カイネで商人登録
その後俺はアレク達に守られながら街を目指した。
アレク達が拠点としている町、カイネはこの国、ホワイトフェザー国の端の方にある町だと言う。
この世界の大国は全部で6つ、ホワイトフェザー、カーディナルフレイム、アビスブルー、グリーンシェル、ライトフェアリー、パープルスモックだと言う。
他にも小さな国などは存在するがこの6か国に負けていてあまり景気はよくないとか。主にこの6か国で活動していれば問題ないそう。
そしてこの6か国の共通点は同じ宗教に属しているとの事。
ヘキサグラムと言う宗教団体であり、6柱居る神様の内の1柱を崇めている。
その1つがディースさんが所属している白夜教会だと言う。白夜教会は6柱の内の白の神を崇めていると言う。崇めるメリットは回復系の魔法が上達しやすい事、そのため自然と優しい人がこの団体に入る人が多いそうだ。
そんなカイネを目指して旅をすること1週間。
ようやく町に着いた。
「やっと着いた~」
俺の力のおかげで飯と夜寝る場所は安全とは言え、ただひたすらに歩く事はとても大変に感じた。
疲れ切った俺を見て笑うアレク達。アレクは俺の背を叩いて言う。
「もう少しで到着だ。気を抜くのはその後にしよう」
「でもドラクゥルさんが抜けるのは残念です。あの食事に屋敷を経験すると今後宿を使っても満足できるとは思えません」
「そうですね。あのベッドの柔らかさに美味しい食事。あれを経験すると他の宿では満足できなくなりますよね」
「毎日ぐっすり。お風呂気持ちいい」
他の3人も気に入ってもらえてよかった。
街に入って商業ギルドに入るまでは一緒に居てくれるがその先は俺1人で頑張って暮らしていかないといけない。
その事を考えて気を引き締める。
5人で町に入る列に並び、大人しく待つ。その間も身一つな俺の事を不思議そうに見ている人達が居たが仕方ないだろう。
そして俺達の番になり、アレクが先に俺の事を衛兵と呼ばれた人に説明する。
「彼はこの町に来る前にゴブリンの群れに襲われて身分証明書などを紛失しているんだ。彼が犯罪者や魔物でないから通して欲しい」
「ほう。それでは君はこちらに来てくれ。彼を連れてきた冒険者達もだ」
こうして俺達は詰所に誘導された。
ここで俺に犯罪歴がないかどうか調べると言う。ただし、調べる際には俺と衛兵の人達だけになる。時々悪い人達が魔法で誤魔化して町に入ろうとするから1人で答えないといけないらしい。
と言う事で俺の前には顔にけがのある中年のおっさんと、その後ろにいる槍を持った比較的若い衛兵が槍を持って待機している。
「これは君が嘘をついた時に反応する魔道具だ。すべて正直に話す様に」
「は、はい」
そう言っておっさんはテーブルに水晶を置いた。
いかにも占いとかで使う様な水晶だが、アレンが言うには正直に言えば問題ないとの事。
少し緊張しながらも俺はおっさんの質問に答える。
「まず君の名前は」
「ドラクゥルです」
「ゴブリンに襲われたと言うのは本当かね」
「本当です」
「この町に来た目的は」
「商人になるためにこの町に来ました」
この会話の際水晶は全て無反応。多分大丈夫だろう。
「では最後に。犯罪を犯した事はあるかね?」
「ありません」
水晶は最後まで無反応だった。
それを見たおっさんは後ろにいる衛兵から紙を俺に渡す。と言うか紙と言うより羊皮紙って奴かこれ?本物初めて見た。
「ではドラクゥル君。君がこの町に入る事を許可する。この羊皮紙は仮の滞在許可書だ。3日以内にギルドに所属するなどをしないと罰金として大銅貨3枚になるので注意する様に」
「分かりました」
こうしてこの町に入る事が許された。
アレクさん達が俺の事を責任もって送ると言う事で納得され、俺の代わりに入国料を払ってくれた。俺はきちんと金を稼いで返さないといけない。金の貸し借りだけはしたくない性格だから。
こうして無事町に入ると予想通り中世ヨーロッパ的な街造りの都市だった。
レンガ造りと思われる街並み、行きかう人、衛生面はそう悪くなさそうだ。
「へ~こう言う町並みが普通なんですか?」
