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初めて見た

 グリーンシェルのダンジョンの入り口はギルドのすぐ裏の所にある。

 前はもう少し離れた所にあったらしいが、安全性を高めるためにここのギルドがダンジョンの前に建つ事で実力に見合わない冒険者がダンジョンに向かうのを阻止するためだという。


 なので俺達はギルドの裏に回ってダンジョンに入ったという記録を残すために名前を書く。その時に同時にどこかのギルドに所属しているという書庫として俺の場合は商業ギルドカードを提示する。ブランとノワールはどうするんだろうと思っていると、ブランの場合はホワイトフェザーの治癒師である事を証明するカード、ノワールは前もって用意していた冒険者カードを提示した。

 なんでも俺が野菜を売りに行っている間に冒険者ギルドに行って作ってもらっていたのだという。アルカディアに戻って来てから暇な時間が多かったので、時間つぶしにDランクまで冒険者ランクを上げていたらしい。


 一応このダンジョンの場合は最低Dランクから入れるようになっている様で、それ以下の冒険者は入れないらしい。

 非戦闘員である俺とレオは国からの許可、そしてちゃんと護衛である冒険者達が居るから問題ないと言う扱いだそうだ。でも本当は冒険者じゃない人をダンジョンに入られるのは禁止されている。無駄に死なせる未来しか見えないと。

 まぁその判断は何も間違っていないし、危険な所に一般人を入れさせないようにするためなのだから当然と言える。

 だから俺達はやむを得ない理由があるという事でダンジョンに入る事が許された。


 後小さい事だがパーティーを組む際には最大6人までだという。それ以上の場合はレイドと言われ、複数のパーティーが混合で行われると言う感じらしい。


 そして世界樹に行くにはこのダンジョンを歩いて約5日間はかかる。その理由はダンジョン内に生息する魔物との戦闘、トラップなどを避けるために時間を使うからだ。距離があると言う単純な理由もあるが、それ以上に障害物が多いのが理由らしい。

 さらに言うとこの5日間と言うのは最短ルートで都合よく進んだ場合の話であり、大抵の人は1週間ぐらいかかると言う。


 っと言うかこれ実は全部予想での話だそうだ。

 何でも世界樹に冒険者が近付こうとすると霧が発生して道に迷ってしまうのだと言う。それは森の民が世界樹を守るために張っている結界らしく、霧に包まれている間はトラップや魔物に襲われる事はないがいつの間にかダンジョンの入り口にまで戻ってしまうらしい。

 それでも各世代の王族達はその結界を通り抜ける方法があると言う。だから今回はレオが居るので俺達は世界樹の元に行けるはず。


 そしてダンジョンは全部で何階層あるのか不明だが、現在分かっているだけでも上の方に行くダンジョンは29階層、下は23階層まで突破されている。上に行けば行くほど、下に行けば下に行くほど狭くなっているらしいが、最も広大なのはこの第1階層。

 だってこの森全体が第1層って扱いになってんだもん。そりゃ広いよ。

 その分出てくる魔物も雑魚ばっかりと聞いているし、ダンジョンと言っても迷路の様になっている訳でもない。ただ1部魔物の群が居たり、ゴブリンの村が出来ていたりと時々放置しておくと面倒な事もあるらしいので適度に荒らしておく必要があるらしい。

 まぁほとんどの事は森の民が管理してくれているのでそこまで積極的でなくとも問題ないそうだが。


「ストップ。ゴブリンの群が居るから止まって。そこの木の陰に隠れましょう」


 そう言われて俺達は木の陰に隠れた。

 ちなみに今どのように歩いているかと言うと、先頭に若葉、中間に俺とレオとブラン、後ろにノワールと言う形で歩いている。

 先頭で歩いている若葉がそう言ったので俺は聞く。


「ところでここに居るゴブリンってどれぐらいの強さなんだ?」

「どれぐらいって……普通に雑魚じゃない。でも群れられると初心者はよく倒されちゃうから、正確に言うとちゃんと数を数えていれば問題ない。あと不意打ちとかにも気を付ければね。でも今回は……」


