだが、その巨体故に身体が動くごとに甲羅の上に乗っかっている土や岩が落ちて危険な状態だ。

 国王は大臣に聞く。


「ダンジョン周辺の人払いは済んでいるんだろうな」

「それが……話を聞いてくれなかった冒険者や一部の住人達が抗議に行ってしまいまして……」

「現在は」

「ギルドの中に避難したそうです。その後強力な結界のおかげで中の者達には被害はないと。それから事前にドラクゥル殿がおっしゃっていました、周囲の住宅などに関しても結界が施されており、被害は道に落ちた土や泥で汚れているぐらいの物です」

「そうか。ならば神が動きを止めた後に清掃する準備をせよ」

「は!」


 そう言われた大臣は直ぐに下がる。

 そしてレオ姫は同じように城で待機していたゴールドとシルバーに聞く。


「ゴールド様、シルバー様。神様は何をしていらっしゃるのですか?」

「ヴェルト様は卵を産むための準備しておいでです」

「後ろ足で土を軽く掘り、柔らかくしているのです」

「「それが終われば後は産むだけです」」


 2人は息の合った話し方をする。

 一応父と母であるヨハネとヴァルゴに魔獣がグリーンシェルに向かった際に防衛する役割を持ってこの城に居た。

 その2人の後ろには同じように若い獣人とスターエルフ達が控えており、いつでも迎撃に行けるようにしている。


 国中の者がヴェルトの行動を見守る中、動きが止まった。

 全身を震わせて、力を込めているのが遠くからでも分かる。そろそろ産卵が始まるのだと、全員が察した。


 ――


「急げ急げ!!もうすぐ産卵が始まるぞ!!」


 俺はブランの背に乗った状態で周りにそう叫んでいた。

 ヴェルトが動き出し、産卵の準備を始めてからブランの結界は解除している。その理由は町を保護するための結界と、生まれた後の卵を保護するためだ。

 そのためには残念ながらヴェルトを守る結界を張る事は出来ない。単に出力が足りないのだ。1つの大きな物を囲むぐらいなら大丈夫なのだが、あっちこっちに結界を張るとなると話は違ってくる。特に住宅街の結界は土砂から守るだけとは言え、弱い結界を多く張っているから大変らしい。

 だから今回は悪いがヴェルトには結界を張らずに行動している。


 そして今回はヨハネ達だけではなく天使達や吸血鬼達も巻き込んだ総力戦だ。

 どうやらさっきからヴェルトの周りにいる魔物達はヴェルトの産んだ卵を狙っている様なので、ぶっちゃけ殺す気満々だ。これからかわいい孫が生まれてくるというのにそれを食おうなんざ許す気はない。

 既に周りの魔物達は天使達の光の槍投げ大会により攻撃されている。槍が地面や魔物にぶつかると爆発し、確実に倒す。

 元々SSランクの力を持っているのだからこんな連中敵ではないが数が多い。撃ち漏らした連中が卵を食おうとするかもしれないのだから徹底的に滅ぼす。


『パパ!もうすぐ生まれるよ!!』


 ブランの声に素早く上を向くと、尻尾の付け根部分がひくひくと動いている。


「ヴァルゴたち!網の準備は大丈夫だろうな!!」

「問題ありません!!」


 スレイプニルに乗ったヴァルゴがそう叫んだ。

 卵の回収方法は1度地面の上に産み落とされた卵を網に包んで回収、その後俺がアルカディアに通じる穴を空けて天使達が上の方を持ち、ヴァルゴたちが下の方を持ってアルカディアに運ぶ。ヨハネ達はあの空爆を抜けられた魔物達を殲滅する役割を持っている。正直抜け出せるとは思えないが、一応だ。卵の近くで爆発する攻撃なんて出来ないし、出来るだけ安全に運びたい。

 ただ問題は卵が2つあると言う所。

 流石に10メートルの卵を包む網は1つしか用意出来なかったので、もう片方の卵はアルカディアに運ぶまで俺達が守らないといけない。


 ちなみにアルカディアに運ばれた卵は吸血鬼達が孵卵器まで運ぶ手筈になっている。ノワールはその指揮をしてもらい、同時に卵が無事であるかどうか確認してもらう。

 確認に関してブランにもしてもらうので一応2段階で確認だ。赤ん坊が10メートルと言うのはあまりにも規格外の様な気もするが。


 そう考えながらヴェルトの動きを確認していると卵が1つ落ちた。

 卵がヴェルトが柔らかくした土の上に落ちたのを確認してから追いかけた。もう1つの卵がいつ生まれるか分からないがまずはブランに先に落ちた卵の方を先に結界を張ってもらう。

