森の民の最長老
ウリエル達のおかげで森に居る魔物達をあらかた減らした事によりその後の道のりも楽に進んだ。
ダンジョンに入ってから3日目、ようやく森の中心近くにまで近付いた。
「こうしてみると……本当にデッカイな~」
俺はそう言いながら世界樹を見上げる。
あまりにも大き過ぎて地上に生えている木が、本当に空を突き抜けている様に見えるのだからとてつもない大きさだ。まだまだ遠くに居るのでもっと近付けばより大きく見えるだろう。
薬の生産大丈夫かな……
「ここから先は本当であれば近付けません。例の霧によっていつの間にかダンジョンの入り口に追い返されてしまうからです。レオ姫様がいれば大丈夫と聞いていますが……」
若葉の言う例の霧に関しては冒険者達の中ではとても有名な話だ。今でも冒険者達の1部は世界樹に近付く方法を探しているらしい。
その理由は色々で、単にもっと世界樹近くに行きたいという者や、世界樹の周りには珍しい薬草が生えているという噂を信じていたり、世界樹には誰も知らないお宝があるという噂だったり、色々と呟かれている。
でもそれらはすべて根も葉もない噂であり、世界樹の根元には森の民が住んでいるだけだと王様達は言っていた。
しかしどこから情報が漏れたのか、森の民だけが使える薬草という物は確かに存在するらしい。その薬草を使った薬はありとあらゆる病に効き、死にかけていた人でもすぐに元気になれる程だとか。そこから薬草の話やお宝の話となって語り継がれていったと言う。
なので現在もその噂を信じて冒険者達はダンジョンに潜って世界樹に近付く方法を探しているそうだ。
ある物はダンジョンの上から行くのが正解だと言ってダンジョンの上部を目指し、ある者は世界樹の根に入り口があると信じて地下を進む。
王族達は真実を知っているけど、それが冒険者達のやる気に繋がるのであれば夢を壊す必要もないとして放ったらかしにしているそうだ。
「大丈夫だよ。このお守りがね、森の民の人達に会うためのカギ何だって。だからこれを身に付けてれば大丈夫」
そう言ってレオは首からお守りを出した。
そのお守りは日本のお守りの様に布製ではなく、木の板を彫って作られたようなお守りだ。精密に作られたお守りは裏側に巨大な木の絵が彫られており、表にはエルフと獣人と思われる2人の人が一緒に金色の木の実を受け取るような絵が彫られている。金の木の実だけはただ彫られているのではなく、金色の石のような物がはめられてるが、これが許可書のような物なんだろうか?
俺は森の中の冷たい空気を思いっ切り吸い込んで、ブランとノワールの手を繋ぎながら言う。
「それじゃ行くか。色々確認しに」
「そうだね。もしかしたらブランの力も必要かもしれないし」
「私も協力する。可愛い妹のためだからな」
そんな2人の言葉に俺は嬉しくてつい笑ってしまう。
何で笑っているんだろうと他の2人に不思議そうに思われたが、そのまま笑って誤魔化した。
そして俺達は世界樹に向かってまっすぐ歩く。その道は今までの様な獣道のような物ではなく、途中から舗装されている様な歩きやすさを感じた。
レオが先頭でその次に若葉、最後に俺達な訳だが、若葉は俺に向かって聞く。
「ところであれだけ大きな世界樹をどうやって治すんですか?いくらあの特別な場所があってもこの大きさの木を治すために作る薬の量だってバカにならないですよね」
「それに関しては他の子供達に色々準備して待機してもらってる。ある程度調べた後に経口摂取か、直接体内に薬をぶち込むか、とりあえず調べてみないと分からない。あと量産に関しては大丈夫なように待機してもらってる」
「大丈夫な様にって……あと経口摂取って何ですか?これ木ですよ?」
「俺の予想が正しければ口はあるよ」
そう言うと若葉は何度も首をかしげて俺の言葉を理解しようとしているが、やっぱり分からないという感じで首を振る。
まぁそれが当然の反応だ。世界樹の正体が分かっている俺達と、分かっていない若葉では理解しようがない。
しばらく歩いていると、霧が出てきた。
この霧でお互い離れてしまわない様に手を繋いだ。ブランと若葉、レオと若葉という感じで手をさらに繋ぎ、離れないようにする。
霧の中ではレオのお守りだけが緑色に光っており、道先をレーザーポインターの様に道を指し示す。
「ところでこの状態でどれぐらい歩けばいいんだ?」
「正直に言うと手を繋ぐ必要はないよ。ただこの光の先に向かって歩けばいいだけだから。それに手を繋ごうって言ったのはお兄さんでしょ?」
「いや~いつの間にか入り口に戻ってる、なんて聞くと相当濃い霧なんだろうな~っと思ってたからさ、こうして手を繋いだ方が安全かと思って。そんな必要なかった?」
「でもこれだけ霧が濃いとこの方が安全かも知れませんよ。私達の行き先を教えてくれるのはレオ姫様のお守りだけなんですから」
そう若葉もフォローしてくれる。
結局のところ、この少人数だし霧の中で魔物に襲われるという話も聞かないので手を繋いで行動しても問題ない、という事でそのまま進む。
レオの持つお守りの光を目印に進んでいくと、少しずつ霧が晴れてきた。もしこれでダンジョンの入り口に戻っていたらどうしようと思いながらも、この先が世界樹の近くに居る事を願う。
霧が少しずつ晴れてきて、見えたのは何とも不思議な場所だった。
世界樹の周りは普通の大きさの木があり、その木に家が建っている。ツリーハウス……というと一部屋分しかないイメージがあるが、ここにあるツリーハウスは全て家族で住めるぐらいの広さがある。
