冬になっても日常
結局クウォンさんには知り合いの薬師が俺の作っている薬草は規定に合わないと言われてしまったと言った。
それを聞いたクウォンさんは元々無茶ぶりだと思っていたのか、そんなに期待していた訳ではなかったようで笑って許してくれた。本当は効果が高すぎて渡せないなんて言えない……
その後世間話をしていたのだがやはり商人の人の話は商売に関する話の方が多い。なんでも冬が通常よりは早く来てしまっているそうで、あちこちで雪が降って流通が滞ってしまったり、悪い所では吹雪が起こっていたりすると言う。
自然災害が相手なのだから人間に出来ることなど何もなく、精々早く晴れないかな~っと願う事しかできない。
ちなみにアルカディアでも冬景色に変わりつつある。
みんな寒いからコートや温かそうな服に着替えているし、外でブラッディ・ピーチを収穫している大人達は手袋を使うようになった。子供達、特にミカエル達天使も寒さには負けるのか、薄い天使っぽい服から温かそうな白いもこもこした可愛いコートを着るようになった。
ちなみにこの服、元々はブランのために作られたものだったらしいが今で男性型女性型関係なく着ていると言う。
ミカエルとかラファエルは中性的な顔をしているから問題ないが、ウリエルみたいなはっきりと男性と分かる子達は毎年苦笑いをしているらしい。
ちなみにドクターのような蛇型モンスターは洞窟の奥でみんなで固まって暖を取ると言う。洞窟の深い所は気温が一定なのでまだ寒くないらしい。でも寒いからと言ってストーブを使う訳にもいかないのでサル団子ならぬ蛇団子でお互いの体温が下がらないようにすると言う。
ただ……その光景が黒い塊大量に絡み合って常に温かい中心に向かってうねうね動いている事からディースさんに見せたら即気絶するだろうなっと言う感想もあるけど。
それから意外に思われるかもしれないがノワールは特に寒さに弱いと言う事はない。まぁこの辺はSSSランクモンスターだからっと言う事で外気温が変化したぐらいでは動じないと言う感じ。
なのでブランも本当は冬服なんて必要ない感じかもしれないが、だからと言って寒い日に夏の格好をされてはこちらが見ていて寒いし、ブラン自身が女の子らしく様々な服に興味があって季節に合った可愛い服が着たいと言う事で冬服を着ている。
クウォンさんに謝ってギルドの外に出ると、夏の頃はあったバザーがもう1つも見当たらない。
さすがにこんな寒くて雪が降ってくる季節に外で商売をするほど困ってもいないと言う事なんだろう。バザーのほとんどがどこかの店の小売みたいなところが多いらしいので、無理に外で商売されても困ると言う事らしい。
それでも本当に冬でも金を稼がないといけない人はリュックに商品を詰め込んで行商に行くと言う。だが危険が多すぎるのでほとんどの人はしないとか。
なのでいつもよりも広く感じる道は楽に感じるが、同時にどこか寂しい感じもする。
いつものボロ小屋の中でアルカディアに帰ると、子供達が外ではしゃぐ赤ちゃん達を追いかけ回している。どうやら雪が降る前に遊ばせている事で赤ちゃん達がはしゃいでいる様だ。
それを子供達が遠くに行ってしまわない様に連れ戻そうとしている様だが……こういう時の子供の体力と言う物は凄い。いつまで外に居ても疲れないんだからな。
「お~元気そうだな」
「ご主人様。はい、このように元気です。ただ冬になるのでもう少し部屋の中に居てくれると良いのですが」
「まぁ冬に強い子達もそれなりに居るからそう言うタイプになるかも知れないし、もう少し様子を見るか」
「すでに色々と変わり始めている子達も居ますしね」
そう。赤ちゃん達はめでたく進化していた。
