原因解明
レオと若葉がグリーンシェルの城に戻った後、魔物が勝手に掘って作ったトンネルを通ってノワール達はヴェルトの腹部を中心に調査した。
俺は今まで通り栄養剤の調整と種類を細かく確認し、ヴェルトに栄養を送り続ける。
そして他のみんなにはもし分けなかったが、ヴェルトの言う通り木が病気になっていたり、住んでいる虫や動物達からもウイルスらしき反応は現れなかった。
なのでヨハネとヴァルゴにはいつも通りの仕事の他に、不足していた薬草の育成に取り組んでもらう。
不足していた薬草と言うのはアルカディアにある薬草の事で、どうやらヴェルトの背中にも種がまぎれていたらしい。混じっていた種はアルカディアではだいたい中間ぐらいのランクの薬草で、ちょっとした風や傷薬として使っていたと言う。その間運よくと言うべきか、ヴェルトに守られていたと言うべきか、アルカディアで起こる大きな病気などにかからなかったようで何よりだ。
でもその薬草は在庫が底をつき、育成中だったそうなのでそちらにも簡単な栄養剤を渡しておく。ブランも日の光を強化しているので同じように薬草などを育てる手伝いをしている。
そしてその夜。
ノワールとヴラドからの調査報告を聞いていた。
「私の目や父さんから借りた機材で調べたところ、確かにヴェルトの下腹部に当たる所にエネルギーが集中していた。これがおそらく空腹感と腹部への違和感の正体だと思われる。エネルギー量はかなりの物で最低出でもSランクモンスター相当のエネルギーが集まっていた。そしてそのエネルギーが集まっている現象は現在進行形で行われており、今もなおエネルギーは下腹部に集中している」
「そしてノワールの目では見えない部分を父上から借りた機材で確認した所、エネルギーが集中しているのは2つあるようです。場所はほぼ同じで球体の物が2つ、ヴェルトのエネルギーを奪ってはいるが悪性の腫瘍なのではないと機材に反応が出ました」
「ありがとノワール、ヴラド。ヴラドの確認するがただの良性腫瘍って事はないのか?」
「体内に直接つながっているとも違うと感じました。体内で直接何かと繋がっている事はないが、それでもエネルギーをヴェルトから得ています」
「直接つながってないのにエネルギーを得ているってどうなってるんだ?体内とくっ付いていないなら確かにポリープや癌の類じゃなさそうだし、どうなってるんだ?なんかの結石みたいな感じだったとかは?」
「そこまでいびつな形でもありませんでした。確か結石はかなりいびつな形をしていましたよね?」
「そんなにきれいな球体だったのか?」
「はい。こちらをご確認ください」
そう言って渡されたのはエコー検査で撮影されたような写真。少し見辛いが確かに2つの球体がヴェルトの体内にある。
その写真を他の子達にも見せながら俺はつい転がってしまう。
「その丸いのが原因なのは分かったけど、取り除けばいいって問題なのか?というか取り除くとしても今すぐにはいかないだろ。肛門から直接入って切除する?そんな事ヴェルトも嫌がるって」
そう言って弱音を吐くと全員黙ってしまった。
それに除去と簡単に言ったが行動に移すとなると問題は山積み、グリーンシェルに言ってヴェルトを立たせて、しばらくダンジョンは封鎖。出来るだけ早く手術が必要なら行うが、1番の問題はこの巨体。数多くの種族が住んでいても問題がないほどに広大な森そのものであるヴェルトの手術?メスだのなんだの用意するだけでも大仕事だわ。
そう言った様々な制約と厳しい条件に悩んでいると、ブランが「ん~?」っと唸りだした。
「ヴラドお兄ちゃん。これって本当にお腹の中なの?」
「ん?ああそのはずだ。機材を使った際に距離も出たが計算上大腸付近だと思われる」
「もう1つ質問。大腸のどのへん?」
「肛門に大分近い位置だった。と言ってもヴェルト自身がかなり巨大なので付近と言っても数キロ先ではあったが」
ヴラドの答えにブランは何か考える。もしかしてこの原因に何か思い当たる事があるのかも知れない。
俺達はブランの答えに期待を込めながらも黙って答えを待った。
「ヴェルトお姉ちゃん出て来れる?」
そう聞くとヴェルトはあっさりと出てきた。
「……どうかした?」
「ヴェルトお姉ちゃん。お腹の違和感って具体的にどの辺?そこに手を置いて」
「……ここ」
そう言ってヴェルトが手を置いたのは腹と言うよりはほぼ股に近い。
それを見たブランは呆れた様にため息をついた後ヴェルトに向かって言った。
「お姉ちゃん。これ多分卵産もうとしてるんだと思うよ」
…………………………は?