逆に地上には畑はあるけれど家はない。小屋の様な物ぐらいはあるが……精々物置小屋という所か。
さらに言うと今は冬なのにダンジョンに比べると少しだけ温かい。あくまでも外と比べての話ではあるが、結界で気温を保っているとか?ブランも似た様な事をしていたし、ここに住んでいる人達も似た様な事をしているのかも知れない。
そう思っていると2人の人が降りてきた。片方はエルフ、でも国に居た普通のエルフと違って上位種のハイエルフ。もう片方は獣人の中では高ランクに位置するライカンスロープという狼男の一種。どちらも寿命は普通のエルフより長い。
2人は丁寧に1度頭を下げた後、俺達を招き入れてくれた。
「どうぞグリーンシェルの姫君、そしてグリーンシェルが呼んだお客人」
「こちらにいらしてください。最長老様達がお待ちです」
そう言って俺達に背を向けて歩き出す。
俺達は2人を追いかけてはしごを上る。最長老とかいう人はこの世界樹の上の方に住んでいるらしく、ぶっちゃけ上るだけでも大変だ。ブランに関してははしごを使わずに飛んでいるし、その方が賢いかも。
でも空を飛べない俺達は素直にはしごを使うしかない。
最終的に俺は息を切らしながらはしごを登り切り、最長老達が使う会議室の前で息を切らしていた。
「やっべ……これ、キツ……ゲホ」
「確かにこれは……ある意味階段より大変かも……」
若葉も同意してくれたのは嬉しい。
それにしても……最初から随分とこの村?の人達に俺達みられてたな。特に俺。
ブランとノワールに関しても注意深く、警戒する視線を向けていたが俺に関しては違う。なんでこんなのが来たんだろう?力はないけど何か違和感を感じるっという視線を感じた。
多分俺がゲームの力を持っているからこそ感じた違和感だと思う。でもそれだと若葉の方にはあまり視線が向いていなかったような……
俺と若葉が呼吸を落ち着かせると、案内人の2人が言う。
「ここから先はみなさんだけでお入りください。最長老様達が使うこの会議室は一般の者は入れないのです」
「ですからここから先はみなさんだけが入る事になります。入ってすぐ会議室となっていますのでお気を付けください」
そんな風に言われると入る前にちょっとだけ身だしなみを確認する。さっきまではしごを上ってたから服とか汚れたり乱れてるかも。
そう思っているとノワールとブランが手伝ってくれた。ノワールは俺の服を乱れた所を、ブランは若葉とレオの服の乱れを直した。
準備が整うと案内人の2人が扉を開けてくれたので部屋に入る。
部屋の中は意外と簡素な作りであり、窓は2つしかなく、少し薄暗い。床は木製でその上に巨大な絨毯を敷いてある。絨毯には何らかの意味があるのか、複雑な模様が描かれている。
そして周りにはエルフと最上位の獣人達が俺達を囲むようにあぐらをかいている。そこには男性と女性が交互に座る様になっており、どちらか一方だけが強いという感じはない。
俺はその最上位の獣人達とエルフ達を全員見ると、周りの方が非常に驚愕した表情を作った。ここに居るのが信じられないという感じで、表情に出さないようにはしているが頑張って表情を崩さないようにしているのがまるわかりだ。
俺達はそんな彼らと同じところの中心に座り、あぐらのまま頭を下げる。ここではこのあぐらが正座のような物であり、男だろうが女だろうがこういった場ではこのように座るのが礼儀だとレオに事前に聞いていた。
そんな俺達が座る場所からわざとそう作ったであろう段差の先に、エルフの女性と獣人の男性が座っていた。
その2人はグリーンシェルの国王と王妃様のようなライオンの獣人とエルフの女性。
だが俺から見ればこの2人の方が格上だ。
2人とも俺と俺の隣りに居るブランとノワールに驚いていたが、少し眉を動かすだけだ。
2人は、と言うよりはここに居る最長老達は全員俺の子供であり、あの上座に座っている2人は名前持ちのモンスター。
ライオンの獣人の名前はヨハネ。エルフの名前はヴァルゴ。
見~付けた。
種族 ビースト・オリジン
名前 ヨハネ
ランク SS
全ての魔獣系モンスターの先祖。種族名は付いているが本来は名前のない怪物。
獅子の頭をしているが全ての魔獣の先祖と言う名の通りありとあらゆる動物の特性を持っているため、毒や呪いなども得意とする。
どれだけ傷付けられても即座に自然治癒してしまうため、大昔に神の手によって封印された。
補足
ヨハネは昔から親分気質であり、多くの弟や妹達に気に入られてきたが、その分上の兄や姉への反発も強い。喧嘩っ早い性格ではあるが家族と仁義を大切にする。
喧嘩している弟妹達を見ると大抵喧嘩両成敗っと言って両方とも軽く頭を殴られる。
特に極道物と不良物の映画などが好きでそれに影響されたとドラクゥルは思っている。
種族 スターエルフ
名前 ヴァルゴ
ランク SS
エルフ種の最上位個体。通常のエルフとハイエルフであれば得意な魔法は風のみだが、彼らはこの星の精霊と言われるほどになるので光と闇が以外の魔法全てを使える。
エルフの形をしているが性質的には精霊の方に近く、殺す事はほぼ不可能。
1部の文明からは神の代行者と言われ、天使の類と混合される事も多かった。
補足
見た目に関しては金髪で綺麗なお姉さんだが、その性格は男勝りの姉御肌。その性格のせいか同性のエルフにお姉様と言われて慕われている。
大抵の事は仕方ないなっと言いながら色々手伝ってくれるいい子。ただしヨハネとの仲は微妙でちょいちょい喧嘩をしている。理由はキャラが被っているらしい。
でも1番気が合うのもヨハネと言う事で複雑そうな表情をよくしている。