 俺も若葉の視線を追ってそっと覗いてみると、棍棒を持ったゴブリンが5匹ほど固まってうろちょろしている。

 確認した後に俺は戦いの初心者で、何の力もないのでプロに聞く。


「あの数はダメか?」

「そうね。私も戦闘は得意って言う程じゃないし、慎重に動くとすれば避けた方がいいかも。ノワールさんはどうですか?」

「私は今回案内されているから君の指示に従う。だがブランは結界も使えるから父とレオ姫の事なら放っておいても問題ない」

「え。ブランちゃん結界も使えるの?」


 意外そうな感じで言う若葉。確かに見た目は思いっきり子供だから回復魔法だけじゃなく結界も使えると言えば驚くだろう。

 ブランは素直に若葉の言葉に頷く。


「うん。私も攻撃は得意じゃないから一緒に結界の中に居るけど、回復だけでいいなら大丈夫だよ」

「ブランちゃんと一緒に2人の事も守れる?」

「大丈夫だよ。パパとレオちゃんの事守れるよ」


 そうブランが返事をしたので若葉は少し考えた後俺達に言う。


「それならゴブリン5匹を倒していきましょう。ノワールさんも手伝ってください」

「承知した。ブラン、防御は任せた」

「行ってらっしゃい」

「気を付けろよ」


 たかが普通のゴブリン相手に、SSSランクのモンスターが危険なんてないだろうけど、俺は心配して言った。

 それがおかしかったのか、ノワールは少しだけ笑った後「行ってきます」と言った。

 ブランは2人が飛び出してすぐに結界を張る。俺とレオを守るために半球体の結界を張ってくれた。


 そして若葉とノワールがゴブリンを倒す姿は一方的と言わざる負えない。

 ノワールはいつもの燕尾服のまま鋭い拳や蹴りだけでゴブリンを圧倒してしまう。いや、確かにSSSランクモンスターだから体力とか物理攻撃とか格上だけどさ、何であんな達人みたいな動き出来んの?早過ぎて俺の目には殴る瞬間とか全く見えないんですけど。しかも全ゴブリン一撃で倒してるし。

 それに比べると若葉は普通の動きをしているが……それでも手に持つナイフは非常に鋭い様に感じる。探索と採取を中心としていると言っていたが、十分戦えている様に見える。


 だが、1つだけ気になる事がある。

 それは若葉が持っているナイフ。あのナイフはこの世界にある短剣や双剣と言った短い剣の様な物ではなく、マンガやアニメで見る様な軍人が使うナイフの様に見えたからだ。

 刃の部分は少し厚めでここだけ見れば短剣の類と勘違いしていたかもしれないが、その逆の部分はノコギリと言ったら言い過ぎかもしれないが、それぐらいギザギザしている。

 あんなナイフこの世界で見た事がない。


 もしかしたらぐらいの疑問、予想でしかないが、もしかしたら若葉は俺と同じこの世界に送り込まれた人?


 なんて考えている間に1匹のゴブリンが俺達を見付けて襲おうと走ってくるが、その前にノワールのケリがゴブリンを捕らえ、他の木に激突して顔が潰れていた。

 その光景に少し吐き気を覚えたが、どうにか飲み込んだ。だが周りには他のゴブリンの死体もあって、ノワールに殴られて潰れた死体や、若葉の手によって着られた死体などが転がる。

 俺はとっさにレオの目を隠したが、遅かったかもしれない。でもレオは俺よりも平気そうで、俺の手を退かして言う。


「大丈夫だよお兄さん。このぐらい大丈夫」


 正直に言うと、本当にこんな小さな女の子が死体を見ても同様1つ見せない事に違和感を感じる。

 俺の知っている子供なら、この死と言う物を理解できずにいるか、理解してこの気持ち悪さに怯えると思う。でもこの子はそんなそぶりを見せない。

 その事にこの世界がどれだけ厳しい物なのか少しだけ分かってしまった様に感じた。

 5匹のゴブリンを倒した後、若葉はゴブリンの耳だけを切り落として袋の中にしまう。


「何してんの?」

「これはゴブリンを討伐したと言う証拠です。ゴブリンの場合は体内に魔石とか持っていないので、こうして耳を取っていく事で討伐した事を承認してくれるんです」


 つまりゴブリンを倒した証拠と言う事か。

 俺はこの世界で初めて死と言う物を目の当たりした。けれどこの若葉と言う少女も死を見慣れていると言うのはどうしてもおかしいと感じてしまう。

 俺がアルカディアで作った野菜を売って、アルカディアの家で寝ている間もこの子はこうして生きてきたと思うと俺はとても恵まれている。最初こそ育成ゲームの力で何の役にも立たないのではないかと思っていたが、こうして生活で来ているのだから想像以上に役に立っている。

 若葉がゴブリンに耳をすべて回収した後に、俺達はまた世界樹に向かって歩き出した。

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