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冬なりました

 季節の変わり目だった秋も終わり、寒くなってきた。食料となる果樹などの葉は青々としているが街路樹などの葉は落ち切った。

 葉が落ち切って寒々しい様子の木と、いつも通り葉を付けている木が混じっているのは奇妙な光景だが、これがこのアルカディアの姿なのだから仕方ない。

 俺の服装も冬服に変わりつつ、今まで特に使ってこなかった服を着こんでいる。画面で操作していた時は服なんていちいち変える様な事しなかったし。


 それから子供達が育てているおチビ達はもうすぐ進化すると予想している。

 1番最初の赤ちゃんの状態だと進化までおよそ1週間~3週間の間である事が多い。食べさせたものや運動、睡眠など様々な条件が重なって進化する。だからこそ狙って進化させるのは難しいが、ただ育てて進化させるのはぶっちゃけ簡単なのだ。


 そんなある日。


「薬草……ですか?」


 商業ギルドに野菜を売りに行った時にクウォンさんに頼まれた。


「はい。今ダンジョン都市であるグリーンシェル、そして移動する大国、アビスブルーが冬の影響で中々薬草などが届かないのです。ですので生産していれば売っていただけないかと……」


 と言う事らしい。

 冬になった事で国交にも障害が出来てしまったようだ。冬になると海も荒れるし、ダンジョン都市のダンジョンと言う所では冬でも冒険者が活動しているらしいがその年からこちらに来るまでの運送が大変だという。

 そしてどちらも寒さのせいで予定よりも時間がかかっているそうだ。


「まぁ作ってないって事もありませんが……この世界の薬草と同じなのかな……」


 クウォンさんに聞こえないように最後の方を小さく呟く。

 何せ俺が作っているのはアルカディアで使用されている薬草であり、この世界に生えている薬草を育てているとは違う。

 それに野菜は食べるだけなので特に影響がないと考えて売っていたけれど、薬草を使うと言う事はケガか病気に使うという事だ。薬の特性もよく分かっていない俺がそう簡単に売っていい物ではない。

 俺は少し考えてから言う。


「すみません。少し知り合いに聞いてからでもよろしいでしょうか。薬として使うと言う事は誰かのケガを治すとか、病気を治すために使うんですよね」

「ええ。今回は普通のポーションを作る材料が必要なのであまり強く責任を持たなくても大丈夫なのですが」

「それでも人に使うと言う事は責任が出来ます。知り合いに薬に詳しい人がいるのでその人と相談してから販売するか決めさせてください」


 こうして俺は少しだけ待って欲しいと伝えてからアルカディアに戻ってきた。

 そして聞くのは当然ドクターとラファエルの2人である。まずはドクターから。


「ドクター。この世界のポーションってどんな効果があるんだ?」

『この世界のポーション?どんな物なのかによるけど……』

「この世界で一般的に普及されているポーションの効果ってどんなもんだ?」

『ああ、あのつまらないポーションか。あんなのただの水とそう変わらないよ。申し訳程度に回復力があるというだけであれを僕は薬だと思わない』


 ドクターは薬の効果などについて結構毒舌だ。特に対して効果のない薬について辛辣だ。

 一応このアルカディアにも病気と言うバットステータスは存在する。本来であれば俺自身が調合して薬を生み出す物なのだが、結構難しいのでレシピを購入するだけで手に入る薬しか作った事がない。

 それに対してドクターやラファエルは自分で作るので効果は2人が作った物の方が高い。俺が作る薬は失敗しないけど効果は普通と言う物だが、2人が作るとその特性やスキルの様な物のおかげでより高い効果を望める。


『しかし何で急に薬が欲しいと言い出したんだい?あんな粗悪品よりも効果の薬なら僕が調合して――』

「そうじゃないそうじゃない。今日野菜を売りに行った時に相手から薬草を売ってくれないかって相談されたんだよ」


 そう言ってからクウォンさんとの話を説明。

 その後ドクターはつまらなそうに言う。


『その粗悪品を作る材料がないから父さんに相談したって事か。それならやめておいた方がいいよ』

「何で?やっぱり種類が違うから?」

『それもあるけどアルカディアの薬草は向こうの世界では冒険者が命をかけて取って来る様な薬草しかないんだよ。前にノワールから聞いた』

「え、うちの薬草ってそんなに貴重な物だったの?」

『アルカディアでは普通、と言うよりは父さんが育ててくれているからこそ使えるんだよ。だから向こうで使っている雑草の代わりにうちの薬草を使ったらきっと誰が大量に持ってきたって大騒ぎになる』

「それじゃ品質の悪い薬草をわざと育てるとか……」

『それでも価値は変わらない。むしろ冒険者が持ってくる薬草のほとんどは父さんが育てる薬草の粗悪品状態だ。むしろその方が自然と買われるだろうね』


 う、うちと色々違い過ぎる。

 家で普通に使われている薬草が向こうでは超貴重で、こっちから渡せる薬草はないって事だ。

 ドクターはとぐろを巻きながら眠りにつく用意をする。


『ラファエルに相談しても似たような返事が返ってくると思うよ』


 そう言って寝てしまったので次にラファエルの元に行く。

 そしてその答えはドクターが予想した物と同じ物だった。


「そうだね……父さんの薬草畑から外に売るのは少し困るね。ドクターの言うように父さんの薬草畑から直接売るのは止めておいた方がいい。元々このアルカディアの事は秘密にしているし、これ以上不思議な事が出来ると知られるのは少し不味いんじゃないかな」

「ラファエルもそう思うか……それじゃこの話はなしにするしかないな」


 元々急な話だったし、断っても問題ないだろう。

 だがラファエルは別な所が気になったようで俺に聞く。


「ところでどうしてそんな話が来たの?」

「そりゃ冬が来て流通が滞っているからだろ?グリーンシェルとアビスブルーから届くはずの薬草が届いてないからって聞いたぞ」

「……そう。教えてくれてありがとう」

「お、おう」


 一体その事を聞いてどうなるんだろうと思いながらもクウォンさんに断り方を考える俺だった。

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