報告を受けたのはある日の朝で、1部の赤ちゃんが急に姿を変えた事で子供達が軽いパニックを起こしていた。
1番最初は闇属性の赤ちゃんで、朝になるといつの間にか黒い猫に変わっていたと言う事で非常に驚かれた。そりゃ顔しかないような姿の赤ちゃんが急に猫の姿になれば驚くか。
その辺りから赤ちゃん達は基礎段階の進化をし、光属性の赤ちゃんは真っ白な犬の様な物だったり、他の闇属性でも小さなサメのような姿になって空を泳いでいたりと色々な姿に変わっていく。
現在まだ進化していない赤ちゃんは少年が育てる赤ちゃんと、光属性の赤ちゃんが残っている。これから先どんなモンスターに進化するのか楽しみだ。
「お~い!チビ助たちは寒くなる前に子供達と一緒に家に帰るんだぞ~」
そう言うと赤ちゃん達はそれぞれのやり方で返事をする。普通に鳴いたり、ヒレを振ったり、ちょっとした魔法を発動させたり。ちなみに魔法に関しては豆電球の様な光を出すだけで危険は特にない。それでも赤ちゃん達が魔法を発動させたことに驚いている様子ではあったが。
俺はそんな様子を見てから家に帰ると、家では家で薪ストーブを焚いて家の中が暖かくなっている。と言ってもゲーム上の演出だけで実際に薪を消費するような事はないが。
そしてその前に西洋風建築には似合わないコタツがある。
俺は少し呆れながら首まで子達に潜っている奴に言う。
「まだそんなに寒くはないはずだぞ。ブラン」
「え~。冬と言ったらコタツ。コタツと言ったら首まで入る物でしょ?」
「それ以前にストーブの前でコタツって暑くない?」
俺は近くのイスに座りながらそう言うが、ブランは全く気にした様子はなく、首だけコタツから出して俺と顔が合う事すらない。
「パパだってよくやるじゃん」
「コタツだけならな。ストーブの前だと流石に暑い。それからコタツの上のみかんもちゃんと食べろよ、脱水症状になったらどっちか禁止な」
「む~。冬で1番の贅沢なのに……」
渋々と言う感じでブランはコタツの中から出てきて普通に座った。
俺はブランの反対側に座ってミカンを剥き始めるとブランが消えた。座ったばかりなのにどこに行ったんだろうと思っていると俺の股に何かが触れる。
何だろうと思って布団をあげるとブランがコタツの中でほふく前進をして俺の所にまで来ていた。
何してんの?と言う当然の疑問が俺の頭に浮かんでいる間にもブランはそのまま俺のあぐらの上であぐらをかき、口を開ける。
「……何してんの」
「みかんちょうだい」
「自分で剥いて食えよ」
「パパが剥いたのがいい」
「だってお前みかんの白い筋まで綺麗に取らないと食べないじゃん。面倒だからパス」
「可愛い娘の頼みを断るの!?パパ……いつの間にそんなに厳しくなっちゃったの……」
「生きた年数だけで言えば俺より圧倒的に長いはずのお前が言うか?それでも俺の子供だけど」
そう言いながらもどうせ食べさせてもらうまでずっと座っているのも目に見えているので、俺が食べる予定だったみかんをブラン好みの白い筋も取っていく。
それをブランの前に出すと口を開けて待つので俺はみかんを放り込む。
「今年のみかんは甘いか?」
「いつでも甘いよ。やっぱりいいよね~。季節に関係なく好きな時に好きな物が食べられるって」
「それに関しては同意するが、神様扱いされてるんだからもう少しだらしないの止めたら?」
「いいの。どうせお飾りだし、年に何回か結界を張るだけであとはミカエルお兄ちゃんとかライトちゃんがどうにかするもん」
「……あまり人任せにし過ぎるなよ」
「は~い」
気の抜けた娘の返事にため息がつい出てしまうが、娘が俺の膝の上で一緒にコタツに居ると言うのは何となく幸せだ。