「……私、卵?」
「多分そうだと思うよ。お姉ちゃんこの世界で日光と水以外でエネルギーを他に補給する方法とってないでしょ。ずっと土の中に居るんだから」
「……うん」
「それならお腹の中に何かある方が不自然だし、便秘とかになるとも思えない。ならお姉ちゃんの生態上産卵になるだろうね」
………………
俺は茫然となりながらもヴェルトに聞く。
「おいヴェルト。最後に産卵したの何時だ?この世界で産卵ぐらいしただろ?」
「…………してない。でも、こんなにお腹減る事はない」
「なら有精卵なんじゃない?そうでなきゃエネルギー消費がそんなに激しくなる事はないと思うよ」
そしてブランは何かを確認する様に瞳だけをドラゴンの物に変えた。
ダンジョンの入り口とは逆、尻尾の方をじっと見た後に確信して言った。
「おめでとうございます。双子みたいですね」
…………………………
とても長い静寂が訪れた後、ヴェルトは表情を変えずにどこか納得したようにしながら頷いた。
「……納得した」
ヴェルトのそんなのん気な声に俺は息を大きく吸い込んでから叫んだ。
「ヴェルトを孕ませた奴だ誰だあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「「そこ!?」」」」」
ヴェルトとブラン以外のみんながそう言ったが俺は気にせずヴェルトに問い詰める。
「だっておめでとうございますって事は有精卵って事だろ!!誰だ俺の娘に手ぇ出した奴!!このまま隠れてるつもりなら引きずり出してやる!!」
「ちょっとパパ!!確かに有精卵って言ったのはブランだけど、誰かとの子供とは限らないよ!!というかブラン達って他の子とエッチな事して子供出来るの!?」
「知らないが出来たって事はした奴がいるんだろ!!体のサイズも力も関係ねぇ!!とりあえず孕ませておいて放ったらかしのバカを殴らんと気が済まん!!」
「ヴェルトお姉ちゃん級の大きな人なんて多分いないと思うけど!?サイズの問題だけじゃないと思うけど!!それにどちらかと言うと、ちゃんと生まれる様にする方が大事だから!!」
ヴェルトは俺に問い詰められても困ったように表情を変えるだけで何も言わない。その代わりブランが色々とツッコんでくれるが、もし仮にヴェルトの事を孕ませた奴がいたとすればとりあえず殴る。
この世界の地元の人だろうと殴る。
「……分かったよ。超大型の爬虫類が単為生殖って普通ならあり得ないけどな。自分しか種族がいないからそういう本能が働いたとでも考えておくか」
そう考える事で俺は1度冷静さを取り戻す。
まぁ他にも子供達が俺がブチギレた事に驚いて震えていた表情などを見た事も理由だけどな。
でもそうなるとヴェルトが産卵のために一度立ち上がる必要がある事は確定してしまった。この事をグリーンシェルに伝え、ダンジョンの封鎖などをしてもらわないといけない。
そうなるとヴェルトの中から冒険者達が出ていく必要があるし、どれぐらいで復旧できるのか分からない。そしてヴェルトがいつごろ産卵するのか調べておく必要がある。
これに関しては命に関係しているブランに任せる方がいいだろう。ブランが卵の状態である新しい命に関して感じ取る事が出来たのは嬉しい誤算だ。
恐らくノワールが感知できなかったのはまだ生まれてすらいないからだろう。生物の魂と言う物がいつ現れるのか、それは誰にも分からない。仮に生まれた後に魂が宿ると言うのであればノワールが感知できなかった事も仕方がない。
俺はヴラドに聞く。
「ヴラド、卵の大きさはどれぐらいだ」
「直径約10メートルです」
「アルカディアの孵卵器の用意をする。それから卵をアルカディアに運ぶための輸送手段も考えておかないといけない。亀の卵はニワトリの卵よりも中身の黄身が崩れやすいから慎重に運ばないといけない。ヨハネとヴァルゴは明日朝一でグリーンシェルの城に向かうぞ。産卵の事を伝えないといけない。ブランはいつごろ生まれそうか計算しておいてくれ」
「それならドリームシルクがあるからそれを編んで大きな網を作らせます。最近新しい子達がサナギから孵ったので糸は十分にあります」
「なら俺達は生まれた時にしたから支える様にするか。ヴェルトの卵は守らねぇとな」
「後ヴェルトお姉ちゃんの産卵はそう時間はかからないと思うよ。私達がヴェルトお姉ちゃんに栄養を送ってるから思っているよりも時間は短いかも知れない」
「了解。それからヴェルト、産む時はちゃんと伝えてくれよ」
「……ん」
ヴェルトはそう言ってから姿を消した。
ヴェルトが卵を産むと言うのは嬉しい事ではあるが、規模が普通とは大違いなので産む場所を確保するだけでも大変だ。
最初とは違う所で忙しくなりそうだな。