「この国だとレンガ造りが多いですね。他の国だと流石に変わりますが」
ディースさんがそう答えてくれる。
となるとやっぱり場所によって変わると言う事なんだろうか。他の国がどれだけ遠いのかさっぱり分からないけど、まぁ頑張っていくしかない。
「こっちです」
ライナさんがこの町の商業ギルドを知っているらしいのでその後を歩く。
しばらく歩くと商業ギルドと書かれた大きなの店まで来た。結構人が多い様で出入りする人の数が多い。
ライナさんに促されるままギルドに入ると受付に通された。
「あれ、ライナさんじゃないですか。お久しぶりです。そちらの方は?」
どうやらライナさんと顔見知りの女性らしく、見た目年齢は30代半ばと言う感じだろうか。特別きれいでもない普通の赤髪の女性だ。
それに既婚者なのか指輪をしている。
「お久しぶりですワーカーさん。彼はドラクゥル、ゴブリンに襲われて身分証明書などを紛失してしまったので、再手続きをお願いしたいのですが」
「はい分かりました。ドラクゥルさんですね」
「よろしくお願いします」
他の3人は少し離れたところで待っている。俺達の事を見ながら話をして時間を潰すようだ。
こうして始まった俺の身分証明書作りだが、ふと思った。
俺この世界の文字読めるのか?
ワーカーさんは俺に向かって1枚の羊皮紙を出しながら言う。
「文字は読めますか?文字が書けないようでしたら代筆も行いますが」
そう言われて取り出された羊皮紙は……何故か読めた。
俺は「大丈夫です」っと言うとライナさんは少し驚きながらも俺の手元を覗き込む。
文字に関しても何故か普通に日本語で書こうとしたのに、この世界の文字で書く事が出来たのは俺自身驚きだ。この世界に来た事で何らかの補正でも受けているんだろうか?とりあえず便利だから文句ないけど。
ちなみに出された羊皮紙は今後直接どこかの店に卸さないと言う念書と、この商業ギルドに所属すると言う契約書だった。
俺は前半の商業ギルドに関する事を質問する。
「すみません。商業ギルドに卸す場合ってこの町のこの商業ギルド限定と言う事でしょうか?」
「そうではありませんよ。商業ギルドはこちらのマークがついた場所でしたら他国でも他の町でも降ろす事が可能です。それから直接卸さないと言うのは闇ギルドなどに間違って流通しない様にするためです」
「闇ギルド?」
そう言えばアレクも言っていた闇と言う言葉はこれに関する事だろうか?
俺は隣にいるライナさんの表情をうかがうと答えてくれる。
「闇と言う言葉ほぼ闇ギルドを指す言葉です。国に属さない非合法組織、主に暗殺や違法物の売買など様々な事をしている連中です。たまに冒険者ギルドで闇ギルドの討伐があったりします」
へ~。どんな世界でも悪い連中がいるって事か。俺みたいな素人じゃいつ襲われるか分からないから気を付けておかないと。
そしてそんな悪い連中に物を売らない様にするための契約書か。
なら問題ないと名前を書き込んで渡す。
「はい、これで完了です。こちらは商業ギルドに所属している証のプレートとなります。紛失した場合再発行に大銅貨1枚が必要になりますのでご注意ください」
「あれ?今回もなくしたんだけど?」
「ゴブリンなどに襲われた時などの場合は大丈夫ですよ。それに嘘を仰ってる訳ではないようですから」
ワーカーさんの手元には詰め所で使っていた水晶に似たものがあった。なるほど、嘘発見器はどこでもある感じだな。
渡された木の板をアイテム枠にしまって俺は続けて聞く。
「それでその、早速物を売りたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい構いませんよ。と言うかドラクゥルさんアイテムボックス持ちだったんですね、羨ましい事です」
アイテムボックス?それはスキルなのか魔法なのか分からないけど否定するのも変か。
俺は早速アイテム枠から小さな壺を2つ取り出した。1つは砕いていないコショウ、もう1つは砂糖だ。野菜を売るよりも調味料の方が需要が高いと聞いていたのでこの2つを選んだわけだが、これで大丈夫だろうか?