 これで卵を動かしても中身は動かないし、安全に動かす事が出来る。

 ヴァルゴ達は素早く卵の近くに網を広げ、そっと卵を持ち上げる。華奢な身体に見えてもSSランク、魔法やら何やらで10メートルの卵を持ち上げるだけなら問題ない。


「もう1つ生まれるぞ!!」


 そして卵を網で包んでいる最中にヨハネがそう叫んだ。

 ヴェルトが産み落とした卵は丁度俺達が居る所と同じところに産み落とされたようで、ほぼ真上に卵が落ちて来る。

 これは流石にヤバいと思っていると、ブランが卵を空中で受け止めた!!


「ブラン!!」

『さ、流石に重いぃ……』


 10メートルの卵を即座に結界で包み、受け止めたのは流石だがやはり1人では受け止めるだけで精一杯の様だ。

 その様子を見て即座に動いたガブリエル達だが、これにより空爆の1部に空間ができ、魔物達の侵入を許してしまう。

 だが――


「させるか!!」


 ヨハネ達獣人達が本気を出して魔物達を殲滅する。

 彼らの本気は想像以上に凄まじい。1匹の獣としての力を存分に振るい、鋭い牙で魔物の喉笛を食い千切り絶命させる。

 特に凄いのは本来の姿に戻ったヨハネ。巨大な獅子の姿になって地面を攻撃の余波だけでえぐってしまうほどのパワーでたった1撃で魔物を10体以上倒す。


『パパ!こっちの卵はこのままお家まで運んでも良いかな!?』

「ちゃんと落とさず運べそうか!」

『ガブリエルお姉ちゃん達が手伝ってくれてるから大丈夫!』

「それじゃ一気に運んじまえ!!」


 俺は巨大なアルカディアに繋がる穴を空ける。そこにヴァルゴと鳥系の獣人達が一緒になって最初の卵を運び、2個目の卵をブラン達が運ぶ。

 当然魔物達も卵を追ってアルカディアに飛び込もうとしているがそれをヨハネとミカエル達が許さない。空爆と地上からの殲滅攻撃でほぼほぼ絶滅しかけていた。

 そうして卵をアルカディアに運ぶ終えると俺は穴を閉じた。

後は魔物達を殲滅するだけだと思っていると、ヴェルトの声が聞こえた。


『……ありがとう。後は、私がやる』


 そうヴェルトが言った直後、ヴェルトの足元から何やら緑色の蔓が魔物達をからめとった。その蔓は生きている魔物、死んでいる魔物に関係なく絡みつき、何か搾り取るような動きをした。

 すると魔物達は途端にミイラの様に干乾びる。

 これはまた何とも言えないえげつない攻撃だ。あの蔓から魔物の栄養を全て搾り取ってる……


 結果、魔物だった物は全て干乾びて骨だけを残して全滅した。これをチートと言わずに何と言うのか。

 そしてヴェルトは数歩下がってから手足を甲羅にしまう。頭だけは出して欠伸をした後、静かに眠りについたのだった。

 種族  グランド・アクーパーラ

 名前  ヴェルト・ドラクゥル

 ランク SSS


 広大な森を背負った亀の姿であり、世界に6体しかいないSSSランクモンスターの1体。司る属性は土であり、植物を操る力を持つ。

 様々な出来事に対して中立を保ち、静かに見守る存在。大昔から世界の声が聞こえると言う伝承も残っており、世界の意思を伝える者、と言われる事もある。


 補足

 ヴェルト・ドラクゥルは非常にのんびり屋で常にマイペースである。アルカディアに居た頃は1日中日向ぼっこをして過ごしていたり、寝ていたりする事が多い。

 兄弟達の中で真ん中あたりに生まれ、色々と世渡りが上手な気がする。小さな亀の状態で現れる時はよく畑のそばで眠っていた。

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