壷を置きながら俺はワーカーさんに中身を言う。
「片方は砂糖でもう片方はコショウです。買い取っていただけますか?」
「分かりました。今質を確認するのでお待ちください」
そう言ってワーカーさんは引き出しから片眼鏡を取り出してかける。
あれも魔法の道具だろうか?俺はライナさんに確認するように視線を向けると説明してくれる。
「あれは品を調べるための魔道具です。違法だったり間違った物を持ってきていないか調べる際に使用します」
「それじゃ魔物なんかを確かめる時も?」
「残念ですがあれは収穫した物や存在する物を調べるためですから魔物を調べる事は出来ませんね。それはそれ用で冒険者ギルドが持っていますが」
つまり品定め用って事か?言い方悪いけど。
そう思いながら待っていると、ワーカーさんはとても真剣な表情で言う。
「申し訳ありません、ドラクゥル様。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「え、あ、はい?」
急にワーカーさんが様と付けた事と、真剣な表情で言うから驚いてしまった。
訳も分からずワーカーさんに通された場所はどこか上質の部屋、偉い人と会う時に使う様な部屋だ。
ライナさんも俺の保護者枠みたいな感じで付いて来てくれている。「俺なんかしました?」「いえ、特には……」っとライナさんに聞いても何か変な所はなかったらしい。
しばらく2人で座って待っていると、ワーカーさんの他にもう1人太った中年男性が現れた。
誰だろうと思っていると、ライナさんが背筋を伸ばしたから偉い人なのかも知れない。
そして恰幅の良い中年男性は言う。
「初めまして、ドラクゥルさん。私はこの商業ギルドカイネ支部のクウォンと申します。あなたが持ってきたコショウと砂糖はとても上質な物でしたので、是非買い取らせていただきたいと参上しました」
「は、はぁ」
コショウと砂糖って言っても俺は普段から使っている物なので上質と言われてもよく分からない。
これもさっぱり分からないのでライナさんに視線で助けを求めたが、苦笑いで返された。
「それでですね、是非この2つを金貨15枚で買い取らせていただきたいのです」
その言葉にライナさんはびくりと反応した。
え~っと、確かアレクさん達に聞いた金の価値を無理矢理俺の知っている感じで言うと、銅貨は10円、大銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨は10万円………………
え!!コショウと砂糖で150万!?
「え、ちょ!」
「これほどまでに上質でピリッと来るコショウは初めてです。さらに雪のように真っ白な砂糖もとても素晴らしい。コショウに金貨10枚、砂糖に金貨5枚でいかがでしょう?」
「え、ええ~」
俺としては法外な額に驚いているだけなのだが、クウォンさんは俺の態度を不満と捉えたのかさらに言う。
「やはりもう少し高く売りたいですか……では金貨16枚でどうでしょう」
「あ、あの」
「もっとですか?では17枚」
「いえ、俺が言いたいのは――」
「では18枚!流石にこれ以上は値上げできませんよ」
「……それでお願いします」
これ以上うろたえた表情をすると訳の分からない額になりそうだ。
クウォン支部長はほくほく顔でいい買い物をした。みたいな表情を作っているが俺としては本当にそんな価値あるの?っと言う疑問しかない。
結果、ワーカーさんが金貨18枚を持ってきてくれたので、あっと言う間にここに来るさいのアレクさん達への借金は即日返済となったのだった。